218 / 500
第五章 2年目前半
第218話 主人公たちはやり過ぎた
しおりを挟む
私たちが食堂の前に立って急に集中し始めたものだから、食堂の主人や通行人たちが何が起きているのかと私たちを覗き込んでいる。
周りからの視線は確かに気になるところだけど、今の私たちにそんなものを気にしている余裕なんてない。目の前の食堂が侵されている呪いというのは、かなり厄介なものなのだから。建物1棟を飲み込んでしまう呪いなんていうのは聞いた事がない。それだけに、私たちは相当な集中力を求められたのである。
しばらくすると、私たちの体が金色の光を放ち始める。これがサキの持つ聖女由来の浄化の魔力である。私たちの普通の魔法の使い手が使う浄化とはわけが違うのだ。なんというか、心地よい光なのよ。
「おお……」
「なんて神々しいんだ……」
通行人たちも思わず見とれる光景である。サキの浄化の魔力を、私とミズーナ王女の魔力が増幅させる。やがて、その魔力は大きくなっていき……、気が付いたら王都全体を包み込んで一気に弾けたのだった。
(あっちゃあ……、やり過ぎたわ)
即座に私はそう思った。これだけ眩しい光に包まれたので、近くの人たち失明してないか心配になるレベルである。私は浄化の力が一気に弾け飛んだのを確認すると、それに合わせるようにして回復魔法を広範囲にばら撒いておいた。失明だけに効くようにだけどね。
私がホッとしている横で、ミズーナ王女とサキが膝をついていた。二人とも顔色がよろしくないようなので、私は食堂の主人に手伝ってもらって、食堂の中で二人を休ませる事にした。これだけ広範囲に浄化の魔法を使ったんだもの、魔力を使い切っててもおかしくない話だった。
では、私はなぜ平気なのか。鍛え方が違うのよ、鍛え方が。ライバル令嬢の一人サクラ・バッサーシのおばにあたるミスミ・バッサーシ教官の授業を受けているんだもの。体力だってちゃんとあるんだわ。
そんなこんなで再び食堂の中に戻った私たち。ミズーナ王女とサキの二人に水を飲ませて休ませている間、私は鑑定魔法を食堂の建物へと使用する。
『状態:正常。呪いは解除されました』
目の前にはそんな表示が浮かんでいた。とにかく成功したようだ。
「おじさん、無事に食堂の状態は元に戻りましたよ。これで、安心して食事を提供できると思います」
「ほ、本当か?!」
私の言葉に、食堂の主人は大声を出していた。それが証拠にと、私はもう一度鑑定魔法を食堂の建物に使い、それを食堂の主人に見せつけた。
「ほ、本当だ! よかった、実にありがてえ……」
食堂の主人は嬉し泣きをしていた。大の大人がおいおいと泣く様子に、つい私は戸惑ってしまった。
「あ、アンマリア? 成功……しましたか?」
ミズーナ王女がようやく回復してきたようだ。まだ顔色はそんなに良くないものの、さっきの浄化の結果を気にしているようだった。
「ええ、無事に食堂に掛けられていた呪いは解けました。次は原因を探る番ですね」
「そ、そうですか……。それはよかった」
ミズーナ王女はほっとした様子だった。
それにしても、サキの方はまだ調子が良くないようだ。どこで間違ったか、王都全体を包み込んでしまったがゆえに、体力を消耗し過ぎてしまったんだと思う。もう少し休めばいいとは思うけれど、さすがにこのまま放っておくのは危険な気もした。なので私は、
「甘いものとお湯を用意して頂けますか?」
食堂の主人にそう声を掛けた。
「あ、ああ、分かった。すぐに準備する。三人分でいいか?」
「それでお願いします」
私は食堂の主人に頼むと、待っている間に私たち三人を包み込むように魔法を使う。ぽおっと明るくなって私たちの体力を回復させた。根本的に足りなくなっているのは魔力だけど、それに伴って体力まで落ちると最悪な事態だってありうる。だからこそ、体力を回復させる魔法を使ったというわけよ。とにかく、ミズーナ王女とサキが無事に回復しない事には次に進む事はできない。私たちは仕方なくしばらく食堂でゆっくりと休んだのだった。
休んでいる間、通行人に頼んで王都を見回りしている兵士を呼んできてもらった。家の方に連絡を入れないと、捜索隊が組まれてしまうものね。特にミズーナ王女が行方不明となれば国際問題になってしまうもの。
そうやって家からの迎えが来るのを待っている間、ようやくサキも回復してきた。青ざめた表情はすっかり血の気を取り戻していたけれど、これは明日の学園は休んだ方が良さそうだった。
「ごめんなさい。制御ができずに暴走させてしまったようです……」
サキはそんな事を言って私たちに謝罪をしてきた。どうやら王都全体を覆うような浄化になってしまったのは、サキの思いが強すぎた事による暴走だったようだ。さすが聖女といいたいところだけど、これでまだ聖女としては未熟だという事が分かった。制御できないのであれば、場合によっては逆効果にもなりえるのだ。
食堂でたっぷり休んでいた私たちの元に、両親と王子たちが慌てた様子でやって来た。そして、その場で説教をされたわけだが、私たちはついつい笑ってしまって、更なる説教をされたのだった。
こうして、翌日からはすっかり噂の話題は王都を包み込んだ謎の光へと切り替わり、すっかり原因不明の激瘦せの話しは立ち消えてしまったのだった。
周りからの視線は確かに気になるところだけど、今の私たちにそんなものを気にしている余裕なんてない。目の前の食堂が侵されている呪いというのは、かなり厄介なものなのだから。建物1棟を飲み込んでしまう呪いなんていうのは聞いた事がない。それだけに、私たちは相当な集中力を求められたのである。
しばらくすると、私たちの体が金色の光を放ち始める。これがサキの持つ聖女由来の浄化の魔力である。私たちの普通の魔法の使い手が使う浄化とはわけが違うのだ。なんというか、心地よい光なのよ。
「おお……」
「なんて神々しいんだ……」
通行人たちも思わず見とれる光景である。サキの浄化の魔力を、私とミズーナ王女の魔力が増幅させる。やがて、その魔力は大きくなっていき……、気が付いたら王都全体を包み込んで一気に弾けたのだった。
(あっちゃあ……、やり過ぎたわ)
即座に私はそう思った。これだけ眩しい光に包まれたので、近くの人たち失明してないか心配になるレベルである。私は浄化の力が一気に弾け飛んだのを確認すると、それに合わせるようにして回復魔法を広範囲にばら撒いておいた。失明だけに効くようにだけどね。
私がホッとしている横で、ミズーナ王女とサキが膝をついていた。二人とも顔色がよろしくないようなので、私は食堂の主人に手伝ってもらって、食堂の中で二人を休ませる事にした。これだけ広範囲に浄化の魔法を使ったんだもの、魔力を使い切っててもおかしくない話だった。
では、私はなぜ平気なのか。鍛え方が違うのよ、鍛え方が。ライバル令嬢の一人サクラ・バッサーシのおばにあたるミスミ・バッサーシ教官の授業を受けているんだもの。体力だってちゃんとあるんだわ。
そんなこんなで再び食堂の中に戻った私たち。ミズーナ王女とサキの二人に水を飲ませて休ませている間、私は鑑定魔法を食堂の建物へと使用する。
『状態:正常。呪いは解除されました』
目の前にはそんな表示が浮かんでいた。とにかく成功したようだ。
「おじさん、無事に食堂の状態は元に戻りましたよ。これで、安心して食事を提供できると思います」
「ほ、本当か?!」
私の言葉に、食堂の主人は大声を出していた。それが証拠にと、私はもう一度鑑定魔法を食堂の建物に使い、それを食堂の主人に見せつけた。
「ほ、本当だ! よかった、実にありがてえ……」
食堂の主人は嬉し泣きをしていた。大の大人がおいおいと泣く様子に、つい私は戸惑ってしまった。
「あ、アンマリア? 成功……しましたか?」
ミズーナ王女がようやく回復してきたようだ。まだ顔色はそんなに良くないものの、さっきの浄化の結果を気にしているようだった。
「ええ、無事に食堂に掛けられていた呪いは解けました。次は原因を探る番ですね」
「そ、そうですか……。それはよかった」
ミズーナ王女はほっとした様子だった。
それにしても、サキの方はまだ調子が良くないようだ。どこで間違ったか、王都全体を包み込んでしまったがゆえに、体力を消耗し過ぎてしまったんだと思う。もう少し休めばいいとは思うけれど、さすがにこのまま放っておくのは危険な気もした。なので私は、
「甘いものとお湯を用意して頂けますか?」
食堂の主人にそう声を掛けた。
「あ、ああ、分かった。すぐに準備する。三人分でいいか?」
「それでお願いします」
私は食堂の主人に頼むと、待っている間に私たち三人を包み込むように魔法を使う。ぽおっと明るくなって私たちの体力を回復させた。根本的に足りなくなっているのは魔力だけど、それに伴って体力まで落ちると最悪な事態だってありうる。だからこそ、体力を回復させる魔法を使ったというわけよ。とにかく、ミズーナ王女とサキが無事に回復しない事には次に進む事はできない。私たちは仕方なくしばらく食堂でゆっくりと休んだのだった。
休んでいる間、通行人に頼んで王都を見回りしている兵士を呼んできてもらった。家の方に連絡を入れないと、捜索隊が組まれてしまうものね。特にミズーナ王女が行方不明となれば国際問題になってしまうもの。
そうやって家からの迎えが来るのを待っている間、ようやくサキも回復してきた。青ざめた表情はすっかり血の気を取り戻していたけれど、これは明日の学園は休んだ方が良さそうだった。
「ごめんなさい。制御ができずに暴走させてしまったようです……」
サキはそんな事を言って私たちに謝罪をしてきた。どうやら王都全体を覆うような浄化になってしまったのは、サキの思いが強すぎた事による暴走だったようだ。さすが聖女といいたいところだけど、これでまだ聖女としては未熟だという事が分かった。制御できないのであれば、場合によっては逆効果にもなりえるのだ。
食堂でたっぷり休んでいた私たちの元に、両親と王子たちが慌てた様子でやって来た。そして、その場で説教をされたわけだが、私たちはついつい笑ってしまって、更なる説教をされたのだった。
こうして、翌日からはすっかり噂の話題は王都を包み込んだ謎の光へと切り替わり、すっかり原因不明の激瘦せの話しは立ち消えてしまったのだった。
7
お気に入りに追加
264
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?
tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」
「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」
子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。
よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………
naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話………
でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ?
まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら?
少女はパタンッと本を閉じる。
そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて──
アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな!
くははははっ!!!
静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
婚約破棄イベントが壊れた!
秋月一花
恋愛
学園の卒業パーティー。たった一人で姿を現した私、カリスタ。会場内はざわつき、私へと一斉に視線が集まる。
――卒業パーティーで、私は婚約破棄を宣言される。長かった。とっても長かった。ヒロイン、頑張って王子様と一緒に国を持ち上げてね!
……って思ったら、これ私の知っている婚約破棄イベントじゃない!
「カリスタ、どうして先に行ってしまったんだい?」
おかしい、おかしい。絶対におかしい!
国外追放されて平民として生きるつもりだったのに! このままだと私が王妃になってしまう! どうしてそうなった、ヒロイン王太子狙いだったじゃん!
2021/07/04 カクヨム様にも投稿しました。
記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる