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第五章 2年目前半

第225話 痩せたいんですけど……

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 王妃主催のお茶会だというのに、いきなり重い話題をぶっこんできた。
 多少の情報はミズーナ王女から王家に話はいっているだろうけど、この場を借りて事件に関わった私とサキから聞き取りをするつもりなのだろう。ほんっとうにあの事件を起こした奴は許さないからね!
 本来であればヒロインであるアンマリアが100kgオーバーの際に起きる痩せ薬事件である。リアルとなったこの世界では、条件に関わらず、状況を違えて起きてしまった。私たちが近付かない平民街の一角だったがために無事だったものの、これがゲームと現実の違いだという事をまざまざと見せつけられたのだ。
 それにしても、お茶会というのはどうやら名ばかりといった雰囲気のようだわ。明らかに空気が重いもの。
 最初の問い掛けの後に、王妃からはあの一件を重大な事件として位置付けた事も語られていた。
「痩せているというのは、私たちの間では重要な事です。ですので、この話には大いに興味があるのですよ」
 王妃が熱弁している。やっぱり女性って痩せていたいものなのね。分かるわ、その気持ち。
 だけれども、あの一件に関してはただ事ではないので、しっかり報告しておかなければならないと思う。
「王妃様、よろしいでしょうか」
「なんですか、アンマリア」
 勝手に発言していいかとは思ったけれど、直前に問い掛けられていたからまあいっかと思う私である。
「サキが言うには、あの一件は呪いによって引き起こされた事が分かっています。しかも、解呪するには相当の魔力が要る事も分かっています。あの時は力の加減が分からなかった上に、サキが張り切ってしまったので、三人揃ってかなり危うい状態になりました」
 私がこう話すと、近くに座るサキが恥ずかしそうに縮こまりながら顔を下に向けていた。そりゃまあ、結果的に王都全体から呪いを消せたわけだけれど、死にかけたとあっちゃ恥ずかしくなるわよね。
 ちなみに私がサキの事を呼び捨てで呼んでいるのは、目の前に王妃が居るから。敬称をつけて話す場面じゃないのよ。
「ふむ、痩せるのはいいですが、呪いとあっては話は別ですね。兵士たちに命じて早々に犯人を見つけないといけませんね」
 呪いと聞いて、深刻な話だと顔を曇らせる王妃。こんなとんでもない呪術師が王都に居るというのは、にわかに許しがたい事だった。
 もちろん、サーロイン王国としては呪術師を忌み嫌っているわけではない。今回の相手は危険と見たからこそ、このような意見になるのである。
「ところで、サキ、あなたからは何かないのですか?」
 王妃から話を振られるサキ。その瞬間、サキの体が大きく跳ねて、がくがくと震え始めた。王妃に直接話し掛けられて、緊張が最大となったようである。だが、サキも王子の婚約者という立場だ。王妃には慣れてもらわないと困る。なので、この段階では私も助け舟は出さなかった。
 しかし、サキは私に助けを求めて泣きそうな顔をしている。頼むからそんな目をしないでちょうだい。
「お姉様。助けてあげて下さい」
 モモが小声で私にそんな事を言うものだから、私はやむなく助け舟を出す事にした。
「サキ、ここは聖女であるあなたしか知らない情報をしっかりはっきりと言うべきです。サキにしか分からない情報なのですから、私たちにできる事はありません。とりあえず、私が横に立っていますので、しっかりと王妃様の質問に答えるのですよ」
 こっそりといきたいところだけど、注目がサキに集まっている上に私の巨体では到底こっそりなど無理なものである。視線を感じるくらいにものすごく目立っていた。
 しかし、そんな事を気にしている場合ではないので、私は堂々とサキの隣に立って手を握ってあげる。驚いていたサキだけれども、私が力強く頷くと表情を引き締めていた。
 そこでサキから出てきた証言もまた、耳を疑うようなものだった。
「そんな事が、可能なのですか?」
「可能とは言い切れませんが、今回の事は間違いないです。建物に呪いを掛けて、訪れた食事をする客にだけ影響が出るような呪いになっていました。それが証拠に食堂の主人は影響を受けていません」
 確かにサキの言う通りだ。建物内に居る人物全員に影響が出るようなものであれば、食堂を経営する主人がもろに影響を受けているはずである。だが、食堂の主人にはそういった影響が出ている様子はまったくなかった。これはなかなかに器用な呪いだった。となると、呪いを使った呪術師は、相当の手練れである可能性が高いという事である。というわけで、調査をするにしても慎重に行った方がいいと、サキは話していた。
「あい分かりました。陛下と騎士団長に伝えておきましょう」
 王妃はそう言って話を区切ったのだった。
「さて、長々と重い話をしてすみませんでしたね。ここからは明るい話題をして参りましょう」
 王妃がこう言って手を叩くと、更なるお菓子が運ばれてきていた。
(うわあ……、勘弁して。せっかく痩せたっていうのに、また太っちゃうわよ)
 そのお菓子の量に、さすがに絶句してしまう私とミズーナ王女である。私の横ではエスカがくすくすと笑っている。転生者の中では唯一普通の女性に生まれたものね。あとではっ倒させてもらうわよ。
 それにしても王妃様、さすがに言ってる事とやってる事が違いすぎませんかね?
 私は心の中で思い切り抗議をするのだった。
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