伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

文字の大きさ
上 下
157 / 500
第四章 学園編・1年後半

第157話 笑う鬼

しおりを挟む
 私は正直驚いている。この交流授業の担当教官が、まさかサクラのおばとは思ってもみなかった。騎士らしいぴっちりとしたパンツルックに切れ長の瞳、整った顔立ちに忘れてはならない筋肉による肉体美。うん、辺境伯の血筋だわね。
 それに加えて、あのハイヒールでぶれなく歩く姿。もうこれだけでただ者ではない事を物語っている。
 それにしても、漫画にしてもゲームにしても、なんでピンヒールであんなに安定して動ける上に全力疾走できるのかしらね。不思議でならないわ。私だったら開幕数秒で全力転倒する自信があるわよ。
 まあ、そんな事よりも、サクラのおばであるミスミ教官は一体どんな授業をしてくれるのだろうか。その体幹に驚きつつも私は、わくわくが止められないのである。
「今日は交流授業の初日なので、座学で申し訳ないな。次回からは訓練場での授業になるから、動きやすい格好で来るようにしてほしい」
 ミスミ教官がこう話すと、学生たちは「はい」と短く元気な返事をしていた。さすがにバッサーシ辺境伯の妹相手では、生半可な態度というのは取れないのである。私たちの元気そうな返事に、ミスミ教官は満足げにしながら講義を始めた。
 ミスミ教官の座学は、騎士としての心構えという感じのものだった。さすが王国の剣や盾という役割を担う王国騎士でありバッサーシ辺境伯の血筋、その言葉の一つ一つに熱がこもっていた。私の隣に座っているサクラは目を輝かせてものすごく熱心に聞いているし、他の学生たちも真剣に聞いていた。下手に聞こうものならチョークじゃなくてショートソードが飛んできそうだものね。うん、怖い怖い。
 それにしても、この内容は私にとっても興味深いものだった。脳筋の一族だというのに、説明がもの凄く分かりやすいのである。さすが教官を任されるだけの事がある。
 集中して聞き入ること1時間。無事に講義が終わったのであった。
「では、最初にも説明した通り、次回からは訓練場での実践講義になる。くれぐれも場所を間違えないようにな」
「はいっ!」
 トントンと持っていた資料を整えるミスミ教官の言葉に、学生たちは元気のいい返事をする。まあ、逆らえないわよね。
「サクラ」
 講義を終えて解散していく学生たちの間を縫って、ミスミ教官がサクラに近付いてきた。
「ミスミおば……じゃなかったです。ミスミ教官、お久しぶりでございます」
「本当に久しぶりだな。見ない間にずいぶんと鍛えたようだね。袖が破れてしまいそうな見事な筋肉だ」
 サクラの挨拶に、笑いながら筋肉を褒めているミスミ教官。やっぱりバッサーシは筋肉ひと筋なのね。あまりな会話に、私はどう反応していいのかすごく迷ってしまった。
「それにしても……」
 ミスミ教官の視線が私の方へと向く。
「ずいぶんと武術型にしては似つかわしくない体型の方がいらっしゃいますね。アンマリア・ファッティ伯爵令嬢でしたかしら」
 おおっと、私の名前を知られていた。さすがだわね。
「お初にお目にかかります。仰る通り、私はアンマリア・ファッティでございます」
 座ったままは失礼なので、私は立ち上がって軽く挨拶の姿勢をとった。さすがに体型のせいで姿勢が少しふらつく。
「ふむ、悪くない。体型のせいでふらついてはいるが、軸は比較的安定している。これは痩せればとても美しくなるぞ」
 おっと、脳筋一族からお褒めの言葉を頂きましたよ。聞きましたか、奥さん。でも、褒められると本当に不思議と嬉しいものよね。サクラの表情を見る限り、相当に異例な事なんだと認識させられちゃうわね。
「しかし、私の講義を受けるからには、その体格だからといっても一切遠慮はしない。アンマリア嬢にその覚悟があるかどうか、見極めさせてもらうので覚悟をするように」
「望むところでしてよ。そもそも、その覚悟がなければ、この講義を選択なんてしておりませんわ」
 私の言葉を聞いて、ミスミ教官は少し驚いた後、嬉しそうに笑っていた。こいつは本当にやりがいがありそうだと。
「いい覚悟だ。その覚悟に免じて、君には特別メニューを組んでやろう。次回の講義を楽しみにしておくようにな」
 あかん、これは本気でめちゃくちゃ鍛えてくるつもりだわ。私はそう直感した。
 でも、それだからこそ私はかえって燃えてきてしまった。これをうまく利用すれば、もっと痩せる事が可能なのだから。目指すは50kgよ。筋肉があるなら50kgでも問題ないわ。それでいて体を鍛えられるのだから一石二鳥よ。
 鼻息を荒くする私の姿に、サクラからもミスミ教官からも笑いがこぼれていた。
「はっはっはっ、こいつは驚いたな。サクラ、実に面白い友人を持ったものだな」
「はい、アンマリア様はすごいお方なんです」
 サクラが同意してるけど、なんかくっ付いてる形容詞が二人で違ってる気がするんですけど?!
「っと、そろそろ行かないと君たちは次の講義に遅れるぞ。どっちも必須強化だっただろう?」
「はい、そうですね」
「確かに、私は魔法型だから講義棟の移動があるから大変だわ」
 ミスミ教官の言葉に私は慌てる。
「それでは、急ぎますのでこれで失礼します」
「うむ、次の講義の時を楽しみにしているよ」
 私は急ぎ足で教室を出ると、瞬間移動魔法で魔法型の講義棟へと戻ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜

naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。 しかし、誰も予想していなかった事があった。 「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」 すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。 「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」 ──と、思っていた時期がありましたわ。 orz これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。 おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

処理中です...