上 下
185 / 500
第四章 学園編・1年後半

第185話 第1回婚約者決戦

しおりを挟む
 20分ほどの休憩を挟み、いよいよ決勝戦が行われる。
 この対戦はタン・ミノレバーとサクラ・バッサーシという、まさかの婚約者対決となったのだった。その事を知っている人も知らない人も、それはものすごく盛り上がっていた。
「ものすごく盛り上がってますわね」
「そりゃそうさ。どっちもこの国では有名な騎士の家系だからな。その子ども同士の対決となりゃ、盛り上がるってもんよ」
「へー」
 遠目に見ているものの、エスカとアーサリーのそういう会話が聞こえてくる気がする。
 実際問題、この二人は注目株である。どちらもここまで圧勝という圧巻の試合ぶりで勝ち上がってきていたのだ。タンはフィレン王子だけは苦戦したもの、それでもごり押しでなんとかしてしまったのだ。それは婚約者という事実を抜きにしても、戦いぶりに注目が集まるというものなのである。私もその一人だもの。
 会場全体の注目が集まる中、いよいよ会場にタンとサクラの二人が登場する。それと同時に、会場は割れんばかりの大歓声と拍手に包まれた。
「今年は1年生ばかりか。レベルがたけぇな、おい」
「どれだけの逸材ぞろいなんだよ」
「いやいや、フィレン殿下が参加されてなければ2、3年生はもっと居たと思うぞ」
「おい黙れ。殿下のせいにするとか不敬罪に問われたいのか?!」
 全部聞こえてますわよ、先輩方。私は口元を引きつらせながら、笑顔で前を向いていた。
 そんな周りの状況にお構いなく、タンとサクラの二人は結界の中へと入っていく。
「タン様、このような場でお顔を合わせるとは存じませんでしたわ」
「それは俺の方もだぞ。参加するのは分かっていたが、まさか決勝で顔を合わせる事になるとはな」
「ええ、まったくですね」
 タンとサクラが会話をしている。私の耳元まではさすがに聞こえてこないけれども、二人の雰囲気を見ていれば大体想像がつくというものである。
「さあ、バッサーシの力がどんなものか、俺に見せてもらおうか!」
「でしたらこちらも……、王国騎士の血筋の力、見せて頂きましょうか!」
 模擬剣を正面で構える二人。はあ、本当に様になるわね……。
「始め!」
 私がうっとりしている間に、決勝戦の火ぶたが切って落とされた。
「うおおおおっ!!」
「たあああっ!!」
 試合開始とともに、二人が正面からぶつかり合う。
 ガキーンという金属音が響き渡り、しばらく睨み合いが続く。そうかと思えば、互いに剣を弾き、剣を打ち合っている。この息をつかせぬような攻防、これこそこの剣術大会の醍醐味である。
 タンもサクラも普段から剣の稽古を積んでおり、おそらく体力的にも筋力的にもさほど差はないはずである。そこには男女の壁もぶち壊された世界があるはずだった。
 だが、現実は甘くなかった。やはり、体格的に少し劣るサクラが押され始めたのである。
「どうした、サクラ。バッサーシの力はその程度か!」
「くっ、なんて剣の重さ。これが普段の打ち合いの差なのかしら……」
 そう、二人が普段稽古で相手している人物に違いがあったのだ。タンは男性騎士を相手にする事もあるし、確実に男性相手に打ち込みをしていた。ところが、サクラは女性相手というのも多かったのである。どうしても生物として女性は男性に劣ってしまうため、サクラは激しくても軽い剣戟を相手にしかできなかったのである。その差がここで大きく響き始めたのだった。
「ですが、国境を守護するバッサーシの力、甘く見ないで頂きたいですね!」
 必死にタンの攻撃を凌ぎながらも、サクラは反撃の糸口を探していた。そして、タンの攻撃の一瞬の隙を突いて反撃に出る。
「ここっ!」
「うおっ?!」
 鋭い剣筋がタンに向けて放たれる。さすがのタンもこれには一瞬姿勢を崩す。だが、そこはさすが騎士団を本気で目指すタンである。すぐに体勢を整えてサクラに続けて攻撃を打ち込んでいく。
 それでもサクラの方も崩れない。大振りが空振りした後というのは隙が大きいのだが、すぐに戻してタンの攻撃を凌いでいるのだ。この打ち合いの応酬に、会場の熱気は最高潮を迎えている。
「同じ人間とは思えませんね」
 サキですらそう漏らすタンとサクラの激しい攻防。だが、次第にサクラの方が防戦一方へと変わっていく。大振りによる体力の消耗が響いたのだろうか。それでもタンの激しい打ち込みを凌いでいるのだから、サクラの能力は高いのである。
「さすがに一瞬に賭けすぎたようだな、サクラ」
「ふふっ、そうみたいですね」
 追い込むタンに対して、サクラはまだ笑みを浮かべている。
「やせ我慢はやめてそろそろ降参してくれ。君を傷付けるのはできるだけ避けたいんだが……」
「あら、優しいですのね。ですが、ここは戦場だと思って下さい。敵への情けは、死を意味します!」
「ぐっ!」
 少し弱気になったタンに対し、サクラは揺さぶりをかける。
「そうか……、だったらこの一撃で終わらせてくれる!」
 素早い打ち込みをやめて、一気に振りかぶったタン。だが、これはさすがに大きすぎる隙である。そこをすかさずサクラが強襲する。
「甘いですよ、タン様!」
 剣を振り下ろすタン。剣を振り上げるサクラ。
 勝者は一体どっちだ?!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?

tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」 「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」 子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………

naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます! ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話……… でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ? まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら? 少女はパタンッと本を閉じる。 そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて── アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな! くははははっ!!! 静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

婚約破棄イベントが壊れた!

秋月一花
恋愛
 学園の卒業パーティー。たった一人で姿を現した私、カリスタ。会場内はざわつき、私へと一斉に視線が集まる。  ――卒業パーティーで、私は婚約破棄を宣言される。長かった。とっても長かった。ヒロイン、頑張って王子様と一緒に国を持ち上げてね!  ……って思ったら、これ私の知っている婚約破棄イベントじゃない! 「カリスタ、どうして先に行ってしまったんだい?」  おかしい、おかしい。絶対におかしい!  国外追放されて平民として生きるつもりだったのに! このままだと私が王妃になってしまう! どうしてそうなった、ヒロイン王太子狙いだったじゃん! 2021/07/04 カクヨム様にも投稿しました。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

処理中です...