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第四章 学園編・1年後半

第166話 すでに散る火花

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 学園祭も差し迫ってきた頃、私はサクラと一緒に剣の稽古に打ち込んでいた。どうやらサクラもバッサーシ辺境伯の娘として剣術大会に参加する事になっているらしい。まあ、辺境伯の一族に生まれたのだから、義務みたいなものだろう。
「念のために、剣術大会の参加の登録確認をしておきませんか」
 私がサクラにそう言われたのは、その日の昼の事だった。
「そうですね。参加表明したとはいっても、登録されていなければ意味はありませんものね。飛び入りもできなくはないでしょうが、こういうのは正規の手段をちゃんと踏んでおくべきですものね」
 食事を終えた私たちは、教官たちにその事を確認しておいた。そしたらちゃんと登録がなされているのが判明したので、こうやって放課後に鍛錬をしているのである。
 それにしても、改めて打ち合ってみて分かったけれども、サクラの剣技は女子のそれではなかった。対魔物や侵攻を想定した本格的な剣技とあって、さすがに私は押され気味になってしまう。それでも私は、太った体で必死にサクラの剣技についていく。普段使っている身体強化とかがなければ、こんなに姿勢の意地が大変だとは思ってもみなかった。普段魔法に頼り過ぎていたのである。
「アンマリア様もさすがですね。魔法による補助も無しに、それだけ動けるなんて思っても見ませんでしたよ」
 サクラが練習用の木剣を振り回しながら、私の事を褒めてくる。褒められて悪い気はしないのだけれども、それに反応する余裕は私にはなかった。さすがは確実に相手を仕留めに行く辺境伯の剣技。気を抜いたら貫かれそうだ。
「うふふ、私も参加する剣術大会ですからね。張り合いのない戦いは退屈ですもの。これならアンマリア様も、私を十分楽しませてくれそうですね」
 段々と怖い事を言い出すサクラである。これはもしかしてモード入ってませんかね。戦い大好きモード。
 それを証明するかのように、とにかく段々と攻撃が激しくなってくる。それでも私は普段の特訓の成果でその攻撃を躱す受ける逸らす。よく私も動けるものだ。でも、サクラの顔がどんどん怖い笑みを浮かべてくるので、正直言って私は早く帰りたくなった。普段はあんなに物腰柔らかく普通の令嬢として振る舞っているのに、戦いとなるとこうも豹変してしまうのか。バッサーシ、恐るべし。
 さて、さすがに10分も模擬戦をしていれば、私の体力は限界である。よくもったわね、私……。
「さすがにアンマリア様がお疲れのようですので、これで終わりにしておきましょう」
 サクラが木剣を収める。
「でも、驚きましたね。私の剣をその体型で捌き切っていたのですから。それならよっぽどでない限り、剣術大会で負ける事はないと思いますよ。なにせ、戦いの場以外では魔法の使用に問題ありませんから」
 バッサーシ辺境伯の令嬢であるサクラから、この上なく褒められている私。でも、さすがに喋るような余力はなかった。
「アンマリア様、木剣は私が返しておきますので、しばらくここでお休み下さい。家の方には私が送らさせて頂きますわ」
「は、はい……」
 サクラの言葉に、私はこう返事をするのが精一杯だった。この疲労状態じゃ、瞬間移動魔法もまともに使えないだろうし、ここは素直に甘えておきましょうか。そう考えて、私は訓練場内にあったベンチに腰を掛けた。
 ターンとしては今は30ターン目。猶予期間はあと2週間である。
 サキたちがボンジール商会と一緒に何か出し物を準備しているらしいのだけれども、私はきっぱり言い切って手を貸していない。だから、何も知らないのだ。モモはがっつり関わっているのだけれども、そのモモも何も言ってくれない。まあ、それはそれで当日の楽しみとして取っておきましょう。
 それにしても、さすが私が王子の婚約者として認められるだけの事はある。こんな場所訓練場とはいえども令嬢が一人でのんびりしていたら、誰かしらがちょっかいを掛けてきそうなものである。けれども、元々訓練場の人が閑散としているためか、そういった心配はなさそうだった。
 しばらくするとサクラが戻ってきた。
「それでは帰りましょうか、アンマリア様」
「え、ええ。少し休んで楽になりましたので、すぐに参ります」
 私が立ち上がるが、思ったよりも剣の打ち合いで消耗していたらしく、思わずふらついてします。だが、それに対してサクラがものすごくいい反応で駆け寄ってきて、私は倒れる事なくサクラに受け止められた。
「大丈夫ですか、アンマリア様」
「ええ、これだけ激しい動きは初めてだったので、少し足がもつれてしまったようですね」
 心配そうに見るサクラに、私は苦笑いでそう答えていた。
「でしたら、筋肉痛には十分気を付けて下さい。湯浴みの後にでも疲労回復の魔法を掛けておけば大丈夫だと思いますので、ご参考までに」
「ええ、ありがとうございます。そうさせて頂きますわ」
 私はそう言いながら、サクラに抱えられながら馬車まで歩いていったのだった。ちょっと恥ずかしかったけれど、こういうのも悪くはないわね。
 なるほどと、サクラとのスタンピードエンドに、ちょっと納得のいった私だった。
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