上 下
162 / 500
第四章 学園編・1年後半

第162話 ふと現状を思い返す

しおりを挟む
 そういえば、この世界に転生してきてからというものここに来て不思議に思った事がある。
 王子は二人、その婚約者も二人、そして、その婚約者はどちらの王子の婚約者かというのが決まっていない。普通こんな状態なら起こっていそうな事があるはずだった。
 そう、後継者争いと、未来の王妃を巡る攻防である。それがどういうわけか、噂にすらそれが上がってこないという不思議な状況がずっと続いていた。別に起こってほしいわけではないけれど、ずいぶんと平和だなと思えてきてしまう。
「サキ様、あなたはどうなのですか」
「はい?」
 剣術大会に参加を決めた数日後、私はもう一人の王子の婚約者であるサキに単刀直入に聞いてみる事にした。
「いえ、同じ王子の婚約者として、王妃の座に興味があるかどうかという事です」
「あ、なるほど」
 私の質問に、サキはきょとんとした瞳で私を見ていた。サキも随分とゆっくり構えているわね。
 この様子を見るに、サキはあまり王妃という座に固執しているようには見えない。むしろ、私にさっさと譲ろうとしている雰囲気すら感じてしまう。無欲だわね。
「その、王妃という立場は私にはふさわしいと思ってはいません。やはり、アンマリア様こそがふさわしいと考えています。これは私だけではなくて、テトリバー家の相違でもあるんです。男爵家の私では差し出がましいと思いますし……」
 ああ、サキは爵位の事も気にしていたのか。確かに、王妃になるとなるとそれなりの地位も必要になる。ゲームではサキは男爵令嬢のままではあったものの、聖女という地位を手に入れて王太子妃の座を射止めていた。しかし、今のサキの実力では、聖女というにはまだほど遠いものね。それは遠慮がちになってしまうというものだった。
 正直、サキの性格は特徴がないものね。それこそ聖女という立場が彼女のライバル令嬢としての個性だ。このままでは、サキは婚約者から外されかねない。だからこそ、私は彼女に時々魔法の稽古をつけていたりするわけなのだった。
(はあ、覚醒の機会であったスタンピードも不発に終わっちゃいましたものねぇ……。多分エスカ様のせいですわ)
 私はそういう風に解釈する事にした。その頃、エスカが可愛くくしゃみをしていたのは偶然である。
「サキ様」
「なんでしょうか、アンマリア様」
 私が改まって声を掛けると、サキは何かを察したように表情を強張らせている。
「みなさんにバカにされないように、これからも魔法の勉強を頑張りましょうか」
「そうですね。恩恵を受けていながら、私の魔法はまだまだですものね。よろしくお願い致します」
 私がにっこりと言うと、サキは90度に腰を曲げて頭を下げてきた。これは本気だわ。
「私も暇ではありませんけれど、授業などをうまく使って協力致します。なにぶん、剣術大会への参加が認められましたからね」
「ほ、本当ですか、アンマリア様!?」
 私が剣術大会への参加の事を口にすると、サキはものすごく食いついてきた。
「これは頑張らなくてはいけませんね。アンマリア様に敵わなくても、殿下方の婚約者として恥ずかしくないようにしませんと……」
 そして、むんと気合いを一つ入れていた。いちいち行動が可愛いわね、このライバル令嬢は。
 だったらばと、私だって気合いを入れ直す。たとえ私に敵わなくても、この可愛いライバル令嬢を、殿下たちの婚約者としてふさわしい方に育て上げませんとね。
「あらあら、二人ともものすごい気合いの入り様ですわね」
 そう言ってやって来たのはラムだった。ちょうどお昼休みの時間で、これから食事なのである。という事は、ラムと一緒の講義を受けていたモモもこの場に来ているだろう。さっきの時間は選択科目で、私たちと二人とは違う講義を取っていたのだ。だから、今こうやって顔を合わせているのである。
「ああ、お姉様こんな所に!」
 モモがパタパタと走ってやって来た。そういえばこの子も何かあるんじゃないかと警戒してたわね。まったく驚くほど今まで何もなかったのだけれども。まったく、疑って悪かったわね。
「それにしても、わたくしたちがやって来るまでの間、お二人で何を話してらしたのですか?」
「あっ、それは私も気になります」
 ラムが私たちを問い質すと、モモもそれに便乗してきた。まあ、気になっちゃいますかね。
「サキ様は自分がまだまだだと仰ってまして、私に指導をお願いしてきたのですよ。今の立場に安心せずに更なる向上を目指す。素晴らしいと思いませんか?」
 私がそう言うと、ラムもモモもその通りだという顔をしている。
「ええ、常に自分を磨く、実に素晴らしいですわ」
「私も、私も負けていられません!」
 ラムは褒めてくるし、モモは対抗心を燃やしている。しかし、実に可愛い反応である。
「モモ、向上心があるのはいいけれど、無理はしないでちょうだいね」
「はい、お姉様」
 私が忠告しておくと、モモは真剣な表情で返事をしてくれた。どうやら気持ちは伝わっているようである。
「ですけれども……」
「どうかされたのですか、アンマリア様」
 私が渋い顔を呟くと、ラムが反応をして私に声を掛けてくる。
「いえ、王子に対する派閥とか、王妃に推すのは誰かというような権力絡みの話が起きていないかというのが気になりましてね」
 私は素直に懸念を伝える。
「それでしたら、フィレン王子とアンマリア様を推す声が最も大きいですわよ。というか、ほぼ全員です」
「……はい?」
 ラムから返ってきた答えに、私は思わず固まってしまうのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?

tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」 「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」 子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています

如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」 何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。 しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。 様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。 この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが…… 男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

処理中です...