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第三章 学園編

第149話 気苦労はひとつ去っても次が来る

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 3日後、ようやくフィレン王子たちを乗せた馬車たちが王都にたどり着いた。しかも時間はもう日が暮れるというか暮れた後というタイミングだった。
 城へはフィレン王子とアーサリーだけではなく、突然やって来ていたフリーダムプリンセスのエスカも一緒に戻ってきていた。やっぱりエスカも居たか……。
「サーロイン国王陛下、王妃殿下、リブロ殿下。私、エスカ・ミールの突然の訪問をお許し下さいませ」
 謁見の間にて普通に挨拶をするエスカ。その姿を私たちは普通に柱の影から見守っていた。
 それというのも、時間が遅くなってしまったがゆえにもうひと晩泊めさせられる事になってしまったのだ。リブロ王子からのお願いもあったし、これは仕方ないわね。ちなみにモモは完全に巻き込まれた形で、この状況には震え上がっていた。少しは慣れて欲しいものだわ。どうせ明日からは前回のようにエスカがまた私の家うちに来るんだし。
「おお、ミール王国王女よ。リブロの誕生日を祝いに来てくれたのかな?」
「はい、隣国の王女として、少しでも両国の友好の役に立ちたいと思いまして、お祝いのために訪問させて頂きました。あと、お兄様のか……様子も見に来ました」
 エスカ、今監視と言おうとしたわね。とっさに言い直したけど、あまり変わってないわよ。それにしても、あの言い分じゃアーサリーは恐らく自国からもあまり信用が無いって感じなのかしらね。自業自得だろうけど可哀想に。
「そうか。クッケン湖での話は、そちらのアンマリアとモモから聞いている。エスカ王女も大活躍だったそうじゃないか」
「いえ、私の活躍などたかが知れています。あれは皆さんが協力したからこそ、勝ち取れた勝利ですわ」
 国王の言葉に、どこまでも謙遜に振る舞うエスカである。王女ロール、完璧じゃないのよ。
「ははは、アーサリー王子とは違って実に謙虚な娘よなぁ。いずれはミール王国の国王と一緒に晩酌でも酌み交わしたいものだぞ」
 エスカの事をたいそう気に入ったのか、国王がもの凄い事を口走っている。王子王女というレベルでなら交流のある両国だが、実は国王同士となると直接会う事が滅多にというか全然ない。まったくもって不思議に思わざるを得ないわね。
「ほれ、アンマリアとモモもこっちに来んか。いつまで隠れておるつもりだ」
 おおっと、さすが国王陛下。すっかりばれちゃてたわね。そんなわけで、私たちは柱の影からすっと姿を現した。
「あら、アンマリアったら隠れて聞いてましたのね」
「エスカ王女殿下、無礼をお許し下さいませ」
 呆れたように言うエスカに対して、私はスカートをちょんとつまんで頭を下げて謝罪をする。その隣では、モモがガチガチに固まりながらも、同じように頭を下げていた。うちの養女になってから何年経ってるのよ、モモ……。
「まあいいですわ。明日から誕生日パーティーが終わるまで、アンマリアの家にお邪魔させて頂きますから、それで許してあげましょう」
 予想した通りの展開に、私は乾いた笑いしかできなかった。だけども、今は国王たちを目の前にした状態なので、エスカはいいとしても失礼な態度は避けなければならなかった。
「身に余る光栄、謹んでお受け致します」
 私がこう返答すると、エスカは小さくガッツポーズをして、モモはものすごく嫌そうな顔をしていた。二人とも、態度に出過ぎよ。本当に心配になるレベルなのよ。
「はっはっはっ、本当にお前たちは仲が良いようだな」
 その様子を見て、どういうわけか国王が笑っている。そのせいもあってか、父親がもの凄く冷や汗を流しているのが見える見える。
「ゼニークよ。そう心配するな。来年から王女の留学を受け入れる際は、城で預かるからな。……っと思い出した。そういえば、ベジタリウスからも王子と王女を留学させるとかいう話が来ておったな。まともな教育機関がうちの国にしかないとはいえ、王子王女をまとめて送ってきて大丈夫なのか心配になってくるぞ」
 国王の懸念もごもっともだ。他国へ留学させるという事は、その国の慣習に染まってしまう危険性があるのだから。それでも送り込んでくるあたり、ミール王国もだけど、ベジタリウス王国にも思惑がありそうだわ。
 それにしてもエスカが言っていた通り、ベジタリウスの王子王女もサーロイン王国こっちに留学にやって来るのか。拡張版の話はさすがに私にも分からないから、あとでエスカからさらに詳しく聞いておきましょうかね。
「まあ、受け入れを決めた以上も、私どもの方も腹を括らねばなるまい。連中の扱いについては、アンマリアたちにも期待しておるぞ」
 国王がこう告げて、ひとまずの謁見は終了となった。完全に陽の暮れている時間のため、そろそろ夕食を食べないと就寝に影響するからだった。
 王族と一緒に食事をする事になった私たちだけれども、その前に客室に案内してもらって荷物を置く。そして、食事をしながらクッケン湖でのスタンピードの報告をフィレン王子とエスカを加えた状態で行ったのだった。さすがに想像を絶する状況だっただけに、国王も王妃もリブロ王子も言葉を失ってしまっていた。よくみんな無事だったと、ただただそう思う事しかできなかった。
「学生たちには何か褒美を取らせねばならんな。リブロ、お前の誕生日パーティーの席でそれをしても問題はないか?」
「はい、その時でしたらみなさんお集まりでしょうから、時間を取って頂いて構いません。……僕も兄上たちには負けていられませんね」
 国王の提案を、リブロ王子は受け入れていた。そして、フィレンたちに対抗意識を燃やし始めたのだった。変な方向に向かなきゃいいんだけどと、私はちょっと心配になってしまった。
 いろいろあったけれど、これで1年生での夏合宿は終わりかあ。少々消化不良だけれど、あの規模のスタンピードじゃ仕方ないわね。
 食事を終えた私は、さっさと気持ちを切り替える事にしたのだった。
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