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第四章 学園編・1年後半

第194話 情報を求めて突撃じゃい

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 ファッティ伯爵邸から姿を消した私たちは、次の瞬間、テッテイにあるバッサーシ辺境伯の屋敷の敷地の前に立っていた。本当にこの瞬間移動魔法というのは恐ろしいものである。私だから使っても問題ないだけで、誰でも使えたらそれは暗殺とか盗みとか悪い事やりたい放題である。なので、あまり口外はしていないし、しても口止めはきちんとしている。スーラだって信用できるし、私の侍女だから教えてあげているのである。まっ、この魔法使おうと思っても魔力の消費が多すぎて普通の人には使えないでしょうけどね!
 とりあえず、バッサーシ邸までやって来た私は、門番に声を掛ける。
「おはようございますですわ。ちょっとよろしいでしょうか」
「なんだ、この太った令嬢は」
 私が挨拶をすると、門番からそんな声が返ってきた。まったく、夏の合宿の際に一回訪れてるっていうのに、この門番は忘れてしまっているのだろうか。
 だけども、ここでヒステリックに叫ぶのは淑女としていかがなものか。私は冷静に対応する。
「私、ファッティ伯爵家令嬢アンマリア・ファッティと申します。朝早くからの訪問で失礼致しますが、ヒーゴ・バッサーシ辺境伯様にお会いしたくてやって参りました」
「噓だ。こんな朝早くからやって来れるわけがないだろう。とっとと帰れ!」
 門番が騒ぐ。さすがにこれには侍女のスーラがカチンときていたようである。だけども、私は今にも怒鳴ろうとしているスーラを制止する。
 するとその時、別の門番が怒鳴り声に気が付いて駆け寄ってきた。
「これはアンマリア嬢。こんな朝早くからどうされたのですか?」
 こっちの門番は私の事を覚えていたようだ。実に普通に対応してくれた。
「ベジタリウス王国についてお話を伺いに飛んで参りました。来年から王子と王女が留学されるらしいとの事で、少し知識を身に付けておきたいと思いましてね」
「そうでしたか。それでしたら、朝食が済むまでお待ち頂けますでしょうか。旦那様にお話を通しに参りますので、その間は応接室にてお待ち頂けますでしょうか」
 私の用件を聞いた門番は、そのように提案してきた。なので、私は素直にそれを受け入れた。そして、手の空いている使用人を呼んで私たちを預けた後、失礼な態度を取った門番を叱っていた。言葉で怒鳴られて済むだけで相当に温情だと思うわよ。なんてったって私は王子の婚約者なんですからね。
 私たちは叱られる門番を尻目に、使用人に案内されて屋敷の中へと入っていった。
 応接室で飲み物の提供を受けながら待ちわびる私たち。さすがに朝早すぎというわけでもないのだけれど、まさかこんな時間に朝食を取っているだなんて思わなかった。
「まさか、こんな時間に来て待たされるとは思いませんでしたね」
「おそらく、バッサーシの方々は朝早くから鍛錬をなさっているのでしょう。そうでなければあの屈強さは説明がつきませんからね」
 スーラの疑問に、私はそのように答えておいた。すると、スーラはものすごく納得がいったようだった。
 どのくらい待っただろうか。ようやく部屋の外からものすごいうるさい足音が聞こえてきた。
「すまない、待たせたな!」
 バーンと扉が開いて現れたのは、サクラの父親であるヒーゴ・バッサーシである。
 私の父親が王都に居るというのに、なぜバッサーシ辺境伯が領地に居るのか。それは当主であると同時に国境警備の要なために、彼はずっとこのバッサーシ領に留まっているのである。領地以外で何かある場合は、大体妻のシーナ・バッサーシか、妹のミスミ・バッサーシが対応にあたるのである。
「いえ、朝早くから押しかけてしまい申し訳ございません、バッサーシ辺境伯様」
 私は素直に頭を下げて謝罪をしておく。前世でそこそこの社会人経験があるから、円滑に進めるための術は一応持っているつもりよ。
 太った体ではあるけれども、きれいにカーテシーをする私に、スーラがもの凄く感動していた。なんでそんな顔してるのよ。
「まったく、さすがは国の大臣を務めるファッティ伯爵の娘だな。何度見ても感心するぞ。うちの娘がきちんと作法を身に付けてるのも、きっと影響されたんだな」
 ヒーゴはそんな事を言っていた。あーやっぱりこの家で過ごしてたらミスミ教官みたいになっちゃってたのかしらね。なんとなく納得してしまう私なのである。
「で、なんでも今日はベジタリウスについて聞きたいとか聞いたが、どういう風の吹き回しなんだ?」
 まあ、さすがに気になるわよねえ……。ミール王国とは違ってほとんど情報が出回っていないもの、ベジタリウス王国は。
「ええとですね。来年から学園に王子と王女が留学されてくるというような話を小耳にはさみましたので、ベジタリウス王国について詳しく知っておきたいと思ったのです。これでも殿下の婚約者ですから」
「むぅ……」
 王子の婚約者という立場を利用して、ヒーゴに迫る私。さすがにこれにはヒーゴ・バッサーシとはいえど考え込んだようである。
「まあ、王族の留学となると一大事だからな、殿下の婚約者である君の耳に入るのは仕方がないか……」
 ヒーゴはどうやら折れた様子だ。よし、これで話が聞けるぞと、私の鼻息が荒くなる。
 バッサーシ辺境伯が持つベジタリウス王国についての情報とは、一体どのようなものなのか。私は目を輝かせてヒーゴの動向を見守るのだった。
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