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第五章 2年目前半

第214話 断罪イベントの兆候を回避せよ

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 モモとエスカから送られた誕生日プレゼントを、私はその日から常に携帯するようになった。ええ、護身用よ、ご・し・ん・よ・う。
 それにしても、魔力を加えて何度も変形できるなんて、まるで金属みたいな事をしてしまうなんて、やっぱりエスカも転生者らしくきちが……、おほん、規格外な事をしてくれるのね。
 あれからもどんな事ができるのか、限界はあるのかといろいろ試してみたけれど、10数回は余裕で変形できていた。でも、やっぱり物質の性質らしくて固まろうとしてたわね。しばらく休ませるとまた変形できるようになってたけれど。これは表に出せば注目の的になってしまうわ。悪用する奴も出てくるだろうから、身内だけの秘密にしなきゃダメね。まっ、量産はできないんだけど、念には念をというわけよ。

 無事に誕生日も過ぎた事で、私は楽しく2年生を楽しんでいた。
 ところが、そんなある日の事、こんな噂が学園で聞こえるようになってきた。
 その噂というのは、王都の一部の食堂で食事をした人物たちが急激に痩せたという驚くべきものだった。早い人では翌日に効果が現れていたので、もの凄い噂になっていたのだ。
 普通なら、私みたいな体型であれば飛びつきたい話ではあるものの、私はこの話に危険な香りをたっぷりと感じていた。
(この話、まさかね……)
 私は1年生の教室の方へと足を運ぶ。言わずと知れた前世持ちのエスカとミズーナ王女に会うためだ。おそらくこの二人の耳にもこの噂は入っているはずである。だからこそ、私は二人のところへと急いだのだ。
「あら、アンマリアではありませんか。ここは1年生の教室ですけれど、どうなさったのですか?」
 教室に向かうとミズーナ王女を見つけたので突き進んでいく私。すると、こんな声を掛けられてしまった。
 それにしても、周りからも随分と反応されてしまっている。王子の婚約者という立場は、そのくらいに目立つものなのよ。私はそんな反応にはとりあえず反応せず、ミズーナ王女の目の前に立った。
「ミズーナ王女殿下、少々お話よろしいでしょうか」
「ええ、構いませんよ。この国の有名人に声を掛けられるなんて、光栄な事ですもの」
「うおっ、まぶしっ!」
 太っているとはいっても、さすがは拡張版のヒロイン。その笑顔は眩しかった。思わず私がこぼした言葉にミズーナ王女は笑っていた。ああ、このネタ知ってるんだ。
「それはそうと、一体何の用事なのでしょうか。ご用件なら手短にお願いしますね」
 すぐに笑いを引っ込めたミズーナ王女は、真剣な表情で私に声を掛けてくる。この切り替えの早さはただ者ではない。驚いた表情をした私だけども、こう言ってもらったからにはちゃんと話をする。ミズーナ王女の前に立つと、顔の位置を合わせるために屈んだ。
「ミズーナ王女のお耳に入れておいた方がいいと思いましてね。まあこの狭い王都ですから、王女殿下の耳にもすでに入っているとは思いますが……」
 私は前置きをしてから本題を話し始める。
「実は、王都の食堂で食事をした者が一気に痩せるという事案が発生しています。もしかしたらもしかするかもと思って、声を掛けさせて頂きました」
 私が切り出した話題に、ミズーナ王女は表情を曇らせた。この分だとおそらくもう耳には入っているような感じね。
「……まさか、アンマリア編で出てくる例の薬でしょうかね」
「ええ、おそらくは……」
 私たちの頭にすぐに過ったのは、アンマリアが2年生になった時に100kg以上の状態で発生する『怪しい薬』というイベントの事だった。このイベントは期間限定の出現で、1ターン目から8ターン目までの休日に発生するイベントなのよ。この間に王都へのお出かけを選ぶと、75%という確率で発生する。たまに他のイベントとバッティングして優先度で負けて発生しない事があるけれど、8ターンあるなら計算上6回は発生しうるイベントなのよ。確定イベントじゃないし、優先イベントでもないんだけど、これが発生してどん底に叩き落とされたプレイヤーは数知れない。
 実はこのイベントの後はほぼ毎ターンのようにフィレン王子と遭遇して三択をぶつけられる。選択肢の結果は「増減なし」「断罪ポイント微増」「断罪ポイント増」という三択で、まだ増減なしがあるだけマシという感じ。この断罪ポイントが一定値を超えると、エンディングでアンマリアは処刑されてバッドエンディングを迎える。こういうイベントなだけに、どんなに普通に生活していても、この恐怖からは逃れられずに来たのよね。
 何が一番やばいかというと、この痩せ薬の成分。それが聖女であるサキの力によって見破られ、とんでもない事実がバッドエンディング内で語られてたのよ。服用を続けると人間やめちゃえるっていう、ぶっちゃけ、前世の世界で言う麻薬のようなものだったらしいからね。おお、怖い怖い。
 私から話を聞いてミズーナ王女はしばらく考え込んでいた。
「分かりました。アンマリアも城に来て下さい。これは由々しき事態です。すぐさま調査を始めましょう」
 急に発言したミズーナ王女に手を引っ張られて、私はそのまま城へと拉致されてしまったのだった。
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