172 / 500
第四章 学園編・1年後半
第172話 商魂たくましく
しおりを挟む
「それでは、私は妹のところに行ってきますね」
控室に戻った私は、試合から戻ってきたサクラにそう告げる。
「そうですね。今日はもう試合がありませんものね。うふふ、姉妹仲がよくて羨ましいですね」
「サクラ様、一人っ子じゃありませんか」
「ええ、だからです」
羨むサクラにそう返すと、それが理由だと返された。私はちょっと理解できない感じで首を捻っている。でも、そんな私を見たサクラは、
「さあさあ、早く行ってあげて下さいな。もしかしたら、向こうも同じ気持ちかも知れませんよ」
サクラがぐいぐいと強く背中を押してくるので、
「分かりましたわ。それではサクラ様、また明日お会い致しましょう」
私は挨拶だけして闘技場を後にしたのだった。
そうやってやって来たボンジール商会の出店ブース。そこには思わぬ黒山の人だかりができており、私は何事かと近付いていった。
「はい、押さないで下さい。ああ、落ち着いて下さいってば」
「いやはや、こんなに集まられるとは思ってみませんでしたよ」
モモとギーモが混乱していた。商会長自らやって来ているとは、相当の気の入れようである。
「大変そうですね、モモ、ギーモ商会長」
「あっ、お姉様」
私が声を掛けると、モモがいち早く反応する。
「どうでしたか、お姉様。剣術大会は」
「ええ、無事に1回戦突破ですよ。2回戦と3回戦は明日になりますわ」
「さすがです、お姉様。で、お相手はどんな方でしたか?」
私が答えると、モモは続けて対戦相手の事も聞いてきた。私はちょっとアーサリーの事を一応王族だから気遣おうかと思ったけれど、あそこは兄妹そろって失礼なので考えるのをやめた。
「私の初戦の相手はアーサリー殿下でしたわ。まるで相手になりませんでしたわよ」
「えええっ?!」
隣国のミール王国の王子であるアーサリーに勝ったと聞いて、モモがものすごく大きな声を上げている。
「うるさいですわよ、モモ」
「すみません、お姉様。ちょっと驚きすぎてしまいました」
私が窘めると、モモは素直に謝罪していた。それと同時に、周りでこっちを見ていた客たちも視線を外していた。あれだけ騒いでいれば、どうしても見てしまうわよね。
「正直、私はサクラ様と当たる事が楽しみなのですよ。ただ、トーナメント表を見ると、決勝までは当たらない位置に居ましてね……。負けられない理由ができました」
「お姉様、ファイト、です」
私の言葉に、むんと気合いを入れたポーズを取るモモ。その姿があまりにも可愛かったので、私はついモモの頭を撫でてしまっていた。これにはモモも、つい顔をほころばせてにやらと笑っていた。
「時に、今回のこの人だかりはどういうわけですかね」
私はギーモに質問する。
「それはこれのせいですね」
ギーモが指し示したのは、コンロ、ストーブ、懐炉だった。見事に熱源系の魔道具ばかりである。
「これから寒くなる時期ですから、暖める方法というのは誰しも頭を悩ませるものなんでよ。薪代もバカにはなりませんからね」
確かにその通りである。部屋には暖炉と薪が備えられてはいるものの、臭いだったり煙だったり置き場所だったり、いろいろと問題になる事が多いのだ。
ところが、屋外となるとその問題はさらに顕著だった。たくさん着込んだとしても、やはり寒いものは寒いのである。それゆえに、この携帯型暖房である懐炉には注目が集まったというわけである。
もちろん、この懐炉もここまで来るまでは試行錯誤があった。
火の魔法を扱うがゆえに、危険極まりない研究がなされたのである。
それで、どうやってこの開発がなされたのかというと、私には断られたので、妹のモモに泣きついたというわけである。モモは火属性魔法が得意なのだから、うってつけなのである。しかも、モモにとっては魔法の練習にもなる。互いのメリットがあってこそ、この懐炉の開発に着手できたのだった。
あとで聞いた話、最初の頃は発火したり熱くなりすぎたりして、調整がとても難しかったそうな。でも、私が教えていた事も思い出したのか、ちょっとずつ調整に成功して、程よい暖かさの懐炉が完成したという事らしい。なるほど、それでここひと月の間は、モモが私に絡んでこなかったのね。
この懐炉は魔力を通せば暖かくなり、暖かい間にもう一度魔力を作用させれば効果が切れるという仕組みになっている。
それにしても、これだけの注目度があるという事は、みんなそれだけ冬の間は寒い思いをしてきたという事なのだろう。さすがにストーブは学生に手の出せる値段じゃないけれど、懐炉くらいならばなんとかなるといった価格になっている。
「商売上手だわねえ」
「いえいえ、これもすべてアンマリア嬢のおかげでございますよ。私はそのヒントを元に頑張っただけで、それさえなければ思いつく事はありませんでしたから」
「それでも、思いついて作ってしまったのはすごいですわよ」
本当に、商人たちの情熱には頭が下がる思いである。
「お褒め頂き光栄でございます。ぜひ、これからも良き隣人でいられますよう、精一杯努めさせて頂きます」
ギーモはそう言って、私に頭を下げていた。
ちなみにこの間もボンジール商会の出店は大盛況を続けていたのだった。
控室に戻った私は、試合から戻ってきたサクラにそう告げる。
「そうですね。今日はもう試合がありませんものね。うふふ、姉妹仲がよくて羨ましいですね」
「サクラ様、一人っ子じゃありませんか」
「ええ、だからです」
羨むサクラにそう返すと、それが理由だと返された。私はちょっと理解できない感じで首を捻っている。でも、そんな私を見たサクラは、
「さあさあ、早く行ってあげて下さいな。もしかしたら、向こうも同じ気持ちかも知れませんよ」
サクラがぐいぐいと強く背中を押してくるので、
「分かりましたわ。それではサクラ様、また明日お会い致しましょう」
私は挨拶だけして闘技場を後にしたのだった。
そうやってやって来たボンジール商会の出店ブース。そこには思わぬ黒山の人だかりができており、私は何事かと近付いていった。
「はい、押さないで下さい。ああ、落ち着いて下さいってば」
「いやはや、こんなに集まられるとは思ってみませんでしたよ」
モモとギーモが混乱していた。商会長自らやって来ているとは、相当の気の入れようである。
「大変そうですね、モモ、ギーモ商会長」
「あっ、お姉様」
私が声を掛けると、モモがいち早く反応する。
「どうでしたか、お姉様。剣術大会は」
「ええ、無事に1回戦突破ですよ。2回戦と3回戦は明日になりますわ」
「さすがです、お姉様。で、お相手はどんな方でしたか?」
私が答えると、モモは続けて対戦相手の事も聞いてきた。私はちょっとアーサリーの事を一応王族だから気遣おうかと思ったけれど、あそこは兄妹そろって失礼なので考えるのをやめた。
「私の初戦の相手はアーサリー殿下でしたわ。まるで相手になりませんでしたわよ」
「えええっ?!」
隣国のミール王国の王子であるアーサリーに勝ったと聞いて、モモがものすごく大きな声を上げている。
「うるさいですわよ、モモ」
「すみません、お姉様。ちょっと驚きすぎてしまいました」
私が窘めると、モモは素直に謝罪していた。それと同時に、周りでこっちを見ていた客たちも視線を外していた。あれだけ騒いでいれば、どうしても見てしまうわよね。
「正直、私はサクラ様と当たる事が楽しみなのですよ。ただ、トーナメント表を見ると、決勝までは当たらない位置に居ましてね……。負けられない理由ができました」
「お姉様、ファイト、です」
私の言葉に、むんと気合いを入れたポーズを取るモモ。その姿があまりにも可愛かったので、私はついモモの頭を撫でてしまっていた。これにはモモも、つい顔をほころばせてにやらと笑っていた。
「時に、今回のこの人だかりはどういうわけですかね」
私はギーモに質問する。
「それはこれのせいですね」
ギーモが指し示したのは、コンロ、ストーブ、懐炉だった。見事に熱源系の魔道具ばかりである。
「これから寒くなる時期ですから、暖める方法というのは誰しも頭を悩ませるものなんでよ。薪代もバカにはなりませんからね」
確かにその通りである。部屋には暖炉と薪が備えられてはいるものの、臭いだったり煙だったり置き場所だったり、いろいろと問題になる事が多いのだ。
ところが、屋外となるとその問題はさらに顕著だった。たくさん着込んだとしても、やはり寒いものは寒いのである。それゆえに、この携帯型暖房である懐炉には注目が集まったというわけである。
もちろん、この懐炉もここまで来るまでは試行錯誤があった。
火の魔法を扱うがゆえに、危険極まりない研究がなされたのである。
それで、どうやってこの開発がなされたのかというと、私には断られたので、妹のモモに泣きついたというわけである。モモは火属性魔法が得意なのだから、うってつけなのである。しかも、モモにとっては魔法の練習にもなる。互いのメリットがあってこそ、この懐炉の開発に着手できたのだった。
あとで聞いた話、最初の頃は発火したり熱くなりすぎたりして、調整がとても難しかったそうな。でも、私が教えていた事も思い出したのか、ちょっとずつ調整に成功して、程よい暖かさの懐炉が完成したという事らしい。なるほど、それでここひと月の間は、モモが私に絡んでこなかったのね。
この懐炉は魔力を通せば暖かくなり、暖かい間にもう一度魔力を作用させれば効果が切れるという仕組みになっている。
それにしても、これだけの注目度があるという事は、みんなそれだけ冬の間は寒い思いをしてきたという事なのだろう。さすがにストーブは学生に手の出せる値段じゃないけれど、懐炉くらいならばなんとかなるといった価格になっている。
「商売上手だわねえ」
「いえいえ、これもすべてアンマリア嬢のおかげでございますよ。私はそのヒントを元に頑張っただけで、それさえなければ思いつく事はありませんでしたから」
「それでも、思いついて作ってしまったのはすごいですわよ」
本当に、商人たちの情熱には頭が下がる思いである。
「お褒め頂き光栄でございます。ぜひ、これからも良き隣人でいられますよう、精一杯努めさせて頂きます」
ギーモはそう言って、私に頭を下げていた。
ちなみにこの間もボンジール商会の出店は大盛況を続けていたのだった。
6
お気に入りに追加
259
あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜
ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。
死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

ポンコツ錬金術師、魔剣のレプリカを拾って魔改造したら最強に
椎名 富比路
ファンタジー
錬金術師を目指す主人公キャルは、卒業試験の魔剣探しに成功した。
キャルは、戦闘力皆無。おまけに錬金術師は非戦闘職なため、素材採取は人頼み。
ポンコツな上に極度のコミュ障で人と話せないキャルは、途方に暮れていた。
意思疎通できる魔剣【レーヴァテイン】も、「実験用・訓練用」のサンプル品だった。
しかしレーヴァテインには、どれだけの実験や創意工夫にも対応できる頑丈さがあった。
キャルは魔剣から身体強化をしてもらい、戦闘技術も学ぶ。
魔剣の方も自身のタフさを活かして、最強の魔剣へと進化していく。
キャルは剣にレベッカ(レーヴァテイン・レプリカ)と名付け、大切に育成することにした。
クラスの代表生徒で姫君であるクレアも、主人公に一目置く。
彼女は伝説の聖剣を
「人の作ったもので喜んでいては、一人前になれない」
と、へし折った。
自分だけの聖剣を自力で作ることこそ、クレアの目的だったのである。
その過程で、着実に自身の持つ夢に無自覚で一歩ずつ近づいているキャルに興味を持つ。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる