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第四章 学園編・1年後半

第177話 3回戦が始まる

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 さて、学園祭2日目の午後も、私は変わらず闘技場に顔を出していた。午後の最初の試合がフィレン王子の試合なのだから、早めに来るのは婚約者として当たり前よね?
 フィレン王子の対戦相手は私と戦ったマーク・サンチュール。私が痩せていたのなら、きっともっといい勝負をできていただろう相手だ。
「さて、一体どんな試合を見せて下さいますかしらね」
 私はわくわくしながら観客席に足を運ぶ。すると、
「アンマリア様でございますでしょうか」
 突然後ろから声を掛けられる。
「どちら様で?」
 私は条件反射的に振り向いて少し距離を取ってしまう。
「あら、騎士団の方ではございませんか」
 だけども、落ち着いて見てみると、王国騎士団の一兵士の人のようだった。それを確認した私は、すぐさま構えを解いた。
「いやはや、その体型でその動き。ミール王国のアーサリー殿下が負けたのも頷けますね」
 兵士はぽりぽりと頬を掻いている。
 褒めてくれるのはいいんだけど、やっぱり体型って言葉がくっ付いてくるわね。そのせいで褒められている感じがまったくしないから困ったものだわ。
「それよりも、私に声を掛けたのは、どういうご用件でしょうか」
 とりあえず、私は兵士に用件を確認する。私に声を掛けたという事は、用事があるという事なのだからね。
「はっ、そうでございました。エスカ・ミール王女殿下より、貴賓席にアンマリア様をお連れするように命ぜられたのであります」
 姿勢を正して言う兵士。その姿に私はハッと貴賓席の方を見る。遠目ながらにもエスカは私の方を見てにこりと微笑んでいる姿が見える。あっちはすでに私を見つけていたというわけらしい。まあ、だからこそこうやって兵士を寄こしてきたのよね。
「分かりました。すぐ向かいます」
 私は大きくため息を吐いて、兵士の案内によって貴賓席へと移動したのだった。

「待ってましたよ、アンマリア」
 貴賓席に着くなり、エスカが満面の笑みで私を出迎える。正直気が重い。
「……よろしいのですか? ここは王族たちの座る席ですわよ?」
「あら、アンマリアは王子殿下たちの婚約者なのでしょう?」
 エスカがにやにやと笑っている。まったく、どうしてこうも人の神経逆撫でしてくるのかしら、このお姫様は……。
 とはいえども、この貴賓席は闘技場の最前列な上に、少し高い位置にあるので、闘技場の様子がよく見えるのだ。せっかくのエスカの気遣いだから、さっさと敗退はしたもののここでフィレン王子やサクラの試合を高みの見物と行きましょうかね。
 今日の午後に行われる3回戦の戦いで、フィレン王子は第1試合、サクラは第5試合に出てくる。そうそう、サクラの婚約者であるタンは第4試合ね。つまり、フィレン王子とタンは準決勝、サクラとは決勝まで当たらないようになっていた。強敵であるフィレン王子とタンが決勝までに潰し合ってくれるので、サクラとしてはかなり有利なのではないかしらね。いくらバッサーシ辺境伯の血筋とはいっても、同じように剣の得意な男性との連戦は厳しいでしょうから。
 さて、司会者が現れて、ようやく剣術大会の3回戦が始まる。いきなりフィレン王子が出てくるとあって、会場の中は結構人が集まっていた。それに加えて、私に勝ったというマークまで出てくるとあって、午後はいきなり好カード。そういう事で余計に盛り上がりを見せているのである。
「アンマリアに勝った事は褒めてあげるよ。それに敬意を表して……」
 会場の結界の中で、フィレン王子は対戦相手のマークに話し掛けている。
「手加減なしで相手をしてあげよう」
 ジャキンと剣を構えるフィレン王子。
「最初から勝てるとは思っておりませんが、これでも騎士を志す者。お心遣いありがとうございます。全力で行かせて頂きます!」
 マークも負けじと剣を構える。
 剣を構えたままじりじりと睨み合う両者。
「始め!」
 審判の声に先に動いたのはマークだった。フィレン王子の鍛錬は見た事があるらしいので、先手必勝とばかりに捨て身の作戦に出たようだ。
 だが、気負い過ぎたせいか少々動きが単調になってしまったようだ。フィレン王子は剣で受け止めてから、あっさりと受け流す。
「うわっ……!」
 勢いをつけたまま前のめりになってしまうマーク。その無防備になった背中へとフィレン王子の剣が叩き込まれようとしている。
「ま、まだまだあっ!」
 勢いをつけて前へと飛び込んだマークは、靴裏で剣を受け、そのまま前転をして受け身を取った。これには会場は何が起きたのか分からずにしんと静まり返った。
「騎士を目指す以上、何もできずに倒されるわけにはいかないんです」
 マークは立ち上がると、フィレン王子に視線を向ける。
「いくら殿下とはいえど、僕は手加減しません!」
「いいね、その意気だよ。私を倒してみるといい!」
 気合い十分なマークに、フィレン王子も高揚しているようだった。
「さあ、来たまえ、マーク」
 挑発をするフィレン王子。名前を呼ばれた事に驚いたマークだったが、すぐに口を結んで再びフィレン王子に向かっていく。
 しばらくの間、剣の打ち合いが続く。だけれども、フィレン王子はとても余裕そうなのに対し、マークは疲れた様子を見せ始めた。
「二人の様子がだいぶ違いますね。どういう事なのですか、アンマリア」
「多分動きの差ですわね。フィレン殿下は小さな動きでマーク様の攻撃を凌いでいますが、マーク様は攻撃が大振りなのです。振り回している分、疲労が溜まってきたのでしょう」
 そう、明らかに動きの差がそのまま出てきているのだった。小さな動きで正確に攻撃を仕掛けたりいなしたりしているフィレン王子の方が、体力の消耗が小さかったのだ。
「もう決着がつきますわよ」
 私がそう言うと同時に、マークの持っていた剣が大きく弾かれて地面へと転がった。
「……僕の負けですね」
「ああ。でも、さすが騎士を目指すだけあって、一瞬で決着とはいかなかったようだね」
 二人の間で会話が交わされると、
「勝者、フィレン・サーロイン!」
 審判の口からフィレン王子の勝利宣言が出されたのだった。
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