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第四章 学園編・1年後半
第189話 地獄のスパルタ講義
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学園祭終了後、初めてのミスミ教官の講義での事だった。
「サクラ・バッサーシ。剣術大会の優勝、実におめでとう。さすがは私の姪っ子だな。実に誇らしく思う」
講義が始まるや否や、姪っ子をべた褒めである。まあ、身内が優勝したのだから嬉しいのは分かる。だけれども、サクラは将来的にバッサーシの家を継ぐのだから、あまり甘やかすようなものは良くないのではないのかしら。
「しかし、そのサクラを追い詰めたタン・ミノレバーもなかなかな腕前だったぞ。この私自らが鍛えてやりたいくらいだ。どうだ、せっかく私の講義に参加しているのだから、一度手合わせをしてみないか?」
「いえ、サクラ嬢の強さだけで勘弁願います」
タンもほぼ即答で断っていた。現役騎士とお手合わせできるのだから、これは名誉な事と受けそうなところではある。だが、サクラとの戦いでその片鱗を見せられた事でタンには恐怖が生まれていたのだ。そのくらいにバッサーシの家の能力はとんでもないのである。
「なんだ、それは残念だな。まあ、うちの家に婿入りする事になったら、その時に可愛がってやろう」
ミスミ教官がこう言うと、タンはあえて返事をしなかった。どう言っても無駄だと悟ったのだろう。だが、周りもこれを茶化すような真似はできなかった。変な事を言えば自分にその火の粉が降りかかってくるのだから。
「あとは、アンマリア・ファッティだったな」
「は、はい!」
急に名前を呼ばれた私は、慌てて返事をする。
「その体格であれだけ戦えた事は評価する。痩せた時にどれだけの動きができるのか、実に楽しみだな」
「あ、はは、善処します……」
その時ミスミ教官から向けられた笑顔に、私はものすごく寒気を感じてしまった。
「アンマリア様、おばが申し訳ありません」
「い、いえ。サクラ様はお気になさらないで下さい」
すぐさまサクラが謝罪してきたが、私はとにかく笑っておいた。
「よーし、学園祭で少し気がたるんだろうからな。気合いを入れ直すために今日もがっつり鍛えてやる、覚悟しておけ」
平常運転なミスミ教官の言葉に、学生一同から悲鳴が響いていた。だがしかし、この講義を取ったのは自分たちであるがために、学生たちは渋々、ミスミ教官の鬼指導の洗礼を再び味わったのだった。
講義が終われば死屍累々。立っていたのは私とサクラとタンの三人だけである。あとはみんな地面に横たわっていた。とはいえ、立っている私たちもだいぶ息が上がっていた。サクラですら肩で呼吸するくらいである。
「ふむ、まだまだ軟弱よな。卒業するまでには一線級に立てるくらいまで鍛え上げてやるから、覚悟しておけ。騎士団の訓練など、これを鎧を着た状態でやるのだからな」
「うげげげ……」
ミスミ教官からの衝撃的な言葉に、学生の一部からは倒れ込んだまま悲鳴じみた声が漏れ出ていた。まあそうなるわよね。
「しかし、剣術大会に出ていた三人はさすがだな。みんなも見習うようにな」
そう言って、ミスミ教官は訓練場を後にしていた。
「ごめんなさいね。おば様ったらまったく手加減がなくて」
身内の事だけに、サクラがみんなに謝罪していた。
「とはいえ、実際騎士団の訓練ってこんなものだからな。さすがに毎日ってわけじゃないが、週に何度かはこれくらい厳しい日があるんだ」
タンはこんな風に言っていた。さすが父親が騎士をするだけの事はある。さらにタンもそこに参加した事があるからさらに説得力があった。とはいえ、学園祭で少々気が抜けていた面々には厳しすぎたようだし、その上、心なしか学園祭までよりも厳しい内容だった気がする。気の緩みを許さない、バッサーシ辺境伯の血筋ゆえの厳しさなのだろうか……。
でも、さすがにこの状態を長く放置しておくわけにもいかないので、私はこっそり回復魔法を掛けておく。
「それじゃ、次の講義に遅れますから移動しましょうか」
「ええ、そうですね」
「じゃ、俺がしばらく残ってこいつらの面倒を見ているよ」
「頼みましたわよ、タン様」
そんなわけで、その場をタンに任せて私とサクラは訓練場から移動したのだった。
昼食の時間を迎えると、さすがに体のあちこちが悲鳴を上げていた。さすがに筋肉痛が起きてしまったのだ。
「あたたたた……」
「お姉様、大丈夫ですか?」
「アンマリア様、無理をなさらずに」
私が痛がっていると、モモとサキ、それにラムも心配してくれている。
「あ、ありがとうございます。ミスミ教官の講義でしごかれましたのでね、ちょっと全身が筋肉痛で悲鳴を上げているみたいです」
私はこう言いながら、回復魔法を掛けている。せめてご飯くらいは食べられるようにしておかないとね。
「ミスミ・バッサーシ様ですか。確かにあの方なら手加減はなさそうですわね……」
「そういえば、今日の武術型との交流授業は、あのミスミ教官のでしたね」
ラムは頬に手を当てながら困惑しているし、サキは思い出したかに呟いていた。武術型との交流授業はいくつかあるものの、今日の講義はミスミ教官の担当で、数ある中でも一番厳しいと言われているものだった。ここ2か月間はみんな学園祭に気が向いていて、すっかり失念していたようである。
「本当にお姉様、なぜミスミ教官の講義をお取りになったのですか……」
「なんでって、痩せるためよ!」
モモが改めて確認してくるので、私はそう即答しておいた。すると、私のこの答えにモモとサキは呆れ、ラムは笑いを堪えていた。あれ、なんか私変な事言いましたか?
私がちらちらと顔を覗き込もうとすると、みんなして顔を背けていた。まったく、何なのよね、もう。
そんなわけで、学園祭が終わった私たちには、また平穏な日常が戻ってきたのだった。
「サクラ・バッサーシ。剣術大会の優勝、実におめでとう。さすがは私の姪っ子だな。実に誇らしく思う」
講義が始まるや否や、姪っ子をべた褒めである。まあ、身内が優勝したのだから嬉しいのは分かる。だけれども、サクラは将来的にバッサーシの家を継ぐのだから、あまり甘やかすようなものは良くないのではないのかしら。
「しかし、そのサクラを追い詰めたタン・ミノレバーもなかなかな腕前だったぞ。この私自らが鍛えてやりたいくらいだ。どうだ、せっかく私の講義に参加しているのだから、一度手合わせをしてみないか?」
「いえ、サクラ嬢の強さだけで勘弁願います」
タンもほぼ即答で断っていた。現役騎士とお手合わせできるのだから、これは名誉な事と受けそうなところではある。だが、サクラとの戦いでその片鱗を見せられた事でタンには恐怖が生まれていたのだ。そのくらいにバッサーシの家の能力はとんでもないのである。
「なんだ、それは残念だな。まあ、うちの家に婿入りする事になったら、その時に可愛がってやろう」
ミスミ教官がこう言うと、タンはあえて返事をしなかった。どう言っても無駄だと悟ったのだろう。だが、周りもこれを茶化すような真似はできなかった。変な事を言えば自分にその火の粉が降りかかってくるのだから。
「あとは、アンマリア・ファッティだったな」
「は、はい!」
急に名前を呼ばれた私は、慌てて返事をする。
「その体格であれだけ戦えた事は評価する。痩せた時にどれだけの動きができるのか、実に楽しみだな」
「あ、はは、善処します……」
その時ミスミ教官から向けられた笑顔に、私はものすごく寒気を感じてしまった。
「アンマリア様、おばが申し訳ありません」
「い、いえ。サクラ様はお気になさらないで下さい」
すぐさまサクラが謝罪してきたが、私はとにかく笑っておいた。
「よーし、学園祭で少し気がたるんだろうからな。気合いを入れ直すために今日もがっつり鍛えてやる、覚悟しておけ」
平常運転なミスミ教官の言葉に、学生一同から悲鳴が響いていた。だがしかし、この講義を取ったのは自分たちであるがために、学生たちは渋々、ミスミ教官の鬼指導の洗礼を再び味わったのだった。
講義が終われば死屍累々。立っていたのは私とサクラとタンの三人だけである。あとはみんな地面に横たわっていた。とはいえ、立っている私たちもだいぶ息が上がっていた。サクラですら肩で呼吸するくらいである。
「ふむ、まだまだ軟弱よな。卒業するまでには一線級に立てるくらいまで鍛え上げてやるから、覚悟しておけ。騎士団の訓練など、これを鎧を着た状態でやるのだからな」
「うげげげ……」
ミスミ教官からの衝撃的な言葉に、学生の一部からは倒れ込んだまま悲鳴じみた声が漏れ出ていた。まあそうなるわよね。
「しかし、剣術大会に出ていた三人はさすがだな。みんなも見習うようにな」
そう言って、ミスミ教官は訓練場を後にしていた。
「ごめんなさいね。おば様ったらまったく手加減がなくて」
身内の事だけに、サクラがみんなに謝罪していた。
「とはいえ、実際騎士団の訓練ってこんなものだからな。さすがに毎日ってわけじゃないが、週に何度かはこれくらい厳しい日があるんだ」
タンはこんな風に言っていた。さすが父親が騎士をするだけの事はある。さらにタンもそこに参加した事があるからさらに説得力があった。とはいえ、学園祭で少々気が抜けていた面々には厳しすぎたようだし、その上、心なしか学園祭までよりも厳しい内容だった気がする。気の緩みを許さない、バッサーシ辺境伯の血筋ゆえの厳しさなのだろうか……。
でも、さすがにこの状態を長く放置しておくわけにもいかないので、私はこっそり回復魔法を掛けておく。
「それじゃ、次の講義に遅れますから移動しましょうか」
「ええ、そうですね」
「じゃ、俺がしばらく残ってこいつらの面倒を見ているよ」
「頼みましたわよ、タン様」
そんなわけで、その場をタンに任せて私とサクラは訓練場から移動したのだった。
昼食の時間を迎えると、さすがに体のあちこちが悲鳴を上げていた。さすがに筋肉痛が起きてしまったのだ。
「あたたたた……」
「お姉様、大丈夫ですか?」
「アンマリア様、無理をなさらずに」
私が痛がっていると、モモとサキ、それにラムも心配してくれている。
「あ、ありがとうございます。ミスミ教官の講義でしごかれましたのでね、ちょっと全身が筋肉痛で悲鳴を上げているみたいです」
私はこう言いながら、回復魔法を掛けている。せめてご飯くらいは食べられるようにしておかないとね。
「ミスミ・バッサーシ様ですか。確かにあの方なら手加減はなさそうですわね……」
「そういえば、今日の武術型との交流授業は、あのミスミ教官のでしたね」
ラムは頬に手を当てながら困惑しているし、サキは思い出したかに呟いていた。武術型との交流授業はいくつかあるものの、今日の講義はミスミ教官の担当で、数ある中でも一番厳しいと言われているものだった。ここ2か月間はみんな学園祭に気が向いていて、すっかり失念していたようである。
「本当にお姉様、なぜミスミ教官の講義をお取りになったのですか……」
「なんでって、痩せるためよ!」
モモが改めて確認してくるので、私はそう即答しておいた。すると、私のこの答えにモモとサキは呆れ、ラムは笑いを堪えていた。あれ、なんか私変な事言いましたか?
私がちらちらと顔を覗き込もうとすると、みんなして顔を背けていた。まったく、何なのよね、もう。
そんなわけで、学園祭が終わった私たちには、また平穏な日常が戻ってきたのだった。
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