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第四章 学園編・1年後半
第190話 再始動する聖女育成プロジェクト
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その日、家に戻った私はある事を思いついた。
「そうだわ。ミスミ教官の講義で筋肉痛になったら、サキに回復魔法の練習を兼ねて治させたらいいんだわ」
なんとも一石二鳥な話であった。私は痩せるために運動がしっかりできるし、サキには聖女たる回復魔法の練習をさせてあげられる。これは実にいいアイディアだと、私は自画自賛していた。
「そうと決まれば次回から早速実戦だわ!」
というわけで、私によるサキの育成が再び始まったのだった。
ミスミ教官による交流授業は週に1回。つまり、今度は思いついた日からまるっと一週間後である。なので、その前に私はサキに話を持ち掛ける事にした。
「サキ様、ちょっとお話よろしいでしょうか」
「なんでしょうか、アンマリア様」
講義室で私に声を掛けられたサキが反応する。
「これから毎週、ミスミ教官の講義を受けた私に治癒魔法を施して頂きたいと思います」
こう言われたサキは、ものすごく驚いた顔をしていた。
「それというのも、サキ様の聖女としての経験のためでございます。回復魔法の類となると、あまり使う機会がありません。ですので、ミスミ教官の講義で筋肉痛になられた方を治療すれば、いい経験になると思った次第でございます」
私が続けて言った言葉に、サキはなんとなく納得したような顔をしている。確かに、怪我などの治療というのは、そうそう機会のあるものではない。
「確かに……、筋肉痛を引きずっていては後の講義にも支障は出ますしね。アンマリア様、それ、やってみたいと思います」
サキはものすごく強い口調で乗ってきてくれた。これなら後はミスミ教官の許可を取ればいいだけだ。
そんなわけで、私はサキを連れて武術型の講義棟にあるミスミ教官の部屋を訪れた。
「うん? 誰だ?」
部屋の扉を叩くと、中からそんな声が聞こえてくる。ミスミ教官は間違いなく居た。
「アンマリア・ファッティとサキ・テトリバーです。今よろしいでしょうか、ミスミ教官」
私が答えると、
「ああ、構わない。しかし、ここは武術型の講義棟だぞ。魔法型のお前たちが来るのは実に珍しいな」
ミスミ教官からはこんな言葉が返ってきた。とりあえず許可は出たので、私たちは部屋へと入る。
「失礼致します」
「よく来たな。そういえば二人は、殿下たちの婚約者か。何の用なんだ?」
ぶっきらぼうに対応してくるミスミ教官。だけども、私はこの態度に怒ったりはしない。
「実はですね、こちらのサキ様を交流授業に同席させたいと思いましてお伺いに参りました」
「ほう、その理由を聞こうじゃないか」
ミスミ教官は眉をぴくりと動かしている。どうやら関心はあるようだ。
「理由は、サキ様に回復魔法の経験を積ませたいと思ったからです。これだけ平和ですと、回復系の魔法を使う機会なんてあまりありませんから」
「ふむ、それもそうだな。あれだけの鍛錬の中だ。慣れない学生の中にはけがをする事もあるだろう」
私の言い分に、ミスミ教官は興味深く耳を傾けていた。どうやら悪い反応ではなさそうである。
しばらくミスミ教官は考え込んだものの、自分の講義が厳しいという自覚があるらしく、
「よし、同席を認めよう。回復魔法の使い手は貴重だからな。しっかり鍛錬を積んでくれ」
こう言いながらも交流授業へのサキの同席を認めたのだった。
「場合によっては回復魔法の使える癒し手というのは、戦いの際に前線に赴く事もある。それこそ血みどろな現場だ。私の講義ではそうならないようには気を付けるが、しっかりと経験を積んでくれたまえ」
「はいっ!」
さすがに血みどろな現場という単語に一瞬血の気を引きかけたサキだが、ミスミ教官の言葉に力強く返事をしていた。
何にしてもこれでサキが交流授業に参加する事が決まった。理由としては。この時間の間、サキは何も講義を取っていなかったのは大きい。うまく乗ってくれてよかったと思う。
私がこんな事を持ち掛けた理由といえば、やはりサキが聖女として未覚醒な事が一番の理由である。先日の夏合宿でのスタンピードによって、サキは聖女としての力を覚醒させるはずだったのだ。それが予想外の事態で覚醒できなかったのである。それゆえに、私の中ではちょっとした心残りになっていたのだ。
だって、ゲームをやり込んだ私にとってはサキは聖女だし、8歳の時の洗礼式でも聖女判定を受けているんだもの。だったら、ちゃんとそれらしい力を身に付けさせてあげたいって思うじゃない。じゃないと、このままじゃ将来的にサキを叩く人が出てきかねないわ。私の気持ちをすっきりさせたいってのもあるけど、これはサキのためなのよ。聖女となったサキは、万一断罪ルートに向かった際には最大の障害になるけれど、やっぱり私としては放っておけないわ。
複雑な思いはあるものの、とにかく予定通りにミスミ教官の担当する交流授業にサキを引き込む事に成功した私なのである。
鼻息荒く意気込む私に対して、サキからどういった目を向けられているのか、この時の私はまったく知る由もなかったのである。
「そうだわ。ミスミ教官の講義で筋肉痛になったら、サキに回復魔法の練習を兼ねて治させたらいいんだわ」
なんとも一石二鳥な話であった。私は痩せるために運動がしっかりできるし、サキには聖女たる回復魔法の練習をさせてあげられる。これは実にいいアイディアだと、私は自画自賛していた。
「そうと決まれば次回から早速実戦だわ!」
というわけで、私によるサキの育成が再び始まったのだった。
ミスミ教官による交流授業は週に1回。つまり、今度は思いついた日からまるっと一週間後である。なので、その前に私はサキに話を持ち掛ける事にした。
「サキ様、ちょっとお話よろしいでしょうか」
「なんでしょうか、アンマリア様」
講義室で私に声を掛けられたサキが反応する。
「これから毎週、ミスミ教官の講義を受けた私に治癒魔法を施して頂きたいと思います」
こう言われたサキは、ものすごく驚いた顔をしていた。
「それというのも、サキ様の聖女としての経験のためでございます。回復魔法の類となると、あまり使う機会がありません。ですので、ミスミ教官の講義で筋肉痛になられた方を治療すれば、いい経験になると思った次第でございます」
私が続けて言った言葉に、サキはなんとなく納得したような顔をしている。確かに、怪我などの治療というのは、そうそう機会のあるものではない。
「確かに……、筋肉痛を引きずっていては後の講義にも支障は出ますしね。アンマリア様、それ、やってみたいと思います」
サキはものすごく強い口調で乗ってきてくれた。これなら後はミスミ教官の許可を取ればいいだけだ。
そんなわけで、私はサキを連れて武術型の講義棟にあるミスミ教官の部屋を訪れた。
「うん? 誰だ?」
部屋の扉を叩くと、中からそんな声が聞こえてくる。ミスミ教官は間違いなく居た。
「アンマリア・ファッティとサキ・テトリバーです。今よろしいでしょうか、ミスミ教官」
私が答えると、
「ああ、構わない。しかし、ここは武術型の講義棟だぞ。魔法型のお前たちが来るのは実に珍しいな」
ミスミ教官からはこんな言葉が返ってきた。とりあえず許可は出たので、私たちは部屋へと入る。
「失礼致します」
「よく来たな。そういえば二人は、殿下たちの婚約者か。何の用なんだ?」
ぶっきらぼうに対応してくるミスミ教官。だけども、私はこの態度に怒ったりはしない。
「実はですね、こちらのサキ様を交流授業に同席させたいと思いましてお伺いに参りました」
「ほう、その理由を聞こうじゃないか」
ミスミ教官は眉をぴくりと動かしている。どうやら関心はあるようだ。
「理由は、サキ様に回復魔法の経験を積ませたいと思ったからです。これだけ平和ですと、回復系の魔法を使う機会なんてあまりありませんから」
「ふむ、それもそうだな。あれだけの鍛錬の中だ。慣れない学生の中にはけがをする事もあるだろう」
私の言い分に、ミスミ教官は興味深く耳を傾けていた。どうやら悪い反応ではなさそうである。
しばらくミスミ教官は考え込んだものの、自分の講義が厳しいという自覚があるらしく、
「よし、同席を認めよう。回復魔法の使い手は貴重だからな。しっかり鍛錬を積んでくれ」
こう言いながらも交流授業へのサキの同席を認めたのだった。
「場合によっては回復魔法の使える癒し手というのは、戦いの際に前線に赴く事もある。それこそ血みどろな現場だ。私の講義ではそうならないようには気を付けるが、しっかりと経験を積んでくれたまえ」
「はいっ!」
さすがに血みどろな現場という単語に一瞬血の気を引きかけたサキだが、ミスミ教官の言葉に力強く返事をしていた。
何にしてもこれでサキが交流授業に参加する事が決まった。理由としては。この時間の間、サキは何も講義を取っていなかったのは大きい。うまく乗ってくれてよかったと思う。
私がこんな事を持ち掛けた理由といえば、やはりサキが聖女として未覚醒な事が一番の理由である。先日の夏合宿でのスタンピードによって、サキは聖女としての力を覚醒させるはずだったのだ。それが予想外の事態で覚醒できなかったのである。それゆえに、私の中ではちょっとした心残りになっていたのだ。
だって、ゲームをやり込んだ私にとってはサキは聖女だし、8歳の時の洗礼式でも聖女判定を受けているんだもの。だったら、ちゃんとそれらしい力を身に付けさせてあげたいって思うじゃない。じゃないと、このままじゃ将来的にサキを叩く人が出てきかねないわ。私の気持ちをすっきりさせたいってのもあるけど、これはサキのためなのよ。聖女となったサキは、万一断罪ルートに向かった際には最大の障害になるけれど、やっぱり私としては放っておけないわ。
複雑な思いはあるものの、とにかく予定通りにミスミ教官の担当する交流授業にサキを引き込む事に成功した私なのである。
鼻息荒く意気込む私に対して、サキからどういった目を向けられているのか、この時の私はまったく知る由もなかったのである。
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