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第四章 学園編・1年後半
第185話 第1回婚約者決戦
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20分ほどの休憩を挟み、いよいよ決勝戦が行われる。
この対戦はタン・ミノレバーとサクラ・バッサーシという、まさかの婚約者対決となったのだった。その事を知っている人も知らない人も、それはものすごく盛り上がっていた。
「ものすごく盛り上がってますわね」
「そりゃそうさ。どっちもこの国では有名な騎士の家系だからな。その子ども同士の対決となりゃ、盛り上がるってもんよ」
「へー」
遠目に見ているものの、エスカとアーサリーのそういう会話が聞こえてくる気がする。
実際問題、この二人は注目株である。どちらもここまで圧勝という圧巻の試合ぶりで勝ち上がってきていたのだ。タンはフィレン王子だけは苦戦したもの、それでもごり押しでなんとかしてしまったのだ。それは婚約者という事実を抜きにしても、戦いぶりに注目が集まるというものなのである。私もその一人だもの。
会場全体の注目が集まる中、いよいよ会場にタンとサクラの二人が登場する。それと同時に、会場は割れんばかりの大歓声と拍手に包まれた。
「今年は1年生ばかりか。レベルがたけぇな、おい」
「どれだけの逸材ぞろいなんだよ」
「いやいや、フィレン殿下が参加されてなければ2、3年生はもっと居たと思うぞ」
「おい黙れ。殿下のせいにするとか不敬罪に問われたいのか?!」
全部聞こえてますわよ、先輩方。私は口元を引きつらせながら、笑顔で前を向いていた。
そんな周りの状況にお構いなく、タンとサクラの二人は結界の中へと入っていく。
「タン様、このような場でお顔を合わせるとは存じませんでしたわ」
「それは俺の方もだぞ。参加するのは分かっていたが、まさか決勝で顔を合わせる事になるとはな」
「ええ、まったくですね」
タンとサクラが会話をしている。私の耳元まではさすがに聞こえてこないけれども、二人の雰囲気を見ていれば大体想像がつくというものである。
「さあ、バッサーシの力がどんなものか、俺に見せてもらおうか!」
「でしたらこちらも……、王国騎士の血筋の力、見せて頂きましょうか!」
模擬剣を正面で構える二人。はあ、本当に様になるわね……。
「始め!」
私がうっとりしている間に、決勝戦の火ぶたが切って落とされた。
「うおおおおっ!!」
「たあああっ!!」
試合開始とともに、二人が正面からぶつかり合う。
ガキーンという金属音が響き渡り、しばらく睨み合いが続く。そうかと思えば、互いに剣を弾き、剣を打ち合っている。この息をつかせぬような攻防、これこそこの剣術大会の醍醐味である。
タンもサクラも普段から剣の稽古を積んでおり、おそらく体力的にも筋力的にもさほど差はないはずである。そこには男女の壁もぶち壊された世界があるはずだった。
だが、現実は甘くなかった。やはり、体格的に少し劣るサクラが押され始めたのである。
「どうした、サクラ。バッサーシの力はその程度か!」
「くっ、なんて剣の重さ。これが普段の打ち合いの差なのかしら……」
そう、二人が普段稽古で相手している人物に違いがあったのだ。タンは男性騎士を相手にする事もあるし、確実に男性相手に打ち込みをしていた。ところが、サクラは女性相手というのも多かったのである。どうしても生物として女性は男性に劣ってしまうため、サクラは激しくても軽い剣戟を相手にしかできなかったのである。その差がここで大きく響き始めたのだった。
「ですが、国境を守護するバッサーシの力、甘く見ないで頂きたいですね!」
必死にタンの攻撃を凌ぎながらも、サクラは反撃の糸口を探していた。そして、タンの攻撃の一瞬の隙を突いて反撃に出る。
「ここっ!」
「うおっ?!」
鋭い剣筋がタンに向けて放たれる。さすがのタンもこれには一瞬姿勢を崩す。だが、そこはさすが騎士団を本気で目指すタンである。すぐに体勢を整えてサクラに続けて攻撃を打ち込んでいく。
それでもサクラの方も崩れない。大振りが空振りした後というのは隙が大きいのだが、すぐに戻してタンの攻撃を凌いでいるのだ。この打ち合いの応酬に、会場の熱気は最高潮を迎えている。
「同じ人間とは思えませんね」
サキですらそう漏らすタンとサクラの激しい攻防。だが、次第にサクラの方が防戦一方へと変わっていく。大振りによる体力の消耗が響いたのだろうか。それでもタンの激しい打ち込みを凌いでいるのだから、サクラの能力は高いのである。
「さすがに一瞬に賭けすぎたようだな、サクラ」
「ふふっ、そうみたいですね」
追い込むタンに対して、サクラはまだ笑みを浮かべている。
「やせ我慢はやめてそろそろ降参してくれ。君を傷付けるのはできるだけ避けたいんだが……」
「あら、優しいですのね。ですが、ここは戦場だと思って下さい。敵への情けは、死を意味します!」
「ぐっ!」
少し弱気になったタンに対し、サクラは揺さぶりをかける。
「そうか……、だったらこの一撃で終わらせてくれる!」
素早い打ち込みをやめて、一気に振りかぶったタン。だが、これはさすがに大きすぎる隙である。そこをすかさずサクラが強襲する。
「甘いですよ、タン様!」
剣を振り下ろすタン。剣を振り上げるサクラ。
勝者は一体どっちだ?!
この対戦はタン・ミノレバーとサクラ・バッサーシという、まさかの婚約者対決となったのだった。その事を知っている人も知らない人も、それはものすごく盛り上がっていた。
「ものすごく盛り上がってますわね」
「そりゃそうさ。どっちもこの国では有名な騎士の家系だからな。その子ども同士の対決となりゃ、盛り上がるってもんよ」
「へー」
遠目に見ているものの、エスカとアーサリーのそういう会話が聞こえてくる気がする。
実際問題、この二人は注目株である。どちらもここまで圧勝という圧巻の試合ぶりで勝ち上がってきていたのだ。タンはフィレン王子だけは苦戦したもの、それでもごり押しでなんとかしてしまったのだ。それは婚約者という事実を抜きにしても、戦いぶりに注目が集まるというものなのである。私もその一人だもの。
会場全体の注目が集まる中、いよいよ会場にタンとサクラの二人が登場する。それと同時に、会場は割れんばかりの大歓声と拍手に包まれた。
「今年は1年生ばかりか。レベルがたけぇな、おい」
「どれだけの逸材ぞろいなんだよ」
「いやいや、フィレン殿下が参加されてなければ2、3年生はもっと居たと思うぞ」
「おい黙れ。殿下のせいにするとか不敬罪に問われたいのか?!」
全部聞こえてますわよ、先輩方。私は口元を引きつらせながら、笑顔で前を向いていた。
そんな周りの状況にお構いなく、タンとサクラの二人は結界の中へと入っていく。
「タン様、このような場でお顔を合わせるとは存じませんでしたわ」
「それは俺の方もだぞ。参加するのは分かっていたが、まさか決勝で顔を合わせる事になるとはな」
「ええ、まったくですね」
タンとサクラが会話をしている。私の耳元まではさすがに聞こえてこないけれども、二人の雰囲気を見ていれば大体想像がつくというものである。
「さあ、バッサーシの力がどんなものか、俺に見せてもらおうか!」
「でしたらこちらも……、王国騎士の血筋の力、見せて頂きましょうか!」
模擬剣を正面で構える二人。はあ、本当に様になるわね……。
「始め!」
私がうっとりしている間に、決勝戦の火ぶたが切って落とされた。
「うおおおおっ!!」
「たあああっ!!」
試合開始とともに、二人が正面からぶつかり合う。
ガキーンという金属音が響き渡り、しばらく睨み合いが続く。そうかと思えば、互いに剣を弾き、剣を打ち合っている。この息をつかせぬような攻防、これこそこの剣術大会の醍醐味である。
タンもサクラも普段から剣の稽古を積んでおり、おそらく体力的にも筋力的にもさほど差はないはずである。そこには男女の壁もぶち壊された世界があるはずだった。
だが、現実は甘くなかった。やはり、体格的に少し劣るサクラが押され始めたのである。
「どうした、サクラ。バッサーシの力はその程度か!」
「くっ、なんて剣の重さ。これが普段の打ち合いの差なのかしら……」
そう、二人が普段稽古で相手している人物に違いがあったのだ。タンは男性騎士を相手にする事もあるし、確実に男性相手に打ち込みをしていた。ところが、サクラは女性相手というのも多かったのである。どうしても生物として女性は男性に劣ってしまうため、サクラは激しくても軽い剣戟を相手にしかできなかったのである。その差がここで大きく響き始めたのだった。
「ですが、国境を守護するバッサーシの力、甘く見ないで頂きたいですね!」
必死にタンの攻撃を凌ぎながらも、サクラは反撃の糸口を探していた。そして、タンの攻撃の一瞬の隙を突いて反撃に出る。
「ここっ!」
「うおっ?!」
鋭い剣筋がタンに向けて放たれる。さすがのタンもこれには一瞬姿勢を崩す。だが、そこはさすが騎士団を本気で目指すタンである。すぐに体勢を整えてサクラに続けて攻撃を打ち込んでいく。
それでもサクラの方も崩れない。大振りが空振りした後というのは隙が大きいのだが、すぐに戻してタンの攻撃を凌いでいるのだ。この打ち合いの応酬に、会場の熱気は最高潮を迎えている。
「同じ人間とは思えませんね」
サキですらそう漏らすタンとサクラの激しい攻防。だが、次第にサクラの方が防戦一方へと変わっていく。大振りによる体力の消耗が響いたのだろうか。それでもタンの激しい打ち込みを凌いでいるのだから、サクラの能力は高いのである。
「さすがに一瞬に賭けすぎたようだな、サクラ」
「ふふっ、そうみたいですね」
追い込むタンに対して、サクラはまだ笑みを浮かべている。
「やせ我慢はやめてそろそろ降参してくれ。君を傷付けるのはできるだけ避けたいんだが……」
「あら、優しいですのね。ですが、ここは戦場だと思って下さい。敵への情けは、死を意味します!」
「ぐっ!」
少し弱気になったタンに対し、サクラは揺さぶりをかける。
「そうか……、だったらこの一撃で終わらせてくれる!」
素早い打ち込みをやめて、一気に振りかぶったタン。だが、これはさすがに大きすぎる隙である。そこをすかさずサクラが強襲する。
「甘いですよ、タン様!」
剣を振り下ろすタン。剣を振り上げるサクラ。
勝者は一体どっちだ?!
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