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第五章 2年目前半

第232話 魔改造

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「はあぁぁ~……。できたわよ、コンチクショー!」
 数日後、エスカは部屋の中で乱暴な言葉を叫んでいた。
「エスカ王女殿下、その言葉の意味はよく分からないですが、そういう言葉遣いはやめた方がよろしいかと存じます」
 トレント木材を文字通り魔改造し終わったエスカは、面倒くささから机に突っ伏している。その時に出た言葉でモモから思い切り諫められていた。確かに、王女が言うようなセリフじゃないと思う。
「お疲れ様です、エスカ王女殿下」
 モモが居るために、敬称付きで声を掛ける私。すると、エスカはくるりと顔を私の方へ向けてきた。その表情はどういうわけか、ものすごく恨めしそうなものだった。
「……私に文句を言われても困ります。まさか、陛下の目に留まっているとは思いませんでしたけれどね」
 私は淡々と言い訳をする。だけど、エスカの表情はジト目のまま、私の方を見続けていた。
 こうなるのも無理はないかも知れない。国王一人分ならまだしも、どういうわけか王妃と二人の王子の分まで作らされたのだ。これ、結構魔力を使うらしいので、エスカは見ての通りテーブルに対して突っ伏しているのである。
 この様子を見ていた私は、なんとかこれを自力で作れるようになれないかと考えた。これだけ魔力を使うのであれば、恩恵を魔力へ、そこから脂肪として取り込む私にとって体にぜい肉をつけずに済む方法になりうるからだ。実際、大掛かりな魔法を使う事によって体は徐々に痩せてきている。今は80kg前後を行き来しているので、さっさともっと下まで持っていきたい。なにせ、フィレン王子はゲーム中での設定では70kg未満を満たさないとエンディングに進めないものね。
 なので、エスカにやり方を聞こうとすると、
「アンマリアはこれだけ見てるんだから自分でできるでしょ!」
 どういうわけかものすごく怒られてしまった。やっぱりこれだけ疲れている時に声を掛けたのは失敗かしらね。
「分かりました、エスカ王女殿下。今度自分でやってみますね」
 私は素直に反省したのだった。
 まあ、それはともかくとして、国王たちに渡す魔改造トレント木材が完成したのである。あとはこれを国王たちに好きな形に変えてもらうだけだ。
 サクラの時は誕生日プレゼントなので加工はこちらでさせてもらったけど、木材状態以外への変形は変に魔力の癖がついちゃう可能性があるから今回は避けておくという事よ。別に面倒だからというわけじゃないからね。
 ともかく、頼まれたトレント木材はでき上がったので、今週末にでも城へ行って渡す事にしようとエスカやモモと相談して決めたのだった。

 そんなわけで、翌日の学園。
 私はフィレン王子に会うために武術型の講義棟へとやって来た。授業があるわけでもないので、魔法型の学生であり私のような太った体格ともなればものすごく目立ってしまっていた。
 でも、用事は重要な事なので、そんな視線を気にすることなく、私は武術型の教室へと顔を出したのだった。
「フィレン殿下はいらっしゃいますか?」
 教室に顔を出すなりそんな事を言う私。ものすごい数の視線が一斉に私に集中する。
 教室の中が騒めく中、私に最初に近付いてきた人物が居た。
「アンマリア様。どうされたのですか?」
 サクラだった。そういえば同学年だから居ても当然だわね。
「いえ、今日はフィレン殿下に用事があるのですが、……いらっしゃらないかしら」
 私が教室中を見回すものの、フィレン王子もアーサリーも見当たらなかった。ありゃりゃ、これはどうしたものか。
「私がどうかしたのかな?」
「うっひゃあっ?!」
 突然後ろから声がしたので、素っ頓狂な声を上げて驚いてしまう私。そのせいで思わずバランスを崩してしまう。
(あっ、これやばいやつ……)
 突然の事で受け身が取れそうにない。ところが、
「大丈夫かい、アンマリア」
 ぷるぷると震えながら私を受け止めているフィレン王子が居た。私みたいな太った人間を受け止めて大丈夫なのかしらと心配になるのだが、ちゃんと腕だけではなく体全体で受け止めているのでどうにかなっているようだった。咄嗟なのにスペックが高いわ、この王子。さすがは乙女ゲームの最難関攻略対象。
「あ、ありがとうございます、フィレン殿下。突然でしたので、大げさに驚いてしまって申し訳ございませんでした」
「いや、私の方こそ急に声を掛けてすまなかったね。無事でなによりだよ」
 私が謝罪すると、フィレン王子も謝罪してきた。
 とにかく私はフィレン王子から離れるようにして体勢を立て直すと、こっそりと治癒魔法を使っておいた。あの分だと多分捻挫してそうだったもの。
「フィレン殿下、アーサリー殿下。用事は済んだのですか?」
「ああ、ちょうど終わらせてきたところだ。フィレン、すまないな。親父からの急な申し出のせいで付き合わせてしまって」
「構わないさ。私も国の第一王子としての務めがあるからね」
 二人の会話から察するに、ミール王国の国王から何かしらの話があって、二人揃って呼び出されていたようだ。ちょっと待って、こんなイベント知らないんだけど?!
「それで、ちょうどよかった、アンマリア。君もこの後、ちょっと城まで一緒に来てくれないか?」
「えっ? 事情はよく分かりませんが、承知致しました」
 そんなわけで、相談のつもりで来たというのに、よく分からないうちに城に呼び出される事になってしまったようだった。一体何が起きるというのよ?!
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