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第五章 2年目前半
第217話 予想外の盲点
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まったく、魔法なしで走るったらきついったらありゃしない。さっきの食堂から目的の場所まではとにかく遠い。その目的地は貴族街なのだから。
私はまだ80kg台だから楽なんだけど、ミズーナ王女の120kgはさすがに苦しそうだった。それでもミズーナ王女は事態が事態ゆえに頑張って走っていた。
「ぜはーぜはー……。アンマリア、目的の場所はここでいいのね?」
息は切れているがしっかりと喋れている。ミズーナ王女は思ったより体力があるようだ。
「はい、何度も行った事がありますのでね。彼女は男爵位ですので、平民街に近い場所に家があるんですよ」
剣術もこなす私なんだから、ミズーナ王女に負けてはいられない。疲れてはいるものの、なんとか喋れるくらいに持ちこたえている。
私たちが息を切らせながら到着したその場所は、テトリバー男爵家だった。そう、ゲームでアンマリアが断罪を受けるもう一つの原因である聖女たるサキを頼って来たというわけ。聖女たる彼女の能力なら、鑑定で見抜けないものでも見抜けるはずだと考えたのよ。
私たちは門の外に居る兵士に掛け合い、すぐさまサキへの面会を取り付けようとする。ミズーナ王女が居るんだから断れないわよね。っと思ったんだけど、今の私たち変装してるから兵士は分からなかったらしい。これだけ特徴的な体格してるのになんでなのよね。
「えっ、アンマリア様?!」
そこへ丁度サキが騒ぎを聞きつけて登場した。王都のテトリバー男爵家はそんなに大きくないからこうやって気付けちゃうのよね。
「それと、そっちはミズーナ王女殿下ではございませんか?!」
サキはミズーナ王女の事もあっさり見破っていた。
「な、なんですと?!」
この声に兵士たちも驚いていた。こんな男爵家に王女がやって来るなんて信じられなかったからだ。
「お二方とも、一体どうしてこちらまで来られたのですか?」
サキが私たちに近付いてくる。
「サキ様、ちょうどよかった。ちょっと一緒に来て頂いてよろしいですか?」
「えっ、ええ、構いませんけれど」
サキが戸惑いながらも了承の返事をしたので、私はサキの手をがっしりと握りしめた。
「ちょっとサキを借りていきますね。ちょっと緊急事態ですので、詳細は後程お話し致しますわ!」
「えっ、ちょっと、アンマリア様?!」
あれよあれよと分からないうちに、サキは私に手を引かれて王都の中を疾走する。ちょっとズルだけど、風魔法を使って軽やかな足取りを演出させてもらうわよ。こうやって、息切れしながら走って来た道を、私たちは時間を短縮させながら戻ったのだった。
「ま、まったく……。アンマリア様ったら何をされ……」
私に文句を言おうとしたサキだったが、目の前の食堂から何かを感じたのか、言葉が途中で詰まってしまった。
「な、何なんですか、ここは……」
サキは顔を青ざめさせながら、私たちに質問してくる。
「例の変な噂が出ている食堂のひとつですよ。ちなみに私の鑑定魔法ですら一切の異常が認められなかったのです」
「噓でしょう? これだけ異様な雰囲気を放っておいて、鑑定魔法にすら引っ掛からないなんて……。そんなものがあり得るわけが……」
私の言葉に、サキは驚愕の表情を浮かべている。私の魔法のすごさを知っているからこその反応だ。
「ですが、現に私の鑑定魔法にも引っ掛かりませんでしたからね。しかし、サキが感じられているという事は、やはりこの食堂には何かが起きているという事なのでしょう」
その状況でもミズーナ王女は冷静に語っていた。
「サキ様」
「は、はい」
私はサキに話し掛ける。
「この食堂の一体どの辺りから不穏な空気を感じるのですか?」
険しい顔をしながら、私はサキに改めて問い掛ける。
「そうですね。ほぼ全体です。建物自体からもかなり感じます」
「建物!」
サキの言葉に反応した私とミズーナ王女。すぐさま食堂自体に鑑定魔法を使う。すると……。
「なんて事なの、建物に異常が出ているわ」
「これは盲点でしたね」
そう、食堂自体に『呪い:激痩せ』という状態異常が出ていたのだ。使っているものにばかり目が行って、建物自体とは思わなかった。あまりに予想外な事で、私たちは動揺が隠せなかった。
しかし、次の行動はどうしたらいいものだろうか。建物全体への浄化となると、かなり難しいものになってしまう。私やミズーナ王女はヒロインとはいえど呪いに対する浄化は限定的だもの。それこそ聖女であるサキにしかできない事になる。
ところがだ。そのサキに足りないのはイメージと魔力量だ。こうなってくると、いよいよ手段が限られてくる。
「サキ様。サキ様の浄化の力を使って建物を浄化しましょう。足りないイメージと魔力は、私たちが補います」
そう、主力であるサキの足りないものを、私たちで補うのだ。サキは聖女の持つ強い浄化の力を発揮するだけでいいというわけだ。
「しかし……」
サキは自信がなくてあまり乗り気ではなさそうだ。でも、ここで食い止めないと今後どうなるか分からない。
「サキ様。ここで食い止めなければ痩せすぎて死んでしまう人が出てしまいます。そして、食堂の人が困ってしまっています。この事態を食い止めるためにも、サキ様の力をお貸し下さい」
私は真剣な表情でサキを見る。これに押されたサキは、ようやく決意を固めたようである。
私たち三人は、食堂の入口に三角形に立って、集中して魔法を使う。
さあ、この不穏分子を消し去ってやりますよ。
私はまだ80kg台だから楽なんだけど、ミズーナ王女の120kgはさすがに苦しそうだった。それでもミズーナ王女は事態が事態ゆえに頑張って走っていた。
「ぜはーぜはー……。アンマリア、目的の場所はここでいいのね?」
息は切れているがしっかりと喋れている。ミズーナ王女は思ったより体力があるようだ。
「はい、何度も行った事がありますのでね。彼女は男爵位ですので、平民街に近い場所に家があるんですよ」
剣術もこなす私なんだから、ミズーナ王女に負けてはいられない。疲れてはいるものの、なんとか喋れるくらいに持ちこたえている。
私たちが息を切らせながら到着したその場所は、テトリバー男爵家だった。そう、ゲームでアンマリアが断罪を受けるもう一つの原因である聖女たるサキを頼って来たというわけ。聖女たる彼女の能力なら、鑑定で見抜けないものでも見抜けるはずだと考えたのよ。
私たちは門の外に居る兵士に掛け合い、すぐさまサキへの面会を取り付けようとする。ミズーナ王女が居るんだから断れないわよね。っと思ったんだけど、今の私たち変装してるから兵士は分からなかったらしい。これだけ特徴的な体格してるのになんでなのよね。
「えっ、アンマリア様?!」
そこへ丁度サキが騒ぎを聞きつけて登場した。王都のテトリバー男爵家はそんなに大きくないからこうやって気付けちゃうのよね。
「それと、そっちはミズーナ王女殿下ではございませんか?!」
サキはミズーナ王女の事もあっさり見破っていた。
「な、なんですと?!」
この声に兵士たちも驚いていた。こんな男爵家に王女がやって来るなんて信じられなかったからだ。
「お二方とも、一体どうしてこちらまで来られたのですか?」
サキが私たちに近付いてくる。
「サキ様、ちょうどよかった。ちょっと一緒に来て頂いてよろしいですか?」
「えっ、ええ、構いませんけれど」
サキが戸惑いながらも了承の返事をしたので、私はサキの手をがっしりと握りしめた。
「ちょっとサキを借りていきますね。ちょっと緊急事態ですので、詳細は後程お話し致しますわ!」
「えっ、ちょっと、アンマリア様?!」
あれよあれよと分からないうちに、サキは私に手を引かれて王都の中を疾走する。ちょっとズルだけど、風魔法を使って軽やかな足取りを演出させてもらうわよ。こうやって、息切れしながら走って来た道を、私たちは時間を短縮させながら戻ったのだった。
「ま、まったく……。アンマリア様ったら何をされ……」
私に文句を言おうとしたサキだったが、目の前の食堂から何かを感じたのか、言葉が途中で詰まってしまった。
「な、何なんですか、ここは……」
サキは顔を青ざめさせながら、私たちに質問してくる。
「例の変な噂が出ている食堂のひとつですよ。ちなみに私の鑑定魔法ですら一切の異常が認められなかったのです」
「噓でしょう? これだけ異様な雰囲気を放っておいて、鑑定魔法にすら引っ掛からないなんて……。そんなものがあり得るわけが……」
私の言葉に、サキは驚愕の表情を浮かべている。私の魔法のすごさを知っているからこその反応だ。
「ですが、現に私の鑑定魔法にも引っ掛かりませんでしたからね。しかし、サキが感じられているという事は、やはりこの食堂には何かが起きているという事なのでしょう」
その状況でもミズーナ王女は冷静に語っていた。
「サキ様」
「は、はい」
私はサキに話し掛ける。
「この食堂の一体どの辺りから不穏な空気を感じるのですか?」
険しい顔をしながら、私はサキに改めて問い掛ける。
「そうですね。ほぼ全体です。建物自体からもかなり感じます」
「建物!」
サキの言葉に反応した私とミズーナ王女。すぐさま食堂自体に鑑定魔法を使う。すると……。
「なんて事なの、建物に異常が出ているわ」
「これは盲点でしたね」
そう、食堂自体に『呪い:激痩せ』という状態異常が出ていたのだ。使っているものにばかり目が行って、建物自体とは思わなかった。あまりに予想外な事で、私たちは動揺が隠せなかった。
しかし、次の行動はどうしたらいいものだろうか。建物全体への浄化となると、かなり難しいものになってしまう。私やミズーナ王女はヒロインとはいえど呪いに対する浄化は限定的だもの。それこそ聖女であるサキにしかできない事になる。
ところがだ。そのサキに足りないのはイメージと魔力量だ。こうなってくると、いよいよ手段が限られてくる。
「サキ様。サキ様の浄化の力を使って建物を浄化しましょう。足りないイメージと魔力は、私たちが補います」
そう、主力であるサキの足りないものを、私たちで補うのだ。サキは聖女の持つ強い浄化の力を発揮するだけでいいというわけだ。
「しかし……」
サキは自信がなくてあまり乗り気ではなさそうだ。でも、ここで食い止めないと今後どうなるか分からない。
「サキ様。ここで食い止めなければ痩せすぎて死んでしまう人が出てしまいます。そして、食堂の人が困ってしまっています。この事態を食い止めるためにも、サキ様の力をお貸し下さい」
私は真剣な表情でサキを見る。これに押されたサキは、ようやく決意を固めたようである。
私たち三人は、食堂の入口に三角形に立って、集中して魔法を使う。
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