211 / 500
第五章 2年目前半
第211話 ゲームとリアル、その違いと盲点
しおりを挟む
2年目の最初の懸念材料を確認した私は、翌日の授業の後、魔法型の後輩の様子を見に行く。そこで私は、ミズーナ王女の姿を発見した。横にはおまけが居たけれどとりあえず気にしない。私はミズーナ王女に近付いて声を掛ける。
「お話がございますわ、ミズーナ王女殿下」
「アンマリア? 一体何の話でしょうか」
ミズーナ王女が反応すると、私は周りをきょろきょろと確認をしてから、ミズーナ王女に小声で話し掛ける。
「ミズーナ王女はご存じでしょうか。私のシナリオで2年目に出てくる禁断の薬の事は」
私が単刀直入にこう囁くと、
「ええ、知っていますよ。確か、ものすごく激痩せするという薬ですよね? 使用した場合は断罪コースまっしぐらっていうあれですよね?」
さすがというべきか、ミズーナ王女からはしっかりとした答えが返っていた。この薬の事は知っていたようだ。
「はい。ゲームでは私のシナリオの2年目開始のタイミングで出てくるものですが、ゲームとは違って現実となったこちらでは、もしかしたらミズーナ王女が煽りを食らう可能性があるのではと考えて、今日声を掛けさせにやって来た次第です」
「はっ! その可能性は盲点だったわ!」
私がやって来た事情を説明すると、エスカが驚いて声を上げていた。まあ、あんたはまったく関係ないからね。
そんなわけで、エスカの反応は無視して、私はミズーナ王女と話を続ける。ミズーナ王女は真剣に私の話を聞いている。
なんでこんな話をしていて、ミズーナ王女が真剣なのか。それというのもゲームの拡張版がスタートしたばかりの現時点では、ミズーナ王女の体重は私のゲーム時間開始の時と同じ120kgなのである。私の方が発生させない条件を満たしているとはいえ、1年遅れのゲームスタートとなるミズーナ王女は嫌でもその条件を満たしてしまう。これがシナリオの独立したゲームとは違う点だ。リアルというものは、すべてが繋がっているので往々にしてこういう事が起こりえてしまうのだった。
「というわけですので、1の月と2の月に関しては、城下町を出歩くのは避けた方がいいと思います。アンマリアシナリオの方ではそういう設定になっているのですから」
私がこのように伝えると、ミズーナ王女は少し考え込んだ後、
「分かりました。忠告ありがとうございます」
とお礼を言ってきた。さすがに厳しい条件かも知れないけれど、学園とかを直行直帰していればかなり回避できるかと思われる。
まったく、スタート時点で体重120kg固定っていう設定、本当に頭を抱えるしかないものよね。
とりあえず、これで危険性のひとつは潰せたと思うけれど、ミズーナ王女が100kgを切るまでは油断できないわね。ミズーナ王女と別れた時点から、私はエスカと一緒に対策を考える事にしたのだった。
――
アンマリアたちがそうやって対策を考えている頃、王都のとある一角。
「クヒヒヒヒヒ……。今こそこのわしの力を示す時が来た……」
怪しさ満点の声が響き渡る。
そこは平民街のちょっと外れた場所にある、少々薄暗い場所だった。貧民街というほど治安の悪い場所ではないが、それでも光の当たりにくい場所であるがゆえに、人が近付く事があまりない場所である。
「クヒヒヒヒ、あのアンマリアとかいう王太子妃候補を見た時に、わしに天啓が下りたのだ。世の女性を細く美しくしろという天啓がなぁ……」
ローブを着ていて、場所も薄暗いがために分かりにくいのだが、喋り方などから考えてみるに、それ相応に年のいった人物である事は間違いなさそうだ。
「理想の配合を求めたがゆえに時間が掛かってしまったが、ようやくでき上がったぞ。これがあればたちまち太った体は痩せていくだろうて」
目の前には大きな釜があり、怪しい液体がぐつぐつと煮込まれていた。まったく、一体どんなものを配合したというのだろうか。
「さてさて、この薬の効果を確かめるには、どうしたものかな。さすがのわしとて、もう太る事はできんからな……」
何かを口惜しそうに喋っている人物である。
「クヒヒ、そうじゃ。街の者どもにこっそり飲ませてやればいいか。わしの配合は理想的で完璧だ。万が一などあるわけなかろうて……」
怪しく喋る人物は、何やら自信満々のようである。にやりと笑った人物は、でき上がった液体を小分けにしながら瓶詰めしていく。
「我が身で試し続けてきたからな。害はない事は確実だ。クヒ、クヒヒヒヒヒ……」
怪しく笑う人物。その一瞬部屋の中を月明かりが照らし出す。光に照らされて浮かび上がったその姿は、それはもう目を覆いたくなるような酷い有様だった。頬はこけ、手足などを見ても完全にガリガリや骨と皮という表現が合うくらいにやせ細ってしまっていたのである。もはや正確な年齢や性別すらも分からないくらいである。
「クヒヒヒヒ……。ああ、この薬を売りに出す日が実に待ち遠しい。待っておれよ、アンマリア。理想の王太子妃になるために、わしの力を貸してやろうぞ。クヒヒヒヒヒヒ!」
怪しい笑い声が、すっかり陽の落ちた王都の片隅に響き渡ったのだった。
「お話がございますわ、ミズーナ王女殿下」
「アンマリア? 一体何の話でしょうか」
ミズーナ王女が反応すると、私は周りをきょろきょろと確認をしてから、ミズーナ王女に小声で話し掛ける。
「ミズーナ王女はご存じでしょうか。私のシナリオで2年目に出てくる禁断の薬の事は」
私が単刀直入にこう囁くと、
「ええ、知っていますよ。確か、ものすごく激痩せするという薬ですよね? 使用した場合は断罪コースまっしぐらっていうあれですよね?」
さすがというべきか、ミズーナ王女からはしっかりとした答えが返っていた。この薬の事は知っていたようだ。
「はい。ゲームでは私のシナリオの2年目開始のタイミングで出てくるものですが、ゲームとは違って現実となったこちらでは、もしかしたらミズーナ王女が煽りを食らう可能性があるのではと考えて、今日声を掛けさせにやって来た次第です」
「はっ! その可能性は盲点だったわ!」
私がやって来た事情を説明すると、エスカが驚いて声を上げていた。まあ、あんたはまったく関係ないからね。
そんなわけで、エスカの反応は無視して、私はミズーナ王女と話を続ける。ミズーナ王女は真剣に私の話を聞いている。
なんでこんな話をしていて、ミズーナ王女が真剣なのか。それというのもゲームの拡張版がスタートしたばかりの現時点では、ミズーナ王女の体重は私のゲーム時間開始の時と同じ120kgなのである。私の方が発生させない条件を満たしているとはいえ、1年遅れのゲームスタートとなるミズーナ王女は嫌でもその条件を満たしてしまう。これがシナリオの独立したゲームとは違う点だ。リアルというものは、すべてが繋がっているので往々にしてこういう事が起こりえてしまうのだった。
「というわけですので、1の月と2の月に関しては、城下町を出歩くのは避けた方がいいと思います。アンマリアシナリオの方ではそういう設定になっているのですから」
私がこのように伝えると、ミズーナ王女は少し考え込んだ後、
「分かりました。忠告ありがとうございます」
とお礼を言ってきた。さすがに厳しい条件かも知れないけれど、学園とかを直行直帰していればかなり回避できるかと思われる。
まったく、スタート時点で体重120kg固定っていう設定、本当に頭を抱えるしかないものよね。
とりあえず、これで危険性のひとつは潰せたと思うけれど、ミズーナ王女が100kgを切るまでは油断できないわね。ミズーナ王女と別れた時点から、私はエスカと一緒に対策を考える事にしたのだった。
――
アンマリアたちがそうやって対策を考えている頃、王都のとある一角。
「クヒヒヒヒヒ……。今こそこのわしの力を示す時が来た……」
怪しさ満点の声が響き渡る。
そこは平民街のちょっと外れた場所にある、少々薄暗い場所だった。貧民街というほど治安の悪い場所ではないが、それでも光の当たりにくい場所であるがゆえに、人が近付く事があまりない場所である。
「クヒヒヒヒ、あのアンマリアとかいう王太子妃候補を見た時に、わしに天啓が下りたのだ。世の女性を細く美しくしろという天啓がなぁ……」
ローブを着ていて、場所も薄暗いがために分かりにくいのだが、喋り方などから考えてみるに、それ相応に年のいった人物である事は間違いなさそうだ。
「理想の配合を求めたがゆえに時間が掛かってしまったが、ようやくでき上がったぞ。これがあればたちまち太った体は痩せていくだろうて」
目の前には大きな釜があり、怪しい液体がぐつぐつと煮込まれていた。まったく、一体どんなものを配合したというのだろうか。
「さてさて、この薬の効果を確かめるには、どうしたものかな。さすがのわしとて、もう太る事はできんからな……」
何かを口惜しそうに喋っている人物である。
「クヒヒ、そうじゃ。街の者どもにこっそり飲ませてやればいいか。わしの配合は理想的で完璧だ。万が一などあるわけなかろうて……」
怪しく喋る人物は、何やら自信満々のようである。にやりと笑った人物は、でき上がった液体を小分けにしながら瓶詰めしていく。
「我が身で試し続けてきたからな。害はない事は確実だ。クヒ、クヒヒヒヒヒ……」
怪しく笑う人物。その一瞬部屋の中を月明かりが照らし出す。光に照らされて浮かび上がったその姿は、それはもう目を覆いたくなるような酷い有様だった。頬はこけ、手足などを見ても完全にガリガリや骨と皮という表現が合うくらいにやせ細ってしまっていたのである。もはや正確な年齢や性別すらも分からないくらいである。
「クヒヒヒヒ……。ああ、この薬を売りに出す日が実に待ち遠しい。待っておれよ、アンマリア。理想の王太子妃になるために、わしの力を貸してやろうぞ。クヒヒヒヒヒヒ!」
怪しい笑い声が、すっかり陽の落ちた王都の片隅に響き渡ったのだった。
6
お気に入りに追加
264
あなたにおすすめの小説
敗戦して嫁ぎましたが、存在を忘れ去られてしまったので自給自足で頑張ります!
桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。
※※※※※※※※※※※※※
魔族 vs 人間。
冷戦を経ながらくすぶり続けた長い戦いは、人間側の敗戦に近い状況で、ついに終止符が打たれた。
名ばかりの王族リュシェラは、和平の証として、魔王イヴァシグスに第7王妃として嫁ぐ事になる。だけど、嫁いだ夫には魔人の妻との間に、すでに皇子も皇女も何人も居るのだ。
人間のリュシェラが、ここで王妃として求められる事は何もない。和平とは名ばかりの、敗戦国の隷妃として、リュシェラはただ静かに命が潰えていくのを待つばかり……なんて、殊勝な性格でもなく、与えられた宮でのんびり自給自足の生活を楽しんでいく。
そんなリュシェラには、実は誰にも言えない秘密があった。
※※※※※※※※※※※※※
短編は難しいな…と痛感したので、慣れた文字数、文体で書いてみました。
お付き合い頂けたら嬉しいです!
最強魔導師エンペラー
ブレイブ
ファンタジー
魔法が当たり前の世界 魔法学園ではF~ZZにランク分けされており かつて実在したZZクラス1位の最強魔導師エンペラー 彼は突然行方不明になった。そして現在 三代目エンペラーはエンペラーであるが 三代目だけは知らぬ秘密があった
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます!】
ちっき
ファンタジー
異世界に行った所で政治改革やら出来るわけでもなくチートも俺TUEEEE!も無く暇な時に異世界ぷらぷら遊びに行く日常にちょっとだけ楽しみが増える程度のスパイスを振りかけて。そんな気分でおでかけしてるのに王国でドタパタと、スパイスってそれ何万スコヴィルですか!
【完結】剣聖の娘はのんびりと後宮暮らしを楽しむ
O.T.I
ファンタジー
かつて王国騎士団にその人ありと言われた剣聖ジスタルは、とある事件をきっかけに引退して辺境の地に引き籠もってしまった。
それから時が過ぎ……彼の娘エステルは、かつての剣聖ジスタルをも超える剣の腕を持つ美少女だと、辺境の村々で噂になっていた。
ある時、その噂を聞きつけた辺境伯領主に呼び出されたエステル。
彼女の実力を目の当たりにした領主は、彼女に王国の騎士にならないか?と誘いかける。
剣術一筋だった彼女は、まだ見ぬ強者との出会いを夢見てそれを了承するのだった。
そして彼女は王都に向かい、騎士となるための試験を受けるはずだったのだが……
異世界召喚されて捨てられた僕が邪神であることを誰も知らない……たぶん。
レオナール D
ファンタジー
異世界召喚。
おなじみのそれに巻き込まれてしまった主人公・花散ウータと四人の友人。
友人達が『勇者』や『聖女』といった職業に選ばれる中で、ウータだけが『無職』という何の力もないジョブだった。
ウータは金を渡されて城を出ることになるのだが……召喚主である国王に嵌められて、兵士に斬殺されてしまう。
だが、彼らは気がついていなかった。ウータは学生で無職ではあったが、とんでもない秘密を抱えていることに。
花散ウータ。彼は人間ではなく邪神だったのである。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる