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第五章 2年目前半

第223話 いくら名前が鶏由来だからって……

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 今日の授業が終了した後、私はサキを連れて学園の訓練場へとやって来た。許可はミスミ教官に貰ってきた。
 先に私がトレント木材の棒切れを取り出す。
「このトレント木材はただの棒切れだけど、扱う者の想像力と魔力で、いくらでもその姿を変えますわ」
 私はそう言うと、イメージしながら棒切れに魔力を流す。そして、力強く一振りすると、棒切れは木剣へと変化していた。あまりの早変わりに、サキは「おおっ」と声を出していた。
「慣れてくればもっとすごい事もできると思いますよ」
 そう言いながらも、私はもう一度魔力を流して棒切れを変化させる。すると、木剣はみるみる鞭へと姿を変えていた。
「本当に、姿を変えていってしまいますね。あの実に硬そうな木材が、こんな簡単に姿を変えてしまうなんて、目の前で見ても信じられません」
 サキは目を白黒とさせていた。変化させた私自身が信じられないものね。
 それにしても、トレント木材の有用性というものが計り知れないものだという事が分かった。私もあれだけ散々変形させてきたというのに、まだまだ知らない事が多かったのだ。
 それと同時に、この事は信用できる相手にしか知らせちゃいけないと強く思った。魔力が扱えれば誰だってできてしまいかねないもの。有用である事は、同時に危険もはらんでいるのよ。
「さて、サキ様もぜひともお試し下さいな。これが自在にできるようになれば、魔力のコントロールはかなりできるようになっていると思います」
「分かりました。やってみます」
 意気込むサキ。渡した杖を握りしめ、いざ杖の変形を試みる。
 ところが、20分、30分と経っても、杖はうんともすんともという感じだった。おかしいわね、私の棒切れと同じ材質と同じ処理なのだから、少しくらいは変化があってもいいと思うんだけど。
「……サキ様、練習あるのみですわよ」
「そ、そのようですね……」
 これだけやって何も成果が出ないのであるのなら、ここで止めるべきだと私は考えた。そういうわけで、訓練場での特訓はここでやめて、私はサキと一緒の馬車に乗って、テトリバー男爵邸に向かう事にした。
「はあ……、思ったより難しいですね」
「いえ、そこまでは難しくないかと思いますけれどね。何を思い浮かべてどういう感じに魔力を通したのか、それの方が問題です」
 ため息を吐くサキだけれども、私はここで鬼のように問題点を指摘する。その指摘に、サキは目を丸くして驚いていた。いくらなんでも驚き過ぎである。
「えと……、アンマリア様と同じように剣を思い浮かべたのですが」
「はい?」
 サキから返ってきたのは意外な答えだった。
「では、剣に変われと思ったのはいいですが、どのような剣を思い浮かべましたか?」
「え……」
 続けてした私の質問に、どういうわけか言葉を詰まらせるサキ。この表情を見た瞬間に私は察した。剣に変われと思ったのはいいけれど、変化後の姿を思い浮かべていなかったのだ。変化したい具体的な形がない以上、いくら魔力を通しても杖の形が変わるわけがないのである。なんとも致命的で根本的なミスだった。これではただの魔力の無駄使いである。
「サキ様、言いましたでしょう? 魔法は想像力、どういった事をしたいのか思い浮かべながら魔力を放出するのです。ですから、剣に変えたいと思うのであるなら、その剣の形を思い浮かべなければ使う事はできません。その結果、魔力だけが杖に伝わって、そのまま行き場を失って霧散していたのでしょう」
 説教じみた私の言葉に、サキはしょぼんと落ち込んでしまっていた。しかし、これは以前言った事をまったくもって忘れてしまっていたサキが悪い。擁護のしようがないのよ。
 サキは落ち込んでいるけれど、私だって落ち込みたい。一体今まで何回教えてきたと思っているのよ。しっかりと成長してもらいたいものだわね。
「それではアンマリア様。また明日学園で」
「ええ、また明日ですね」
 私はサキの家の前で馬車から降りる。そして、サキが家に入っていくのを確認すると、瞬間移動魔法で家まで戻ったのだった。

「ただいま戻りました」
 家に戻った私が挨拶をすると、
「おお、マリー。戻ったか」
「お父様?!」
 なんと父親が出迎えたのだ。
 お城で大臣の仕事をしている父親は、帰ってくるのはいつも日が暮れてからである。まだ明るいうちに帰ってくるなんて、一体何があったのだろうか。
「お父様、一体どうなさったのですか?」
「うん、近々、城で王妃様主催のお茶会をする事になってね。そこにエスカ王女と我が家の娘が招かれる事になったのだよ」
「えっ、王妃様主催?!」
 父親から聞かされた話に、私はあんぐりと大口を開けて固まってしまった。いや、なんでまたこんな時期に王妃様から誘われるわけ?
「他にもテトリバー男爵令嬢も呼ばれていたね。だから、招待されるのは全部で四人だね」
 なんともまあ、お茶会とはいっても、かなり小規模なものになりそうだった。王妃様主催という割には、本当にこじんまりしている。
「それで、あまりに嬉しいものだから、急いで仕事を済ませて帰ってきたというわけだよ」
「あっ、なるほどです……」
 あまりに衝撃が大きすぎて、私はそうとしか言葉を返せなかった。
「今度の週末だから、マリーも予定を空けておいてくれ。ちなみにエスカ王女とモモは了承済みだ」
「は、はい。承知致しました……」
 父親は浮かれ加減に自室に戻っていった。
 私はしばらくの間呆然としていたけど、なんとか我に返って自室に戻ったのだった。
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