上 下
226 / 485
第五章 2年目前半

第226話 特訓あるのみ

しおりを挟む
 王妃による王族に近しい者たちだけのお茶会は、最終的には和やかな雰囲気の中で終わる事ができた。その中で、エスカは王妃から城で過ごすように改めて諭されていたというのに、それを突っぱねて私の家で過ごすと言って聞かなかった。いくら王女だからといってもわがままが過ぎる。
 いくらモモも慣れてきたとはいえ、あんたは王族なんだから、もうちょっと体裁とか考えてちょうだいよ。迷惑するのは私と家族なんだからね。
 特定の貴族が他国の王族と親しくしていると、あらぬ噂を立てられてしまうものなのだ。貴族社会というのはそういうものなのよ。
 だけど、もう今さら感が半端ないので、私も諦めている。父親ももう気にしていないみたいだし、もうこのままでいいわよね。将来的には私かサキが王妃になるわけだから、今から親交を築いているという風に押し通せるものね。はあ……。
 さて、王都で起きた謎の痩せる呪いの事件の調査は、先日のお茶会で正式に国に任せる事になった。

 あれから一週間経った今も、城の精鋭の魔法使いたちの手によって調査が進められている。調査の進行具合などは父親を通して私の耳にも入ってきている。それを聞く限りは、魔力の痕跡が複雑で追い切れないといった感じのようだった。現状では広く聞き込みを行っているという状況なのだそうだ。
 さて、その同じ一週間の間だけど、私はサキの魔法の面倒を見ていた。そこにはモモも加わって、二人して悪戦苦闘中である。お茶会からまるっと一週間たった休みの日だというのに、サキは家まで押し掛けてきて私に教えもらおうとしていたのだ。
「はあ……。やっぱり難しいですね」
 サキは相変わらず思うようにトレント木材の杖を変形できないでいた。
 なんでも、武術型の講義棟にまで出向いて剣をじっくり見せてもらったのだとか。そこまでしたというのに、まったく成功しないのである。
「焦ってはいけませんよ、サキ様。焦りは余計に制御を乱します。一度そうなってしまいますと、なかなか失敗から抜け出せなくなってしまいます」
 私はとにかくサキに落ち着くように言い聞かせる。ちなみにその目の前ではモモが同じように変形させる事に苦戦していた。エスカはうまくやっているだけに、ここにも転生者か否かという差が出ているのかも知れない。そう思うと、この世界の人物は想像力に乏しいのかも知れないわね。
「エスカ、やっぱりこれって……」
「ええ、転生者かどうか、それがはっきりに差として出ていますね」
 こっそりエスカに確認してみたら、やはり同じような考えを持っていたようである。現実を見たらそう思っちゃうわよね。
「お姉様、一体どうしたらいいんですか~……」
 私たちが話をしていると、モモが泣きそうな顔をしながら私に声を掛けてきた。
「やれやれ、仕方ありませんね。ちゃんと押しますから、見てて下さいね」
 私はトレント木材の棒切れを取り出すと、二人の前にすっと差し出した。
「いいですか、とにかく頭に変形させるものを思い浮かべながら、この杖に魔力を通していくんです。モモも誕生日前倒しで杖をプレゼントしたんですからね、しっかりと使いこなせるようになって下さい」
「はい、お姉様」
 しっかりと言い聞かせると、モモは真剣な表情で返事をしていた。気合いだけなら十分なんだけどね。この世界の住人たちはごく一部を除けば本当に要領が悪いというか何というか……。こういうのもこういう異世界転生ものの定番よね……。だけど、真剣な二人を前にため息を吐けるわけもなく、私は心の中で盛大にため息を吐いていた。一体、こういうため息を何回吐けばいいのかしらね。
 そんなわけで、いろいろと難しいところもあるわけだけれど、モモとサキもこの日一日をかけて、ようやくなんとなくの要領を掴んできたようである。
 さすがにまだ剣は無理ではあったものの、大きなペーパーナイフくらいになら変化できるようになってきていた。手紙ならそこそこの頻度で見る事があるから、手紙を開ける道具であるペーパーナイフはどうにか想像できたみたいだった。……ただ、大きさがかなり大きい。杖の元の大きさより小さくするのは無理なようだった。
「それだけできれば進展はあったという事で問題はありませんよ。慣れてくるとこういう連続変化もできるようになりますからね」
 私はそう言いながら、棒切れを鞭にしたり、ハリセンにしたり、木剣にしたりと、トレント木材七変化を決めていた。この光景には、モモもサキも「おおっ!」と声を上げていた。
「さすがはお姉様ですわ!」
「むぅ、私も負けていられませんね」
 それぞれに反応をする二人である。向上心がある事はいい事だ。
 しかし、それもいつまでも続けているわけにはいかないわけで、すっかり辺りは夕暮れに包まれてきたために、この日はお開きとなってしまったのだった。
「それでは、私はサキ様を家まで送ってきますね」
「はい、お姉様。サキ様、また明日お会いしましょう」
 モモはそう言って、エスカと一緒に屋敷の中へと入っていった。そして、私は瞬間移動魔法を使ってサキを家まで送り届けたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

そして乙女ゲームは始まらなかった

お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。 一体私は何をしたらいいのでしょうか?

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

処理中です...