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第四章 学園編・1年後半

第183話 何を見せられているのだろうか

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「さすがでしたわ、フィレン殿下」
 準々決勝の試合はあっさりと終わり、私はリブロ王子と一緒にフィレン王子を労いに行っていた。
「ありがとう、アンマリア。とっさの事だったけれど、うまくいってよかったよ」
 フィレン王子は照れくさそうに笑っている。
「だけど、次はそうもいかないだろうね。なにせ、あのタンが相手だからね」
 フィレン王子はそう言って、表情を一気に引き締めていた。そう、同い年のタンも準々決勝の相手を圧勝でねじ伏せていた。1年上の先輩ですら赤子の手をひねるような楽々の勝利である。これが王国騎士を本気で目指す者の実力というものなのだろう。
 だが、次に勝ったとしても、おそらく決勝はほぼサクラが出てくるはずである。サクラも準々決勝は剛腕が相手だったというのにあっさりと勝ってしまっていた。2倍近い腕の太さがあったはずなのにどうしてその剣を受け止められるのか。バッサーシ辺境伯の血筋のなせる業なのかも知れない。恐るべし、筋肉の一族……!
「とりあえず、その勝負は午後ですから、今はしっかりと休みましょう。タン様相手となると、冷静さが求められます」
「うん、そうだね。だったら、一緒にどこかでお昼にしようか、アンマリア」
「ふえ……?!」
 私の提案に対するフィレン王子の返しに、私はついドキマギしてしまう。王子からの食事のお誘いだなんて、うう、私が太ってなければ絵になったはずだわ!
「アンマリア? 一応僕も居るのですが?」
 リブロ王子が顔を引きつらせながら言っている。
「申し訳ございません、リブロ殿下」
 そんなリブロ王子の事を可愛いと思いつつも、私はとりあえず謝罪をしておく。
 さて、王子二人と食事をする事になったのだが、問題はどうやって食事を調達するかという事だ。今の時間なら食堂は混みあっている。どこかに食事を手配するとしても時間が掛かってしまう。となれば、私が思いついた方法は一つだった。
 そうやってやって来たのは、ボンジール商会の出店だった。
「お姉様。どうしてこちらに?」
「モモ、繁盛してるかしら」
 モモの質問には答えず、状況を確認する私。だって、発言したのはほぼ同時ですもの。
「ここに来たのは食事をするためですわ。ここの横なら一昨日と昨日と調理をしていますから、何も問題ないかと思いますのでね」
「お姉様、訳が分かりません」
 私が理由を答えると、モモは真顔でそう言い返してきた。まあ、横に王子二人も居るのだから余計そうだとは思う。
「とりあえず、うどんを少しアレンジしていきますわ。それではフィレン殿下、リブロ殿下少々お待ち下さい」
「分かったよ、アンマリア」
 というわけで、テーブルと椅子を収納魔法から取り出して二人を寛がせる。その間に私は、余ったうどんをを取り出して茹でる前に、だしと乗せる具材の準備をする。クッケン湖の水から取った塩とミール王国で買ってきた胡椒を使い、魔石集めで手に入った鳥の魔物の肉を野菜と一緒に炒め、それを茹でたうどんの上に乗せたのである。シンプルながらにも自信作である。ちなみに試食はしたし、鑑定もして安全性は確認してある。
「さあ、こちらでお昼致しましょう」
 まったく、どこで食事を取っているのか突っ込まれそうである。でも、私はあえてここで食事をする。だって、いかにも釣れそうな商人たちが居るんですもの。これは広めるチャンスなのよ。私にはそんな下心があったのよ!
 私が鶏肉炒め乗せのうどんを食べようとすると、モモがじーっと見ている。それはもう食い入るようにである。
「モモも食べますか?」
「よろしいのですか?!」
 私が尋ねると、モモはものすごく目がキラキラしていた。ああ、これがいわゆる目がシイタケってやつですかね……。その喜ぶモモの姿に、私は顔をひきつらせたのだった。
 そんなわけで、ちょうど炒め物が残っていたので、ささっとうどんを茹でてモモの分も用意する私。ささっとはいっても、5分くらいかかってるわよ。うどんって意外と茹で時間要るんだからね。フォークで巻きやすいように細めにしててもこれだけ掛かるものね……。太めに打っていたうどんなら10分以上よ。覚えておく事ね。
 さて、改めて私たちは食卓を囲む。それこそ、ボンジール商会を見に来ている商人たちに見せつけるように食べてやるわよ。
「魚で取ったスープなのでどうかと思ったけれど、鶏肉とも意外と合いますね。おいしいですよ、アンマリア」
 フィレン王子が褒めてくれた上に笑顔まで向けてくる。
「あー、アンマリア様、何をなさっているのですか!」
 そこへ、ようやく店番から解放されたサキが顔を出してきた。そういえばテトリバー家はボンジール商会とは深い関係にあったのだ。サキが居ても、別に不思議ではなかった。
「サキ様もご一緒にいかがですか。うどん、おいしいですわよ」
「もう、そんな事に騙され……って、フィレン殿下、リブロ殿下。これは失礼致しました」
 サキが二人の王子に気が付いて慌てて挨拶をする。その姿に、フィレン王子もリブロ王子もにこやかに笑っていた。
「ははっ、気にしないでくれ。私はアンマリアに誘われて食事を一緒にしているだけだからね。まあ、サキも一緒に居てくれるとありがたい。次のタンとの戦いを前に婚約者と一緒に居るのは実に心強いからね」
 フィレン王子は恥ずかしげもなく赤面しそうなセリフを言い放っている。サキには効果てきめんだった。
「そ、そんな……。って、という事は、フィレン殿下は準決勝まで残られているのですね。さすがでございます」
「私もここまで勝ち残れて嬉しく思うよ。普段の訓練の成果が出ていると」
 フィレン王子はサキに褒められた事で、少し照れているようだった。
 そういった商人たちですら目を背けるくらいに甘ったるい空気を醸し出しながら、私たちはお昼ご飯を済ませたのだった。
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