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第四章 学園編・1年後半
第156話 脳筋の一族の女性騎士
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翌日からは、後期の講義が本格的に開始する。休み明けのテストがないのはありがたい。あれって結構憂鬱になるものなのよ。
1限目の型別の講義を終えると、私は武術型の講義に参加するために移動の準備を始めた。
「お姉様はこれから武術型の講義なのですね」
「ええ、そうよ。体を動かすのは好きだから、楽しみで仕方ないわ」
私がにこりと笑うと、モモは不安そうに私を見ている。
「お怪我をされないように気を付けて下さいね、お姉様」
モモが心配そうに言うので、私はにこりと笑ってモモの頭を軽く撫でた。
「では、行ってまいりますわ」
モモが手を振って見送る中、私は武術型の講義棟へと軽やかな足取りで向かったのだった。
武術型の講義棟は、魔法型の青色を基調とした建物とは違い、赤色を基調としたなんとも目が痛くなりそうな建物だった。ど派手に使い過ぎで悪趣味である。まあ、外観だけだったので安心したけどね。
その武術型の講義棟の中を、私は講義が行われる教室へと歩いていく。垣根を取っ払った最初の講義なので、今日は座学なのである。
私がきょろきょろとしながら歩いていると、よく知った顔が目の前に歩いていた。
「やあ、アンマリア嬢じゃないか。魔法型なのになんで武術型に居るんだ?」
攻略対象の一人、タン・ミノレバーである。さすが脳筋、交流授業の事を忘れているのか。
「これはタン様。後期から始まりました交流授業を受けるためですわよ。私としては、早くこの体型をどうにかしたいですからね」
「ああ、そうか。そんなものがあったな。俺は剣術ひと筋だから、すっかり忘れていたよ。はっはっはっはっ!」
安定のタンである。さすがは鍛える事しか頭にない脳筋族。そんな大事な事を忘れないで下さいませ。
「あら、アンマリア様じゃありませんか。本当にいらしたんですね」
そこへサクラが現れた。
「これはサクラ様。昨日申しました通り、参加させて頂きますわ」
私は挨拶をする。私は約束や言った事は守る女なのですわよ、おほほほほ。
「嬉しい限りですね。武術型って女性が少ないですから、歓迎しますよ、アンマリア様」
サクラはそう言って、私の手を引いて教室へと案内し始めた。
「どれどれ、その体型でどこまでできるのか興味がわいたぜ」
タンは聞こえるように呟くと、私たちの後について来たのだった。
交流授業の武術型の講義は、講義棟の2階で行われる。この講義は選択科目とあってか、なおの事男子学生が多かった。
「私とアンマリア様だけですね」
「みたいですね」
そう、女性はなんと私とサクラの二人しか居なかったのである。ついでに言うと私は魔法型の生徒なので、武術型で参加しているのはサクラただ一人なのである。なんなのよ、これ。
そもそも武術型に割り振られた女子学生は少ないものの、選択となるとここまで居なくなるとは正直思っていなかった。選択科目もいくらか取らないと進級できないのに、大丈夫なのかしら。
私が呆気に取られていると、カツンカツンと誰かが歩いてくる音が聞こえてきた。
(ん? これってヒールの音よね?)
そう、私が聞き取った足音は、確実にかかとの細いピンヒールの音である。いやいやまさかねえ?
私が疑り深くしていると、教室の前方の扉から教師が入って来た。そして、私とサクラが揃って驚いたのである。
「噓、ミスミおば様?!」
サクラが名前を呼ぶ。それに反応した教師が私たちの方を見てきた。
「おお、サクラか。久しぶりだな」
どうやら知り合いという事が確定したようである。
「いくら姪とはいっても、ここは学園だ。手加減はしないから、覚悟しておくといい」
「はい、おば様!」
このやり取りを聞いた学生たちがどよめいている。
それもそうだろう。教師がまさかの女性で、サクラ・バッサーシのおばである。つまり、辺境伯の血筋に連なる者という事なのだ。これだけで生半可な授業にならない事が確定してしまった。だから、抗議に参加している学生たちは戦慄しているのである。
「では、自己紹介をさせてもらおう」
どよめきを切り裂くように、ミスミの声が響き渡る。それによって、学生たちは一気にしんと静まり返った。
「私はミスミ・バッサーシ。ヒーゴ・バッサーシ辺境伯の妹である。現在は王都で騎士団に所属しているが、先日まで出張で不在だったのだ。ゆえに、ほぼ私の事を知らないだろう」
教室中に響き渡る声を、学生たちは静かに聞いている。あのバッサーシの血筋と聞いたら、そりゃ騒ぐ事なんてできないのである。
「この選択科目を受け持ったからには、諸君をビシバシと鍛えていくつもりでいるので、覚悟しておいてほしい。さあ、質問はあるかな?」
ミスミが鋭く言うのだが、その威圧感から誰も発言ができないでいた。
「あの、よろしいでしょうか」
「うん? ずいぶんとゆかいな体格をしているな。アンマリア・ファッティ嬢、何かな?」
「具体的には何をなさるのでしょうか」
「そんなのは決まっている。一に鍛錬、二に鍛錬、三四も鍛錬、五に鍛錬だ!」
うわぁ、出たよ、この脳筋一族め……。待ちなさい、サクラ。なんでそんなに目を輝かせているのかしら。
「ありがとうございました。でしたら、私も精一杯ついていってみせるしかなさそうですね」
「ふっ、そのたるんだ体でか。面白い。サクラとは仲がよさそうだが、身の程を思い知らせてやろう」
私とミスミの間には険悪な雰囲気が漂っている。サクラは戸惑い、それ以外の学生は完全にその空気に飲まれていた。
この面白そうな交流授業に、私は俄然燃えてしまったのだった。巻き込まれた学生たち、ご愁傷様。
1限目の型別の講義を終えると、私は武術型の講義に参加するために移動の準備を始めた。
「お姉様はこれから武術型の講義なのですね」
「ええ、そうよ。体を動かすのは好きだから、楽しみで仕方ないわ」
私がにこりと笑うと、モモは不安そうに私を見ている。
「お怪我をされないように気を付けて下さいね、お姉様」
モモが心配そうに言うので、私はにこりと笑ってモモの頭を軽く撫でた。
「では、行ってまいりますわ」
モモが手を振って見送る中、私は武術型の講義棟へと軽やかな足取りで向かったのだった。
武術型の講義棟は、魔法型の青色を基調とした建物とは違い、赤色を基調としたなんとも目が痛くなりそうな建物だった。ど派手に使い過ぎで悪趣味である。まあ、外観だけだったので安心したけどね。
その武術型の講義棟の中を、私は講義が行われる教室へと歩いていく。垣根を取っ払った最初の講義なので、今日は座学なのである。
私がきょろきょろとしながら歩いていると、よく知った顔が目の前に歩いていた。
「やあ、アンマリア嬢じゃないか。魔法型なのになんで武術型に居るんだ?」
攻略対象の一人、タン・ミノレバーである。さすが脳筋、交流授業の事を忘れているのか。
「これはタン様。後期から始まりました交流授業を受けるためですわよ。私としては、早くこの体型をどうにかしたいですからね」
「ああ、そうか。そんなものがあったな。俺は剣術ひと筋だから、すっかり忘れていたよ。はっはっはっはっ!」
安定のタンである。さすがは鍛える事しか頭にない脳筋族。そんな大事な事を忘れないで下さいませ。
「あら、アンマリア様じゃありませんか。本当にいらしたんですね」
そこへサクラが現れた。
「これはサクラ様。昨日申しました通り、参加させて頂きますわ」
私は挨拶をする。私は約束や言った事は守る女なのですわよ、おほほほほ。
「嬉しい限りですね。武術型って女性が少ないですから、歓迎しますよ、アンマリア様」
サクラはそう言って、私の手を引いて教室へと案内し始めた。
「どれどれ、その体型でどこまでできるのか興味がわいたぜ」
タンは聞こえるように呟くと、私たちの後について来たのだった。
交流授業の武術型の講義は、講義棟の2階で行われる。この講義は選択科目とあってか、なおの事男子学生が多かった。
「私とアンマリア様だけですね」
「みたいですね」
そう、女性はなんと私とサクラの二人しか居なかったのである。ついでに言うと私は魔法型の生徒なので、武術型で参加しているのはサクラただ一人なのである。なんなのよ、これ。
そもそも武術型に割り振られた女子学生は少ないものの、選択となるとここまで居なくなるとは正直思っていなかった。選択科目もいくらか取らないと進級できないのに、大丈夫なのかしら。
私が呆気に取られていると、カツンカツンと誰かが歩いてくる音が聞こえてきた。
(ん? これってヒールの音よね?)
そう、私が聞き取った足音は、確実にかかとの細いピンヒールの音である。いやいやまさかねえ?
私が疑り深くしていると、教室の前方の扉から教師が入って来た。そして、私とサクラが揃って驚いたのである。
「噓、ミスミおば様?!」
サクラが名前を呼ぶ。それに反応した教師が私たちの方を見てきた。
「おお、サクラか。久しぶりだな」
どうやら知り合いという事が確定したようである。
「いくら姪とはいっても、ここは学園だ。手加減はしないから、覚悟しておくといい」
「はい、おば様!」
このやり取りを聞いた学生たちがどよめいている。
それもそうだろう。教師がまさかの女性で、サクラ・バッサーシのおばである。つまり、辺境伯の血筋に連なる者という事なのだ。これだけで生半可な授業にならない事が確定してしまった。だから、抗議に参加している学生たちは戦慄しているのである。
「では、自己紹介をさせてもらおう」
どよめきを切り裂くように、ミスミの声が響き渡る。それによって、学生たちは一気にしんと静まり返った。
「私はミスミ・バッサーシ。ヒーゴ・バッサーシ辺境伯の妹である。現在は王都で騎士団に所属しているが、先日まで出張で不在だったのだ。ゆえに、ほぼ私の事を知らないだろう」
教室中に響き渡る声を、学生たちは静かに聞いている。あのバッサーシの血筋と聞いたら、そりゃ騒ぐ事なんてできないのである。
「この選択科目を受け持ったからには、諸君をビシバシと鍛えていくつもりでいるので、覚悟しておいてほしい。さあ、質問はあるかな?」
ミスミが鋭く言うのだが、その威圧感から誰も発言ができないでいた。
「あの、よろしいでしょうか」
「うん? ずいぶんとゆかいな体格をしているな。アンマリア・ファッティ嬢、何かな?」
「具体的には何をなさるのでしょうか」
「そんなのは決まっている。一に鍛錬、二に鍛錬、三四も鍛錬、五に鍛錬だ!」
うわぁ、出たよ、この脳筋一族め……。待ちなさい、サクラ。なんでそんなに目を輝かせているのかしら。
「ありがとうございました。でしたら、私も精一杯ついていってみせるしかなさそうですね」
「ふっ、そのたるんだ体でか。面白い。サクラとは仲がよさそうだが、身の程を思い知らせてやろう」
私とミスミの間には険悪な雰囲気が漂っている。サクラは戸惑い、それ以外の学生は完全にその空気に飲まれていた。
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