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第五章 2年目前半
第229話 こんな誕生日パーティー、ありですか?
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そうしてやって来たサクラの誕生日パーティーの日。会場はもちろん王都にあるバッサーシ辺境伯の屋敷である。
王都で学園に通っている間は、この日に合わせてバッサーシ辺境伯夫妻もこの屋敷にやって来る。その間、領地はそのさらに両親である、前辺境伯夫妻が面倒を見る事になっている。バッサーシの人間が年を多少取ったくらいで衰えるわけもないので、安心して任せて来れるのだ。さすが脳筋の一族。鍛える事に関して右に出る者は居ないのである。
ただ、今年の桜の誕生日パーティーは日中である。これは単純にバッサーシ辺境伯側の都合によるものだった。
「こういうパーティーが日中に行われるっていうのは珍しいわね」
「そうですね、お姉様」
「バッサーシ辺境伯がそう言ったのなら、そうなってしまうんだよ。王国最大の魔物の発生地帯で守護してきた一族だから、我がままなんて簡単に通ってしまうものなのだよ」
「バッサーシですものね」
「うう、私の家は南側でよかったですわ」
馬車の中でわいわいと話をしている私たち。だけど、家が近くになるにつれて、その緊張感は半端ないものとなっていった。
バッサーシ辺境伯邸に着くと、もうすでにかなりの人数が集まっていた。今回は王国騎士であるミスミ・バッサーシも姿を見せるとあって、例年以上の人が集まっているようだった。ミスミ教官ってそんなに人気があるのね……。
「これはファッティ伯爵、お待ちしておりました」
会場の入口に居た使用人が私たちに挨拶をする。もちろんそれを受けるのは当主たる父親だけれどもね。ただ、エスカを無視するのはやめたげて。仮にも王族ですからね?
ところがどっこい、そのエスカがまったく気にしていない。本人が気にしてないのならいっかと、私はツッコミを入れるのをやめる事にした。誕生日パーティーだから、余計な波風立てるのはよろしくないものね。
今日の誕生日パーティーの会場は、なんと中庭だった。なるほど、これなら日中に行われるのも仕方がない話だった。なんといってもこの日は天気がいいものね。雲一つない見事な青空よ。
私たちが会場入りすると、会場内の視線が一気に私たちに集まる。この注目にエスカは気分を良くしたのだが、よく見るとその視線を集めているのは他でもない私だった。私はエスカを慮って黙っておいた。
私たちより後に来たのはマトン公爵家とブロック侯爵家などごく少数だった。どうやら私たちもかなり後の到着だったようである。まあ、父親が城勤めの大臣ですものね。伯爵家とはいえど、立場は結構上の方なのよね。
だが、最後の最後で大きなゲストが現れた。言うまでもない、国王たち王家の面々だった。アーサリーに加えてベジタリウス兄妹も来ていた。辺境伯の娘の誕生日にしてはとんでもない来客じゃないかしらね。普通一般貴族のこういう催しに王族は参加しませんわよ?
それにしても、リブロ王子は完全に回復して普通に歩けているようだった。あれでも入学した時にはまだ後遺症が見られたんですけどね。無事に回復してよかったわ。
王族たちの入場を見届けて、バッサーシ辺境伯による挨拶が始まる。
もちろん、最初はバッサーシ辺境伯が国王たちに跪いて挨拶するところから始まる。そこにはミスミ・バッサーシの姿もあった。いやあ、ミスミ教官の服装が騎士の制服になっていたので、一瞬誰だか分らなかったわ。似合い過ぎてるし、かっこいいわね。
それにしても、これははっきり言って辺境伯令嬢の誕生日パーティーでする事じゃないわよね。まず国王が来る時点でおかしいもの。いくら国の安全に貢献しているとはいっても、本当に不思議でならなかった。
しかし、その理由がその直後に分からされる。
「さあ、サクラよ。この私と打ち合って、お前の成長を陛下にお見せなさい」
「はい、ミスミおば様。私もバッサーシの人間です。国を守る剣や盾となりましょう!」
なんと、サクラとミスミ教官が国王の前で模擬戦を行うというのだ。
いやいやいや、今日ってただの誕生日パーティーでしょ? どうしてこうなった!
こう思っているのはどうも私だけではない様子。会場内からはどよめきの声が上がっているので、おそらく会場の総意だと思われる。
私たちの困惑をよそに、バッサーシ邸の使用人が木剣を持ってきて、サクラとミスミ教官それぞれに渡していた。
こんな物騒な誕生日パーティーなんて見た事がないわよ。
そう思っていたら、バッサーシ辺境伯が二人の間に立ち、
「始め!」
試合開始を宣言していた。流れるような進行で隙がない!
会場がどよめく中、サクラとミスミ教官の打ち合いが始まっている。その戦いはとても生半可なものではなかった。本物の剣だったら、おそらく命がないじゃないかというくらい本気の打ち合いだった。そっか、それでサクラはドレスじゃなくてパンツスタイルだったのね。
しかし、そこはまだ学生と現役王国騎士。力の差は歴然だった。
最初こそミスミ教官がかなり抑えていたのでいい勝負をしていたのだが、徐々に本気を出し始めると、あっという間にサクラは劣勢に立たされてしまった。ミスミ教官の攻撃を凌ぐので精一杯。いや、凌げているだけでもすごい。
「うむ、さすがミスミ、我が妹だな」
バッサーシ辺境伯の言葉からも分かる通り、ミスミ教官の圧勝だった。サクラもよく頑張ったと思う。
「サクラ、これからも精進するように」
「はい、おば様」
あれだけ打ち合った後だというのに、二人揃って呼吸が乱れていない。さすが脳筋の一族は違う。
こんなすごい戦いを見せられた会場は、しばらくの間静まり返っていたのだった。
王都で学園に通っている間は、この日に合わせてバッサーシ辺境伯夫妻もこの屋敷にやって来る。その間、領地はそのさらに両親である、前辺境伯夫妻が面倒を見る事になっている。バッサーシの人間が年を多少取ったくらいで衰えるわけもないので、安心して任せて来れるのだ。さすが脳筋の一族。鍛える事に関して右に出る者は居ないのである。
ただ、今年の桜の誕生日パーティーは日中である。これは単純にバッサーシ辺境伯側の都合によるものだった。
「こういうパーティーが日中に行われるっていうのは珍しいわね」
「そうですね、お姉様」
「バッサーシ辺境伯がそう言ったのなら、そうなってしまうんだよ。王国最大の魔物の発生地帯で守護してきた一族だから、我がままなんて簡単に通ってしまうものなのだよ」
「バッサーシですものね」
「うう、私の家は南側でよかったですわ」
馬車の中でわいわいと話をしている私たち。だけど、家が近くになるにつれて、その緊張感は半端ないものとなっていった。
バッサーシ辺境伯邸に着くと、もうすでにかなりの人数が集まっていた。今回は王国騎士であるミスミ・バッサーシも姿を見せるとあって、例年以上の人が集まっているようだった。ミスミ教官ってそんなに人気があるのね……。
「これはファッティ伯爵、お待ちしておりました」
会場の入口に居た使用人が私たちに挨拶をする。もちろんそれを受けるのは当主たる父親だけれどもね。ただ、エスカを無視するのはやめたげて。仮にも王族ですからね?
ところがどっこい、そのエスカがまったく気にしていない。本人が気にしてないのならいっかと、私はツッコミを入れるのをやめる事にした。誕生日パーティーだから、余計な波風立てるのはよろしくないものね。
今日の誕生日パーティーの会場は、なんと中庭だった。なるほど、これなら日中に行われるのも仕方がない話だった。なんといってもこの日は天気がいいものね。雲一つない見事な青空よ。
私たちが会場入りすると、会場内の視線が一気に私たちに集まる。この注目にエスカは気分を良くしたのだが、よく見るとその視線を集めているのは他でもない私だった。私はエスカを慮って黙っておいた。
私たちより後に来たのはマトン公爵家とブロック侯爵家などごく少数だった。どうやら私たちもかなり後の到着だったようである。まあ、父親が城勤めの大臣ですものね。伯爵家とはいえど、立場は結構上の方なのよね。
だが、最後の最後で大きなゲストが現れた。言うまでもない、国王たち王家の面々だった。アーサリーに加えてベジタリウス兄妹も来ていた。辺境伯の娘の誕生日にしてはとんでもない来客じゃないかしらね。普通一般貴族のこういう催しに王族は参加しませんわよ?
それにしても、リブロ王子は完全に回復して普通に歩けているようだった。あれでも入学した時にはまだ後遺症が見られたんですけどね。無事に回復してよかったわ。
王族たちの入場を見届けて、バッサーシ辺境伯による挨拶が始まる。
もちろん、最初はバッサーシ辺境伯が国王たちに跪いて挨拶するところから始まる。そこにはミスミ・バッサーシの姿もあった。いやあ、ミスミ教官の服装が騎士の制服になっていたので、一瞬誰だか分らなかったわ。似合い過ぎてるし、かっこいいわね。
それにしても、これははっきり言って辺境伯令嬢の誕生日パーティーでする事じゃないわよね。まず国王が来る時点でおかしいもの。いくら国の安全に貢献しているとはいっても、本当に不思議でならなかった。
しかし、その理由がその直後に分からされる。
「さあ、サクラよ。この私と打ち合って、お前の成長を陛下にお見せなさい」
「はい、ミスミおば様。私もバッサーシの人間です。国を守る剣や盾となりましょう!」
なんと、サクラとミスミ教官が国王の前で模擬戦を行うというのだ。
いやいやいや、今日ってただの誕生日パーティーでしょ? どうしてこうなった!
こう思っているのはどうも私だけではない様子。会場内からはどよめきの声が上がっているので、おそらく会場の総意だと思われる。
私たちの困惑をよそに、バッサーシ邸の使用人が木剣を持ってきて、サクラとミスミ教官それぞれに渡していた。
こんな物騒な誕生日パーティーなんて見た事がないわよ。
そう思っていたら、バッサーシ辺境伯が二人の間に立ち、
「始め!」
試合開始を宣言していた。流れるような進行で隙がない!
会場がどよめく中、サクラとミスミ教官の打ち合いが始まっている。その戦いはとても生半可なものではなかった。本物の剣だったら、おそらく命がないじゃないかというくらい本気の打ち合いだった。そっか、それでサクラはドレスじゃなくてパンツスタイルだったのね。
しかし、そこはまだ学生と現役王国騎士。力の差は歴然だった。
最初こそミスミ教官がかなり抑えていたのでいい勝負をしていたのだが、徐々に本気を出し始めると、あっという間にサクラは劣勢に立たされてしまった。ミスミ教官の攻撃を凌ぐので精一杯。いや、凌げているだけでもすごい。
「うむ、さすがミスミ、我が妹だな」
バッサーシ辺境伯の言葉からも分かる通り、ミスミ教官の圧勝だった。サクラもよく頑張ったと思う。
「サクラ、これからも精進するように」
「はい、おば様」
あれだけ打ち合った後だというのに、二人揃って呼吸が乱れていない。さすが脳筋の一族は違う。
こんなすごい戦いを見せられた会場は、しばらくの間静まり返っていたのだった。
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