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第四章 学園編・1年後半
第164話 ミスミ・バッサーシ
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後期が始まって2週間目に入る。
そして、今週もまた選択科目の交流授業の日がやって来た。
私は動きやすい服装に着替えて、訓練場へと向かう。今日からは訓練場に場を移しての実践訓練に入るのである。ミスミ教官は騎士団の一員なので、おそらく講義は厳しいものになるだろう。私はものすごく覚悟を決めていた。
「よーし、揃ったな。今日からは実戦の講義になる。覚悟はできているだろうな?」
ミスミ教官は気合いたっぷりのようだった。これはとても面白くなりそうだと私は直感する。前回の座学から感じるに、おそらくミスミ教官は初めての講義なのだろう。となる授業は手加減のないきついものになる事は想像に難くなかった。
結果、授業が終わった頃には死屍累々の山だった。立っていたのは姪であるサクラと、どういうわけか私の二人だけだった。なんで?
「なんだ、情けない連中だな。魔法型のアンマリア・ファッティが立っているのだぞ? お前らそれでも武術型の学生か?」
なまじ私が立っているせいで、武術型の学生にきつく当たるミスミ教官。
「おば様……じゃありませんでした、ミスミ教官。ちょっとやり過ぎだと思いますよ」
「サクラ、そうなのか?」
サクラの指摘に、ミスミ教官は分からないといった感じの反応を示している。
「そうです。私はまだ鍛えてましたので運よく平気でしたが、おそらく他の方々はここまでの訓練は初めてです。もう少し基礎的なところから始めた方がよろしかったと思われます」
私がこう指摘すると、ミスミ教官は少し唸っている。
「そうか、やり過ぎてしまったのなら謝罪しよう。次はもう少し抑えた内容を考えておく。では、本日はこれまで」
ミスミ教官はそう言うと、すたすたと訓練場を後にしていった。その場には呆ける私とサクラ、そして、疲労困憊で倒れ込む学生たちが残されたのだった。なので、私は学生たちにちょっとした回復魔法を掛けておいたのだった。
昼休み、私は他のライバル令嬢たちと一緒にサクラと合流していた。主にミスミ教官の話を聞くためである。
「これはサクラ様、お久しぶりございます」
ラムがそう言う。ああ、そっか。みんなは一週間ぶりだものね。私だけは週末に会っていたせいで、久しぶりという感覚がなかった。
「サクラ様、ミスミ教官ってどういった方なのですか?」
私は単刀直入にサクラに話を振った。すると、サクラはちょっと悩んだような顔を見せる。
「まあ、どこまで言っていいのか分かりませんが、周知の事だけは申しておきます」
困ったように頬に手を当てながら、サクラは話し始めた。脳筋のように見えて考える頭は持っているし、淑女らしい立ち振る舞いもできるので、サクラはただの脳筋ではなかった。エレガントな脳筋なのである。
ところがどうだろうか。サクラの語ったミスミ教官というのは、まさしく脳筋、バッサーシ辺境伯の血筋そのものだった。まあ、今日の講義の内容を見れば一目瞭然ですけれどね。そんなわけで、サクラの話を聞きながら私は遠い目をしていた。納得が過ぎるのよ。
(はあ、バッサーシ辺境伯の家族って、どうしてこうもぶっ飛んでいるのか……)
ベジタリウス王国と国境を接して睨み合っている上に、時々発生するスタンピードのせいで、どうしても戦闘民族と化してしまうバッサーシ辺境伯一族なのである。なのでその考え方も、一も二にも戦える力なのである。
現当主のヒーゴ・バッサーシの妹であるミスミ・バッサーシもやっぱり脳筋で、幼少時から扇子よりも剣を握っていた女性だったのである。その腕前といったら、そこらの男性もまったく敵わないくらいの剣豪なのである。常に厳しい環境に身を置いて生きてきたからこそ、今日の講義の内容となるのである。うん、サクラの証言を聞いて、ますます仕方ないと思ったわ。
武術型の学生が全滅する中、サクラが無事だったのはとても納得がいく話である。だけど、私も無事だったのは説明がつかないわね。本当にどうしてかしらね。
「今日の講義も、自分たち基準で行ったからこそあんな事になったのでしょうね。でも、アンマリア様が平気だったのは意外でしたけれど」
サクラが私の体型を見ながら話す。悪かったわね、どうせぽっちゃり子豚さんですわよ。
「こう見えてもお姉様は鍛えてらっしゃいますから、私は納得できます!」
モモがフォローを入れてくる。本当にモモからの愛が重いわね。ある意味私に対する狂信者って感じだわ。
「そうですね。アンマリア様ですから、耐えられても不思議ではないですね」
サキまでそんな事を言う始末。いや、私だって無理なものは無理よ? なんなの、この謎の信頼感は……。
とまあ、ミスミ教官の事を聞いていたはずなのに、結局なんだかんだで私の事で盛り上がってしまっていた。おかしいわね、どうして私の話になるのかしら。
そんなわけで、どこか納得しない気持ちを抱えながら、お昼休みは終わってしまったのだった。
何にしても厳しい人だという事は分かったので、これからもこの交流授業は楽しみなのは変わりないわ。目指せ、年内80kg切り!
そして、今週もまた選択科目の交流授業の日がやって来た。
私は動きやすい服装に着替えて、訓練場へと向かう。今日からは訓練場に場を移しての実践訓練に入るのである。ミスミ教官は騎士団の一員なので、おそらく講義は厳しいものになるだろう。私はものすごく覚悟を決めていた。
「よーし、揃ったな。今日からは実戦の講義になる。覚悟はできているだろうな?」
ミスミ教官は気合いたっぷりのようだった。これはとても面白くなりそうだと私は直感する。前回の座学から感じるに、おそらくミスミ教官は初めての講義なのだろう。となる授業は手加減のないきついものになる事は想像に難くなかった。
結果、授業が終わった頃には死屍累々の山だった。立っていたのは姪であるサクラと、どういうわけか私の二人だけだった。なんで?
「なんだ、情けない連中だな。魔法型のアンマリア・ファッティが立っているのだぞ? お前らそれでも武術型の学生か?」
なまじ私が立っているせいで、武術型の学生にきつく当たるミスミ教官。
「おば様……じゃありませんでした、ミスミ教官。ちょっとやり過ぎだと思いますよ」
「サクラ、そうなのか?」
サクラの指摘に、ミスミ教官は分からないといった感じの反応を示している。
「そうです。私はまだ鍛えてましたので運よく平気でしたが、おそらく他の方々はここまでの訓練は初めてです。もう少し基礎的なところから始めた方がよろしかったと思われます」
私がこう指摘すると、ミスミ教官は少し唸っている。
「そうか、やり過ぎてしまったのなら謝罪しよう。次はもう少し抑えた内容を考えておく。では、本日はこれまで」
ミスミ教官はそう言うと、すたすたと訓練場を後にしていった。その場には呆ける私とサクラ、そして、疲労困憊で倒れ込む学生たちが残されたのだった。なので、私は学生たちにちょっとした回復魔法を掛けておいたのだった。
昼休み、私は他のライバル令嬢たちと一緒にサクラと合流していた。主にミスミ教官の話を聞くためである。
「これはサクラ様、お久しぶりございます」
ラムがそう言う。ああ、そっか。みんなは一週間ぶりだものね。私だけは週末に会っていたせいで、久しぶりという感覚がなかった。
「サクラ様、ミスミ教官ってどういった方なのですか?」
私は単刀直入にサクラに話を振った。すると、サクラはちょっと悩んだような顔を見せる。
「まあ、どこまで言っていいのか分かりませんが、周知の事だけは申しておきます」
困ったように頬に手を当てながら、サクラは話し始めた。脳筋のように見えて考える頭は持っているし、淑女らしい立ち振る舞いもできるので、サクラはただの脳筋ではなかった。エレガントな脳筋なのである。
ところがどうだろうか。サクラの語ったミスミ教官というのは、まさしく脳筋、バッサーシ辺境伯の血筋そのものだった。まあ、今日の講義の内容を見れば一目瞭然ですけれどね。そんなわけで、サクラの話を聞きながら私は遠い目をしていた。納得が過ぎるのよ。
(はあ、バッサーシ辺境伯の家族って、どうしてこうもぶっ飛んでいるのか……)
ベジタリウス王国と国境を接して睨み合っている上に、時々発生するスタンピードのせいで、どうしても戦闘民族と化してしまうバッサーシ辺境伯一族なのである。なのでその考え方も、一も二にも戦える力なのである。
現当主のヒーゴ・バッサーシの妹であるミスミ・バッサーシもやっぱり脳筋で、幼少時から扇子よりも剣を握っていた女性だったのである。その腕前といったら、そこらの男性もまったく敵わないくらいの剣豪なのである。常に厳しい環境に身を置いて生きてきたからこそ、今日の講義の内容となるのである。うん、サクラの証言を聞いて、ますます仕方ないと思ったわ。
武術型の学生が全滅する中、サクラが無事だったのはとても納得がいく話である。だけど、私も無事だったのは説明がつかないわね。本当にどうしてかしらね。
「今日の講義も、自分たち基準で行ったからこそあんな事になったのでしょうね。でも、アンマリア様が平気だったのは意外でしたけれど」
サクラが私の体型を見ながら話す。悪かったわね、どうせぽっちゃり子豚さんですわよ。
「こう見えてもお姉様は鍛えてらっしゃいますから、私は納得できます!」
モモがフォローを入れてくる。本当にモモからの愛が重いわね。ある意味私に対する狂信者って感じだわ。
「そうですね。アンマリア様ですから、耐えられても不思議ではないですね」
サキまでそんな事を言う始末。いや、私だって無理なものは無理よ? なんなの、この謎の信頼感は……。
とまあ、ミスミ教官の事を聞いていたはずなのに、結局なんだかんだで私の事で盛り上がってしまっていた。おかしいわね、どうして私の話になるのかしら。
そんなわけで、どこか納得しない気持ちを抱えながら、お昼休みは終わってしまったのだった。
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