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第三章 学園編

第151話 褒められるのは悪くはないけど

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 宰相の言葉が会場に響き渡ると、厳かな音楽が始まる。言わずと知れた王族たちの登場である。
 バルコニーから登場する国王、王妃、フィレン王子、リブロ王子。それにミール王国のアーサリーとエスカ。実にそうそうたる顔ぶれね。特にエスカ。着飾って黙っていれば、ちゃんと王女に見えるんだからすごいわね。
 檀上まで降りてきた王族が横一列に並ぶ。そして、主役となるリブロ王子が、車椅子のまま少し前に出てきた。
「本日は僕の誕生日を祝うためにお集まり頂き、実に嬉しく思う。しかし、その場にこんな姿をさらす事になってしまったのは少々残念だ。来年こそは自分の足でちゃんと立つ姿を見せられるようにしようと思う」
 リブロ王子はこんな事を言っているけれど、死の淵まで行きかけていた事を知る私からすれば、それだけ立派に喋れるだけでも感動ものなのよね。ああ、いけない。前世と合わせて多分アラフォーの私にはけなげすぎる姿だわ。
 だが、そんな事情を知らない貴族たちは騒めいている。まったく、好き勝手なものだわね。
「そんな僕の誕生日に、バッサーシ辺境伯からとんでもない贈り物が届いた」
 リブロ王子がそう言うと、会場の後方の扉が開き、何やら布に覆われた大きな物体が運び込まれてきた。うん、これはあれだわね。
 当然ながら、大きな物体がいきなり運び込まれたとあって、会場はどよどよと大騒ぎになっている。
 国王から合図が送られると、覆っていた布が取り払われ、中からは光り輝く大きな宝石のような物体が出てきた。言わずと知れた魔石と呼ばれる物体である。
「な、何なんだ、この大きさは!」
「なんてきれいなのでしょうか」
 会場からは様々な声が飛び出している。
「なあ、マリー。あれが例のギガンテスの魔石なのかい?」
 父親がこそこそと私に確認をしてくる。
「はい、モモも必死に戦っていた相手の魔石です」
 私だけが戦ったかのように聞いてこないで下さいね、お父様。モモだって頑張って戦ったんですからね。まあ、結果的には塩湖の水をぶちまけただけだったので、やらかした感はあるんだけどね。言わぬが花よ。
 そんな中、国王による説明が始まる。
「この魔石は、バッサーシ領で倒されたとある魔物の魔石だ」
 会場からは「おおっ……」という驚嘆の声が聞こえてくる。まず見る事のない大きさの魔石だから、無理もない。
「先日、クッケン湖でスタンピードが起きた。よりにもよって、学園の生徒たちが合宿している場でだ」
 これにはさすがに会場が騒めいた。
「だが、知っての通り、合宿に参加していた学生たちは、全員無事に戻ってきている。そう、そのスタンピードは王国とバッサーシの兵、そして学生たちの手によって制圧されたのだ」
 会場からは拍手が起きる。
「その場に居合わせた上に、その魔石の主を倒してくれた者たちを紹介しよう。呼ばれたら前に出てくるように」
 宰相が出てきてそのように述べると、会場は一気にしんと静まり返った。
「フィレン・サーロイン、アーサリー・ミール、エスカ・ミール」
 王族三人の名前が並んで出てきて、一同にはどよめきが起きている。そりゃねえ、王家を継ぐ人間だから、騒ぎにもなるってものよ。
「ラム・マートン、タカー・ブロック、サクラ・バッサーシ」
 公爵、侯爵、辺境伯と、どうやら身分の高い方から順番に呼んでいるようだ。まあ、当たり前か。
「アンマリア・ファッティ、モモ・ファッティ、カービル・バラロース、サキ・テトリバー、タン・ミノレバー、以上だ」
 単純な話、ゲームにおける主人公と攻略対象とライバル令嬢全員である。とはいえ、参加していなかったリブロ王子を含めた全員が一堂に並ぶとは、なかなかない状況だった。てかさ、ギガンテス戦はほとんど戦力外だったんだけどね、私とアーサリーって。居ていいのかしら。
「伝説の魔物、ギガンテスを打ち倒した勇者たちだ。皆の者、盛大な拍手を送るがよいぞ!」
「ギガンテスだって?!」
「まあ、なんて素晴らしいのかしら」
 ギガンテスを知る知らないで貴族たちの反応は分かれていたのだけど、ほぼ全員から惜しみない賞賛の拍手が送られていた。まっ、褒められるのは悪くないわよね。
「それでは、ギガンテスを打ち倒した勇者たちに褒美を与える」
 宰相の宣言に、ぞろぞろと城で働く使用人たちが出てくる。その手には何かを置いた盆を持っているようだった。うん、勲章みたいだわ。
 使用人たちと共に出てきた城の役人たちが、私たちの胸に勲章をつけてくれる。ドレスに勲章ってどうかとは思うんだけど、まあ仕方ないか。そして、勲章をつけ終わると役人と使用人たちは一斉にはけていった。
「それでは、この者たちにもう一度盛大な拍手を!」
 大きな拍手を送られて、これで終わりかと思った私だったが、
「では、せっかくのパーティーなので、1曲踊ってもらおうか」
 うん、そうなるわよね。私たちはみんなの注目を浴びる中、ダンスを披露する事になったのだった。私は太っている事もあるし、あまり活躍してなかったので辞退させてもらったけれどね。
 こうして、リブロ王子の誕生日パーティーは始まったのだった。
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