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第五章 2年目前半

第218話 主人公たちはやり過ぎた

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 私たちが食堂の前に立って急に集中し始めたものだから、食堂の主人や通行人たちが何が起きているのかと私たちを覗き込んでいる。
 周りからの視線は確かに気になるところだけど、今の私たちにそんなものを気にしている余裕なんてない。目の前の食堂が侵されている呪いというのは、かなり厄介なものなのだから。建物1棟を飲み込んでしまう呪いなんていうのは聞いた事がない。それだけに、私たちは相当な集中力を求められたのである。
 しばらくすると、私たちの体が金色の光を放ち始める。これがサキの持つ聖女由来の浄化の魔力である。私たちの普通の魔法の使い手が使う浄化とはわけが違うのだ。なんというか、心地よい光なのよ。
「おお……」
「なんて神々しいんだ……」
 通行人たちも思わず見とれる光景である。サキの浄化の魔力を、私とミズーナ王女の魔力が増幅させる。やがて、その魔力は大きくなっていき……、気が付いたら王都全体を包み込んで一気に弾けたのだった。
(あっちゃあ……、やり過ぎたわ)
 即座に私はそう思った。これだけ眩しい光に包まれたので、近くの人たち失明してないか心配になるレベルである。私は浄化の力が一気に弾け飛んだのを確認すると、それに合わせるようにして回復魔法を広範囲にばら撒いておいた。失明だけに効くようにだけどね。
 私がホッとしている横で、ミズーナ王女とサキが膝をついていた。二人とも顔色がよろしくないようなので、私は食堂の主人に手伝ってもらって、食堂の中で二人を休ませる事にした。これだけ広範囲に浄化の魔法を使ったんだもの、魔力を使い切っててもおかしくない話だった。
 では、私はなぜ平気なのか。鍛え方が違うのよ、鍛え方が。ライバル令嬢の一人サクラ・バッサーシのおばにあたるミスミ・バッサーシ教官の授業を受けているんだもの。体力だってちゃんとあるんだわ。
 そんなこんなで再び食堂の中に戻った私たち。ミズーナ王女とサキの二人に水を飲ませて休ませている間、私は鑑定魔法を食堂の建物へと使用する。
『状態:正常。呪いは解除されました』
 目の前にはそんな表示が浮かんでいた。とにかく成功したようだ。
「おじさん、無事に食堂の状態は元に戻りましたよ。これで、安心して食事を提供できると思います」
「ほ、本当か?!」
 私の言葉に、食堂の主人は大声を出していた。それが証拠にと、私はもう一度鑑定魔法を食堂の建物に使い、それを食堂の主人に見せつけた。
「ほ、本当だ! よかった、実にありがてえ……」
 食堂の主人は嬉し泣きをしていた。大の大人がおいおいと泣く様子に、つい私は戸惑ってしまった。
「あ、アンマリア? 成功……しましたか?」
 ミズーナ王女がようやく回復してきたようだ。まだ顔色はそんなに良くないものの、さっきの浄化の結果を気にしているようだった。
「ええ、無事に食堂に掛けられていた呪いは解けました。次は原因を探る番ですね」
「そ、そうですか……。それはよかった」
 ミズーナ王女はほっとした様子だった。
 それにしても、サキの方はまだ調子が良くないようだ。どこで間違ったか、王都全体を包み込んでしまったがゆえに、体力を消耗し過ぎてしまったんだと思う。もう少し休めばいいとは思うけれど、さすがにこのまま放っておくのは危険な気もした。なので私は、
「甘いものとお湯を用意して頂けますか?」
 食堂の主人にそう声を掛けた。
「あ、ああ、分かった。すぐに準備する。三人分でいいか?」
「それでお願いします」
 私は食堂の主人に頼むと、待っている間に私たち三人を包み込むように魔法を使う。ぽおっと明るくなって私たちの体力を回復させた。根本的に足りなくなっているのは魔力だけど、それに伴って体力まで落ちると最悪な事態だってありうる。だからこそ、体力を回復させる魔法を使ったというわけよ。とにかく、ミズーナ王女とサキが無事に回復しない事には次に進む事はできない。私たちは仕方なくしばらく食堂でゆっくりと休んだのだった。
 休んでいる間、通行人に頼んで王都を見回りしている兵士を呼んできてもらった。家の方に連絡を入れないと、捜索隊が組まれてしまうものね。特にミズーナ王女が行方不明となれば国際問題になってしまうもの。
 そうやって家からの迎えが来るのを待っている間、ようやくサキも回復してきた。青ざめた表情はすっかり血の気を取り戻していたけれど、これは明日の学園は休んだ方が良さそうだった。
「ごめんなさい。制御ができずに暴走させてしまったようです……」
 サキはそんな事を言って私たちに謝罪をしてきた。どうやら王都全体を覆うような浄化になってしまったのは、サキの思いが強すぎた事による暴走だったようだ。さすが聖女といいたいところだけど、これでまだ聖女としては未熟だという事が分かった。制御できないのであれば、場合によっては逆効果にもなりえるのだ。
 食堂でたっぷり休んでいた私たちの元に、両親と王子たちが慌てた様子でやって来た。そして、その場で説教をされたわけだが、私たちはついつい笑ってしまって、更なる説教をされたのだった。
 こうして、翌日からはすっかり噂の話題は王都を包み込んだ謎の光へと切り替わり、すっかり原因不明の激瘦せの話しは立ち消えてしまったのだった。
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