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第五章 2年目前半
第235話 王子の誕生日を前に
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フィレン王子の誕生日プレゼントと、ミール王国の建国祭の贈り物を考えているうちに、あっという間に1か月が経ってしまっていた。
フィレン王子の誕生日の翌々日には、私はエスカたちと一緒にミール王国へと向かう事になっている。
結局これといった準備はできずにいたので、あの時渡し損ねていたトレント木材を使った装飾品を誕生日プレゼントにする事にしたのだった。
(ミール王国の建国祭のせいで、すべてが吹っ飛んじゃってたものね。今回ばかりは流用で仕方ないわね)
私もすっかりその方針で固まってしまっていた。それもこれも、建国祭への招待をしてきたミール国王が悪い。私はそう思う事にして、自分に言い聞かせていた。
この建国祭への参加に伴って、参加する面々はみんな学園を2週間ばかりお休みしてしまう。国王やミスミ教官たちのおかげで一応成績に影響しないように配慮はしてもらえるらしいけれど、授業が飛んでしまうのは正直痛いわね。成績的に心配なのが居るからね、アーサリーとか。
まっ、武術型なら攻略対象に確か居たはずだから、どうにかなるでしょう。そういえば、ここのところずっとフィレン王子以外の攻略対象の影が薄いわね。私と関わる事は少ないから仕方ないかしらね。
週末に誕生日パーティーを控えたある日、私はサクラと話をする時があった。ただ、サクラの隣には婚約者のタンの姿もあった。こういうのは実に珍しい。
それにしても脳筋カップルの前にぽっちゃり令嬢とは、実に重い組み合わせよね。体重的に。
「お呼び立てして申し訳ございません、アンマリア様」
「いえいえ、私たちの仲じゃないですか。ただ、どうしてタン様がご一緒されていらっしゃるのかしら」
サクラの謝罪に、私は迷惑じゃないと返しておく。だが、邪魔者扱いされたタンが眉間にしわを寄せていた。
「おいおい、言ってくれるじゃないか。俺はサクラの婚約者だぞ。一緒に居てもいいじゃないか。今回はサクラに同席を求められたんだし、問題ないだろ」
「あらそうでしたのね。これは失礼しました」
事情を聞いたので、一応謝罪しておく私である。
「なあ、アンマリア嬢」
「何でしょうか、タン様」
続けざまに声を掛けてくるタンに、私はちょっと冷酷な態度を取る。
「サクラにプレゼントした装飾品、俺にもくれないか?」
「はい?」
予想外の注文である。
「いやー、婚約者としてお揃いのものを持っておきたいんだよ。それに、このブレスレット、魔力で形を変えるらしいじゃないか。サクラの魔力で変形できるのなら、俺の魔力でもおそらく可能だ。何と言ってもかっこいいしな」
なんともまあ、どうやらサクラの持つ魔力で変形するブレスレットを見たようなのだ。実際に変形するところまで。くっ、男子ってのはこういう変形ものには弱いのね。それはこっちの世界でもいっしょなのか……。
「申し訳ないですけれど、これは私では作れません。ですので、その願いは聞き届けられませんね」
私がこんな風に正直に答えると、タンはしょぼーんと俯いてしまった。なんて可愛い行動取ってるのかしらね。なんかちょっと可哀想になっちゃったわね。
「でもまぁ、タン様のお気持ちも分からなくはないですので、お作りになれる方に伝えてはおきます。作って頂けるかは別問題ですので、あまり期待なさらないで下さいな」
「ほ、本当か?!」
作られるかどうかは分からないと言ったのに、表情を明るくして私の方を見るタン。本当に子犬のような目で見ないでちょうだい。サクラが居るのについ頭を撫でたくなっちゃうじゃないのよ。私はぐっと堪える。
「ふふっ、私がこのブレスレットを見せてからというもの、タンはずっとこの調子でしてね。きっと作らないと駄々をこね続けると思います」
サクラが笑顔で言っているが、これはただの脅迫だった。
「無理なものは無理です。私からその事を伝えても、きっと却下されます。諦めて下さい」
負けじと私もきっぱりと断る。私が作るんじゃないし、エスカだけなら問題ないだろうけど、これ、モモも製造に関わる事になるから安易に了承できないのよね。ただでさえ王族に渡す分だけで数作ってもらってるわけだもの。これ以上の負担は認められないわ。ここは心を鬼にさせてもらうわよ。
「まあ、残念ですわね。というわけでタン、諦めましょう」
「ぐぬぬぬ……、俺は、絶対に諦めないからなーっ!」
サクラが折れたというのに、タンは結局折れなかった。あまりに騒がしいので、サクラは私にこそこそと耳打ちをしてきた。
「あのですね。このブレスレット、だいぶ扱えるようになりました。本当はこの場で見せたかったのですが、タンがこの有り様なのでやめておきますね」
そう言って、サクラはにっこりと笑っていた。
「そういえば、週末はフィレン殿下の誕生日パーティーですわね。今年はどのようになるのか、楽しみですね」
「ええ、とても楽しみです」
「うむ、本当に殿下は立派な方なので、今年もしっかりと忠誠を誓うつもりだ」
ええ、タンは毎年そういう事をしてるのね。まあ、継続はなんとやらとは言いますから、それはそれでいいのでしょうけどね。
「今年は近隣三国の王子王女が揃っての誕生日パーティーですから、本当に想像ができません」
そういえばそうだった。去年はアーサリーとエスカも居たのだけど、今年はそこにレッタス王子とミズーナ王女も加わる。王族だらけの賑やかなパーティーになりそうだった。
(どうりで、いつもに比べて王都の警戒が強くなっていたのね。三国の王族が揃うとなると、悪者にとっちゃ好都合だものね)
楽しみなはずが一転、急に怪しい雲行きを感じる私だった。まったくどうなってしまうのかしら。
フィレン王子の誕生日の翌々日には、私はエスカたちと一緒にミール王国へと向かう事になっている。
結局これといった準備はできずにいたので、あの時渡し損ねていたトレント木材を使った装飾品を誕生日プレゼントにする事にしたのだった。
(ミール王国の建国祭のせいで、すべてが吹っ飛んじゃってたものね。今回ばかりは流用で仕方ないわね)
私もすっかりその方針で固まってしまっていた。それもこれも、建国祭への招待をしてきたミール国王が悪い。私はそう思う事にして、自分に言い聞かせていた。
この建国祭への参加に伴って、参加する面々はみんな学園を2週間ばかりお休みしてしまう。国王やミスミ教官たちのおかげで一応成績に影響しないように配慮はしてもらえるらしいけれど、授業が飛んでしまうのは正直痛いわね。成績的に心配なのが居るからね、アーサリーとか。
まっ、武術型なら攻略対象に確か居たはずだから、どうにかなるでしょう。そういえば、ここのところずっとフィレン王子以外の攻略対象の影が薄いわね。私と関わる事は少ないから仕方ないかしらね。
週末に誕生日パーティーを控えたある日、私はサクラと話をする時があった。ただ、サクラの隣には婚約者のタンの姿もあった。こういうのは実に珍しい。
それにしても脳筋カップルの前にぽっちゃり令嬢とは、実に重い組み合わせよね。体重的に。
「お呼び立てして申し訳ございません、アンマリア様」
「いえいえ、私たちの仲じゃないですか。ただ、どうしてタン様がご一緒されていらっしゃるのかしら」
サクラの謝罪に、私は迷惑じゃないと返しておく。だが、邪魔者扱いされたタンが眉間にしわを寄せていた。
「おいおい、言ってくれるじゃないか。俺はサクラの婚約者だぞ。一緒に居てもいいじゃないか。今回はサクラに同席を求められたんだし、問題ないだろ」
「あらそうでしたのね。これは失礼しました」
事情を聞いたので、一応謝罪しておく私である。
「なあ、アンマリア嬢」
「何でしょうか、タン様」
続けざまに声を掛けてくるタンに、私はちょっと冷酷な態度を取る。
「サクラにプレゼントした装飾品、俺にもくれないか?」
「はい?」
予想外の注文である。
「いやー、婚約者としてお揃いのものを持っておきたいんだよ。それに、このブレスレット、魔力で形を変えるらしいじゃないか。サクラの魔力で変形できるのなら、俺の魔力でもおそらく可能だ。何と言ってもかっこいいしな」
なんともまあ、どうやらサクラの持つ魔力で変形するブレスレットを見たようなのだ。実際に変形するところまで。くっ、男子ってのはこういう変形ものには弱いのね。それはこっちの世界でもいっしょなのか……。
「申し訳ないですけれど、これは私では作れません。ですので、その願いは聞き届けられませんね」
私がこんな風に正直に答えると、タンはしょぼーんと俯いてしまった。なんて可愛い行動取ってるのかしらね。なんかちょっと可哀想になっちゃったわね。
「でもまぁ、タン様のお気持ちも分からなくはないですので、お作りになれる方に伝えてはおきます。作って頂けるかは別問題ですので、あまり期待なさらないで下さいな」
「ほ、本当か?!」
作られるかどうかは分からないと言ったのに、表情を明るくして私の方を見るタン。本当に子犬のような目で見ないでちょうだい。サクラが居るのについ頭を撫でたくなっちゃうじゃないのよ。私はぐっと堪える。
「ふふっ、私がこのブレスレットを見せてからというもの、タンはずっとこの調子でしてね。きっと作らないと駄々をこね続けると思います」
サクラが笑顔で言っているが、これはただの脅迫だった。
「無理なものは無理です。私からその事を伝えても、きっと却下されます。諦めて下さい」
負けじと私もきっぱりと断る。私が作るんじゃないし、エスカだけなら問題ないだろうけど、これ、モモも製造に関わる事になるから安易に了承できないのよね。ただでさえ王族に渡す分だけで数作ってもらってるわけだもの。これ以上の負担は認められないわ。ここは心を鬼にさせてもらうわよ。
「まあ、残念ですわね。というわけでタン、諦めましょう」
「ぐぬぬぬ……、俺は、絶対に諦めないからなーっ!」
サクラが折れたというのに、タンは結局折れなかった。あまりに騒がしいので、サクラは私にこそこそと耳打ちをしてきた。
「あのですね。このブレスレット、だいぶ扱えるようになりました。本当はこの場で見せたかったのですが、タンがこの有り様なのでやめておきますね」
そう言って、サクラはにっこりと笑っていた。
「そういえば、週末はフィレン殿下の誕生日パーティーですわね。今年はどのようになるのか、楽しみですね」
「ええ、とても楽しみです」
「うむ、本当に殿下は立派な方なので、今年もしっかりと忠誠を誓うつもりだ」
ええ、タンは毎年そういう事をしてるのね。まあ、継続はなんとやらとは言いますから、それはそれでいいのでしょうけどね。
「今年は近隣三国の王子王女が揃っての誕生日パーティーですから、本当に想像ができません」
そういえばそうだった。去年はアーサリーとエスカも居たのだけど、今年はそこにレッタス王子とミズーナ王女も加わる。王族だらけの賑やかなパーティーになりそうだった。
(どうりで、いつもに比べて王都の警戒が強くなっていたのね。三国の王族が揃うとなると、悪者にとっちゃ好都合だものね)
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