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第四章 学園編・1年後半
第179話 気合いを入れて
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学園祭2日目を終えて、私は家でくつろいでいた。剣術大会で負けた事はショックだったものの、フィレン王子たちの強さを見たら負けても仕方なかったかなと納得できてしまっていたので、とても気持ちが楽になったからだった。
「さーて、明日と明後日は剣術大会がなくて暇だから、約束通りモモと一緒にボンジール商会を手伝いましょうかね」
私はベッドの上に思い切り転がった。どうせもう寝るので、行儀が悪いかも知れないけれど遠慮はなかった。
コンコンと不意に部屋の扉が叩かれる。
「お嬢様、スーラです」
どうやら侍女のスーラがやって来たようだ。
「入りなさい」
「失礼致します」
扉を開けてスーラが入ってきた。私は体を起こしてスーラを出迎えた。
「アンマリアお嬢様、明日は私もお付き添いしてよろしいのでしょうか」
「ええ、頼みますわ。人は多い方がいいですもの」
そう、明日と明後日は人員が分散するはずの剣術大会がないために、学園祭の出店に人が集まる事が予想されるのである。ただでさえボンジール商会は、私たちファッティ伯爵家の後ろ盾を得て商売をしているのだ。コネ狙いの人たちもやって来るだろう。だからこそ、スーラにも手伝いをお願いしたのである。
「承知致しました。必ずやお嬢様のお役に立ってみせます」
ものすごくスーラが意気込んでいた。その姿に失礼ながらも私はちょっと笑ってしまった。何と言うか、頼もしすぎるのである。
「では、そうなると明日は早いですから、もう休んでしまいましょう」
「畏まりました、お嬢様。お休みなさいませ」
そんなわけで、まだまだ早い時間ではあるものの、この日はさっさと就寝する事にしたのだった。
翌日を迎える。
まだ外が白み始めたばかりの時間だけど、私はしっかりと目が覚めていた。早く寝たかいがあるというものである。
「うーん、いい朝ね。さっさと準備しちゃうわよ」
太っているから言っても、私のフットワークは実に軽かった。スーラはまだ起きていないらしく、私は自分で支度を整えていく。背中の届かないところでも、魔法を使えばへちゃらなのである。
(うーん、魔法って便利すぎる)
そうやってもう準備ができた頃だった。
「申し訳ございません、アンマリアお嬢様! 寝坊致しました!」
スーラが勢いよく飛び込んできた。
「おはようですよ、スーラ」
ちょっと驚いたものの、冷静に対応する私。その笑顔を見て、スーラはへなへなとその場に座り込んだ。主人よりも遅れてしまった事を従者として悔いているようである。
「スーラ、私が早く起きすぎただけですので、今日の事は気にしなくていいですよ。その分、今日のお手伝いを頑張ってくれればいいのですから」
「お嬢様……!」
私が手を差し伸べてスーラに語り掛けると、スーラは瞳を潤ませて私の手を取っていた。うん、これは実に絵になる主従の姿ね。つい自画自賛をしてしまう私である。
支度を終えると食堂へと顔を出す私たち。するとそこにはモモとネスの二人もすでにやって来ていた。
「おはようございます、お姉様」
「おはようございます、アンマリアお嬢様」
モモとネスが揃って私に挨拶をしてきた。
「おはよう、モモ」
「おはようございます、モモお嬢様」
私とスーラも挨拶を返す。まさかモモたちの方が私たちよりも早いとは、驚きだった。そのくらいモモたちもボンジール商会の事に力を入れているという事だろう。
「さあ、モモ。今日と明日は勝負ですわよ」
「存じておりますわ、お姉様。ボンジール商会で取り扱っている魔道具には、私もたくさん協力しております。頑張って売り込みます」
なるほど、ストーブにコンロ、それに懐炉と、確かに火の魔法が得意なモモがたくさん関わっていた。それを聞いて私はひと安心したかのように微笑んだ。
「気負うのはよろしいですけれど、決して無茶をしないようにしなさいよ、モモ」
「承知致しました、お姉様」
頑張り過ぎないようにと注意しておくと、モモは素直にそれを聞いてくれていた。本当にこの義妹はいい子に育ってくれたものだわ。
普段なら使用人は主人たちと一緒に食事は取らないものだが、今日は特別にスーラとネスの二人も一緒に朝食を食べている。そして、食べ終わると、
「アンマリアお嬢様、モモお嬢様。私たちは一足先に馬車の支度をしてまいります。お二人は学園に向かわれる準備をお願い致します」
「分かりました。頼みますよ」
「はい、お任せ下さい」
私たちは言葉を交わすと、バタバタと学園へ向かう準備を進める。ちなみに両親はまだ起きていない時間だ。そのくらいに今日の私たちは、朝が早いのである。
ものの10分も掛からないうちに、私たちは玄関へとやって来た。
「さすがですわ、お姉様」
「そういうモモこそ」
玄関で馬車を待つ私たちは、互いを讃え合っていた。そうしていると、パカラパカラと馬車が玄関までやって来た。御者台にはどういうわけかスーラとネスの二人が座っている。この二人って馬車を操縦できるらしい。
「お待たせ致しました、お嬢様」
「すぐにお乗り下さい。学園へと向かいます」
そんなわけで、二人に急かされるままに私たちは馬車へと乗り込む。
さて、ボンジール商会を手伝って、しっかりと魔道具を売り込みますわよ。私とモモはいつも以上に気合いを入れて、学園へと向かったのだった。
「さーて、明日と明後日は剣術大会がなくて暇だから、約束通りモモと一緒にボンジール商会を手伝いましょうかね」
私はベッドの上に思い切り転がった。どうせもう寝るので、行儀が悪いかも知れないけれど遠慮はなかった。
コンコンと不意に部屋の扉が叩かれる。
「お嬢様、スーラです」
どうやら侍女のスーラがやって来たようだ。
「入りなさい」
「失礼致します」
扉を開けてスーラが入ってきた。私は体を起こしてスーラを出迎えた。
「アンマリアお嬢様、明日は私もお付き添いしてよろしいのでしょうか」
「ええ、頼みますわ。人は多い方がいいですもの」
そう、明日と明後日は人員が分散するはずの剣術大会がないために、学園祭の出店に人が集まる事が予想されるのである。ただでさえボンジール商会は、私たちファッティ伯爵家の後ろ盾を得て商売をしているのだ。コネ狙いの人たちもやって来るだろう。だからこそ、スーラにも手伝いをお願いしたのである。
「承知致しました。必ずやお嬢様のお役に立ってみせます」
ものすごくスーラが意気込んでいた。その姿に失礼ながらも私はちょっと笑ってしまった。何と言うか、頼もしすぎるのである。
「では、そうなると明日は早いですから、もう休んでしまいましょう」
「畏まりました、お嬢様。お休みなさいませ」
そんなわけで、まだまだ早い時間ではあるものの、この日はさっさと就寝する事にしたのだった。
翌日を迎える。
まだ外が白み始めたばかりの時間だけど、私はしっかりと目が覚めていた。早く寝たかいがあるというものである。
「うーん、いい朝ね。さっさと準備しちゃうわよ」
太っているから言っても、私のフットワークは実に軽かった。スーラはまだ起きていないらしく、私は自分で支度を整えていく。背中の届かないところでも、魔法を使えばへちゃらなのである。
(うーん、魔法って便利すぎる)
そうやってもう準備ができた頃だった。
「申し訳ございません、アンマリアお嬢様! 寝坊致しました!」
スーラが勢いよく飛び込んできた。
「おはようですよ、スーラ」
ちょっと驚いたものの、冷静に対応する私。その笑顔を見て、スーラはへなへなとその場に座り込んだ。主人よりも遅れてしまった事を従者として悔いているようである。
「スーラ、私が早く起きすぎただけですので、今日の事は気にしなくていいですよ。その分、今日のお手伝いを頑張ってくれればいいのですから」
「お嬢様……!」
私が手を差し伸べてスーラに語り掛けると、スーラは瞳を潤ませて私の手を取っていた。うん、これは実に絵になる主従の姿ね。つい自画自賛をしてしまう私である。
支度を終えると食堂へと顔を出す私たち。するとそこにはモモとネスの二人もすでにやって来ていた。
「おはようございます、お姉様」
「おはようございます、アンマリアお嬢様」
モモとネスが揃って私に挨拶をしてきた。
「おはよう、モモ」
「おはようございます、モモお嬢様」
私とスーラも挨拶を返す。まさかモモたちの方が私たちよりも早いとは、驚きだった。そのくらいモモたちもボンジール商会の事に力を入れているという事だろう。
「さあ、モモ。今日と明日は勝負ですわよ」
「存じておりますわ、お姉様。ボンジール商会で取り扱っている魔道具には、私もたくさん協力しております。頑張って売り込みます」
なるほど、ストーブにコンロ、それに懐炉と、確かに火の魔法が得意なモモがたくさん関わっていた。それを聞いて私はひと安心したかのように微笑んだ。
「気負うのはよろしいですけれど、決して無茶をしないようにしなさいよ、モモ」
「承知致しました、お姉様」
頑張り過ぎないようにと注意しておくと、モモは素直にそれを聞いてくれていた。本当にこの義妹はいい子に育ってくれたものだわ。
普段なら使用人は主人たちと一緒に食事は取らないものだが、今日は特別にスーラとネスの二人も一緒に朝食を食べている。そして、食べ終わると、
「アンマリアお嬢様、モモお嬢様。私たちは一足先に馬車の支度をしてまいります。お二人は学園に向かわれる準備をお願い致します」
「分かりました。頼みますよ」
「はい、お任せ下さい」
私たちは言葉を交わすと、バタバタと学園へ向かう準備を進める。ちなみに両親はまだ起きていない時間だ。そのくらいに今日の私たちは、朝が早いのである。
ものの10分も掛からないうちに、私たちは玄関へとやって来た。
「さすがですわ、お姉様」
「そういうモモこそ」
玄関で馬車を待つ私たちは、互いを讃え合っていた。そうしていると、パカラパカラと馬車が玄関までやって来た。御者台にはどういうわけかスーラとネスの二人が座っている。この二人って馬車を操縦できるらしい。
「お待たせ致しました、お嬢様」
「すぐにお乗り下さい。学園へと向かいます」
そんなわけで、二人に急かされるままに私たちは馬車へと乗り込む。
さて、ボンジール商会を手伝って、しっかりと魔道具を売り込みますわよ。私とモモはいつも以上に気合いを入れて、学園へと向かったのだった。
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