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第四章 学園編・1年後半
第175話 この王女、殴りたい
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「あたたたた……」
私は闘技場の医務室に居た。
「予想外でしたわ、こんな展開」
私は顔を押さえながら2回戦を思い出していた。
マークと同時に剣を振りかざしたのはいいものの、まさか剣がぶつかった瞬間にお互いに弾き飛ばされるとは思わなかった。マークはなんとか踏ん張ったけれども、私の方は体格のせいでそのまま場外まで転がっていき、私は負けてしまったのだった。
「いやあ、大丈夫でしたか、アンマリア嬢」
どうも転がった時に足を捻挫したらしく、私はベッドの上に居た。そこへ対戦相手だったマークがやって来たのだ。
「ご心配なく、足を軽く捻っただけのようですから、私の魔法でどうにかできますわよ」
「それはよかった。ご令嬢、ましてや殿下の婚約者に傷を付けたとなると、いろいろと言われそうで心配だったんですよ」
私よりも自分自身の事を心配してそうな口ぶりだけれども、そういう社会だから仕方がない。令嬢を傷物にしたといったら、社交界からつま弾きにされてしまうものね。貴族社会って世知辛いわね。
「普段から鍛えておいて正解でしたわ。でなかったら、きっと大けがでしたでしょうから」
「本当に無事でよかったです。ですが、あまり無茶をなさらないようにして下さいね」
「畏まりましたわ」
けがの見舞いを終えて、マークは医務室から出ていこうとする。
「マーク様でしたわね」
「はい、何でしょうか、アンマリア嬢」
「フィレン殿下との試合、頑張って下さいませ。まあ、フィレン殿下の勝ちは揺るがないでしょうけれどね」
私がその様に煽ると、マークはくすっと笑っていた。
「胸を借りるつもりでいきますよ。僕自身も勝てるとは思っていませんから」
そう言って、マークは医務室から出ていった。
それからしばらくすると、サクラがやって来た。
「アンマリア様、大丈夫でしたか?」
どうやら慌ててきたらしく、息が上がっていた。ただ走るだけなら絶対なる事のない状態だけに、相当慌ててきたのがよく分かる。
「ええ、軽く足を捻っただけですわよ。私の魔法なら治療可能ですから、安心して下さい」
「ああ、よかったです」
私が安心させようと微笑みながら言うと、サクラはなぜかその場で崩れ落ちていた。力抜けるってどれだけ心配してくれてるのよ。
「お姉様っ!」
「アンマリア、モモを連れてきたわよ」
モモが私に駆け寄ってくる。その後ろからはエスカがのんびりと現れた。
「アンマリアが倒れたものだから呼んできたんだけど、余計なお世話だったかしらね」
エスカは意地悪そうに笑いながら私に話し掛けてくる。正直殴りたい笑顔だったけれど、モモの前でそんな野蛮な事はできないわね。私は泣きじゃくって抱きついてくるモモの頭を撫でてやっていた。
「いいえ、後で知らせても同じでしたでしょうから、少しでも早い方が助かりますわ。ありがとうございます、エスカ王女殿下」
ちょっと癪ではあるものの、私はエスカにお礼を言っておいた。
「お姉様、大丈夫ですか。痛くはありませんか」
モモがまだ取り乱しているようで、必死に私に確認してくる。ああ、その泣きそうな顔可愛いわね。
だけども、いつまでも心配させるわけにはいかないので、ここまで何度かした説明をモモにもしてあげる事にした。
「ええ、大丈夫ですわよ。足を捻っただけですから、魔法でなんとか治せますわよ」
「派手に転んでいたようだけど、よくけががそれだけで済んだわね」
私がモモを落ち着かせようとしたのに、エスカが余計な情報をぶち込んできた。本当に殴りますわよ。
「見た目は確かに派手に転びましたけれど、そういう事になっても大丈夫な服でしたし、なにせ私は丸いですからね。おほほほほ!」
余計な事言いやがるんじゃありませんわよと言わんばかりに、私は最後に高笑いを放り込んでおく。だというのに、エスカはまったく答えてないのか笑顔を絶やさなかった。同じ転生者だというのに、ずいぶんと図太いですわね、このお姫様。
「モモ、とりあえず私はこのまま休んでいますので、あなたはボンジール商会のお手伝いに戻りなさいな」
「えっ、でも……」
私が気を取り直してモモにそう告げると、モモは意外だというような顔をしていた。
「どうせ私は捻挫でしばらく動けませんもの。でも、ボンジール商会の商品は、あなたの魔法を使ったものがありますのよ? あなたが居なくてちゃんと説明できる方はいらっしゃるのですか?」
「そ、それは……」
私が指摘すると、モモは言い淀んでいた。これは間違いなく居ないのだろう。せいぜい商会長のギーモくらいはできるだろうけども、昨日の盛況っぷりを見るに彼だけでの対応は不可能なはずである。だからこそ、私はモモに戻るように強く言っているのだ。
「わ、分かりましたわ、お姉様」
「ええ、行ってらっしゃい。その代わり、明日と明後日はご一緒しましょうね」
「は、はい!」
モモはそう言って、医務室からパタパタと駆け出ていったのだった。
「それにしてもさすがね、アンマリア」
「何がですか、エスカ王女殿下」
モモを見送った後にエスカが私に話し掛けてくる。
「敗れはしたものの、男子学生と互角の戦いをするなんて」
「互角って、私打ち合いはしていませんわよ」
「いや、あのマークとかいう学生との戦いで見せた一撃。地面が抉れるほどの攻撃は、普通の令嬢では無理ですから」
エスカの言い分を否定すると、サクラからダメ出しをされた。そのサクラの言葉に、エスカはうんうんと頷いている。
「もう酷いですわね。私、もう少し休みますから、二人とも出て行って下さいませ!」
私がふて腐れたように怒ってベッドになると、二人は笑いながら医務室を後にしたのだった。まったく酷いですわ!
私は闘技場の医務室に居た。
「予想外でしたわ、こんな展開」
私は顔を押さえながら2回戦を思い出していた。
マークと同時に剣を振りかざしたのはいいものの、まさか剣がぶつかった瞬間にお互いに弾き飛ばされるとは思わなかった。マークはなんとか踏ん張ったけれども、私の方は体格のせいでそのまま場外まで転がっていき、私は負けてしまったのだった。
「いやあ、大丈夫でしたか、アンマリア嬢」
どうも転がった時に足を捻挫したらしく、私はベッドの上に居た。そこへ対戦相手だったマークがやって来たのだ。
「ご心配なく、足を軽く捻っただけのようですから、私の魔法でどうにかできますわよ」
「それはよかった。ご令嬢、ましてや殿下の婚約者に傷を付けたとなると、いろいろと言われそうで心配だったんですよ」
私よりも自分自身の事を心配してそうな口ぶりだけれども、そういう社会だから仕方がない。令嬢を傷物にしたといったら、社交界からつま弾きにされてしまうものね。貴族社会って世知辛いわね。
「普段から鍛えておいて正解でしたわ。でなかったら、きっと大けがでしたでしょうから」
「本当に無事でよかったです。ですが、あまり無茶をなさらないようにして下さいね」
「畏まりましたわ」
けがの見舞いを終えて、マークは医務室から出ていこうとする。
「マーク様でしたわね」
「はい、何でしょうか、アンマリア嬢」
「フィレン殿下との試合、頑張って下さいませ。まあ、フィレン殿下の勝ちは揺るがないでしょうけれどね」
私がその様に煽ると、マークはくすっと笑っていた。
「胸を借りるつもりでいきますよ。僕自身も勝てるとは思っていませんから」
そう言って、マークは医務室から出ていった。
それからしばらくすると、サクラがやって来た。
「アンマリア様、大丈夫でしたか?」
どうやら慌ててきたらしく、息が上がっていた。ただ走るだけなら絶対なる事のない状態だけに、相当慌ててきたのがよく分かる。
「ええ、軽く足を捻っただけですわよ。私の魔法なら治療可能ですから、安心して下さい」
「ああ、よかったです」
私が安心させようと微笑みながら言うと、サクラはなぜかその場で崩れ落ちていた。力抜けるってどれだけ心配してくれてるのよ。
「お姉様っ!」
「アンマリア、モモを連れてきたわよ」
モモが私に駆け寄ってくる。その後ろからはエスカがのんびりと現れた。
「アンマリアが倒れたものだから呼んできたんだけど、余計なお世話だったかしらね」
エスカは意地悪そうに笑いながら私に話し掛けてくる。正直殴りたい笑顔だったけれど、モモの前でそんな野蛮な事はできないわね。私は泣きじゃくって抱きついてくるモモの頭を撫でてやっていた。
「いいえ、後で知らせても同じでしたでしょうから、少しでも早い方が助かりますわ。ありがとうございます、エスカ王女殿下」
ちょっと癪ではあるものの、私はエスカにお礼を言っておいた。
「お姉様、大丈夫ですか。痛くはありませんか」
モモがまだ取り乱しているようで、必死に私に確認してくる。ああ、その泣きそうな顔可愛いわね。
だけども、いつまでも心配させるわけにはいかないので、ここまで何度かした説明をモモにもしてあげる事にした。
「ええ、大丈夫ですわよ。足を捻っただけですから、魔法でなんとか治せますわよ」
「派手に転んでいたようだけど、よくけががそれだけで済んだわね」
私がモモを落ち着かせようとしたのに、エスカが余計な情報をぶち込んできた。本当に殴りますわよ。
「見た目は確かに派手に転びましたけれど、そういう事になっても大丈夫な服でしたし、なにせ私は丸いですからね。おほほほほ!」
余計な事言いやがるんじゃありませんわよと言わんばかりに、私は最後に高笑いを放り込んでおく。だというのに、エスカはまったく答えてないのか笑顔を絶やさなかった。同じ転生者だというのに、ずいぶんと図太いですわね、このお姫様。
「モモ、とりあえず私はこのまま休んでいますので、あなたはボンジール商会のお手伝いに戻りなさいな」
「えっ、でも……」
私が気を取り直してモモにそう告げると、モモは意外だというような顔をしていた。
「どうせ私は捻挫でしばらく動けませんもの。でも、ボンジール商会の商品は、あなたの魔法を使ったものがありますのよ? あなたが居なくてちゃんと説明できる方はいらっしゃるのですか?」
「そ、それは……」
私が指摘すると、モモは言い淀んでいた。これは間違いなく居ないのだろう。せいぜい商会長のギーモくらいはできるだろうけども、昨日の盛況っぷりを見るに彼だけでの対応は不可能なはずである。だからこそ、私はモモに戻るように強く言っているのだ。
「わ、分かりましたわ、お姉様」
「ええ、行ってらっしゃい。その代わり、明日と明後日はご一緒しましょうね」
「は、はい!」
モモはそう言って、医務室からパタパタと駆け出ていったのだった。
「それにしてもさすがね、アンマリア」
「何がですか、エスカ王女殿下」
モモを見送った後にエスカが私に話し掛けてくる。
「敗れはしたものの、男子学生と互角の戦いをするなんて」
「互角って、私打ち合いはしていませんわよ」
「いや、あのマークとかいう学生との戦いで見せた一撃。地面が抉れるほどの攻撃は、普通の令嬢では無理ですから」
エスカの言い分を否定すると、サクラからダメ出しをされた。そのサクラの言葉に、エスカはうんうんと頷いている。
「もう酷いですわね。私、もう少し休みますから、二人とも出て行って下さいませ!」
私がふて腐れたように怒ってベッドになると、二人は笑いながら医務室を後にしたのだった。まったく酷いですわ!
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