上 下
145 / 500
第三章 学園編

第145話 主役は負けない

しおりを挟む
「やあああっ!!」
 サクラがギガンテスへと斬り掛かる。だが、相手が巨体すぎてこのままでは足元しか斬る事ができない。
「カービル様!」
 その時に動いたのが、ラムだった。
「そうか、私たちの風なら」
 カービルも感じ取ったらしく、すぐに風魔法を発動させる。
「サクラ様、私たちが風魔法で上空へ飛ばします。一気に上からギガンテスを叩いて下さい!」
「分かりました!」
 次の瞬間、ラムとカービルが一緒になって風魔法で足場を作る。そして、
「跳べ!」
 と叫ぶと、足場に乗ったサクラを一気に上空へと跳ね上げた。ギガンテスの頭よりも高い位置まで跳び上がると、
「はああっ!!」
 サクラは手に握る剣に一杯の力を込める。そして、凍て付くギガンテス目がけて、自身の火と土の魔力がこもって輝く魔石剣を思いっきり振り下ろした。
 一方のギガンテスも凍り付きながらそれに抗おうとするものの、思った以上に氷がしっかりとしており、動く事ができない。これは単純に氷を作っているエスカの魔力のせいである。ヒロインたるアンマリアの魔力には及ばないものの、そこは転生者の魔力だもの。簡単に破れるものなら破ってみなさいというくらいにガッチガチに固めてあるのである。
 それに加えて、凝固点降下で凍り付く前にかなりの冷気にさらされた事で、ギガンテスの体力はかなり奪われていた。だからこそ、この危機的状況下にあってもギガンテスは抵抗できなくなっているというわけよ。
「辺境を護り続けたバッサーシの血脈の力、思い知りなさい!」
 サクラはそう叫んで、ギガンテスへと魔石剣を思い切り叩きつけた。
 ギガンテスに当たった部分には激しいスパークが発生している。これはサクラが無意識に放出した魔力が、魔石剣に集まって集中的に放出されているためだ。だが、それでもギガンテスは斬れない。いくらサクラの脳筋パワーをもってしても、ギガンテスが規格外すぎて通じていないのである。
「ぐぎぎぎぎ……っ! 硬い、このくらいでぇっ!!」
 サクラが力さらに込めている。
 この様子を見たフィレン王子たちはようやくギガンテスの咆哮の痺れから回復する。
「くそっ、アンマリアがっ!」
「殿下、お気持ちは察しますが、今はあれを倒す事が先決です」
「ああ、そうだなっ……」
 フィレン王子たちは剣を構える。
「行くぞ、タン」
「はっ、殿下!」
 走り出すフィレン王子とタン。負けじと動けるようになったタカーも魔法で援護する。
「殿下、タン。私の魔法で強化します!」
 文官らしく、後方支援職であるバフを使うタカー。身体能力などが一時的に上昇する。
「俺が氷を一部分削りますので、殿下はそこを狙って下さい!」
「分かった。頼むぞ!」
 タンはバリバリと剣に雷を集中させる。
「ライトニングピアー!」
 そして、剣にまとわせた雷を、一気にギガンテスに向かって突き出した。
 バリバリという轟音と共に打ち出された雷は、ギガンテスの胸部に命中する。そして、エスカとサキの協力技でできた氷を胸板の一部ごと削り取ってしまった。
「殿下、今です!」
 タカーとタンが同時に叫ぶ。
「うおおおおっ!!」
 フィレン王子の持つ剣に、フィレン王子の属性である雷と光の両方の属性が生み出す神々しい電撃がまとわりついていく。
「よくもアンマリアを!」
 フィレン王子は力の限り、剣を突き出して電撃を放った。
 いや、気合いを入れる王子はかっこいいんですけれど、私を死んだ前提で進めないでもらいたいわね。
 私は穴から顔を出して戦いを見守っている。なんか出て行きづらいので、私はそのまま穴の中でおとなしくしている。それにしても、あれだけの威力の雷魔法が使えるなんて思わなかったわね。いくらタカーの強化バフがあるとはいえども、今のフィレン王子たちに扱える威力を超えている気がするわ。……私が死んだと思っているから出せているのかしらね。感情が爆発した事で、リミッターが外れるってやつなのかしら。
 さて、フィレン王子から放たれた電撃は、タンが削り取った氷の部分に見事に命中している。飛び道具が放てるあたりは魔法も使える王子っぽくていいわね。
 私が感動している中、冷気で耐久力を失ったギガンテスは、フィレン王子の電撃によって鋭く胸部を撃ち抜かれてしまった。
「ガ……ア……」
 うめき声はわずかに漏れる。そして、
「だっりゃああああっ!!」
 胸部を貫かれて、さらに耐久度の落ちたギガンテスは、サクラの手によって、頭部から見事真っ二つにされてしまったのだった。哀れギガンテス。ゲームの主役たちを敵に回したのが運の尽きだったわね。
 真っ二つになったギガンテスが、ズズーンという大きな音を立てて崩れ落ちた。そして、魔石を残して魔力の灰となって崩れ去ってしまった。
 死力を尽くして戦って勝利したというのに、誰の顔にも笑顔なんてものはなかった。それもそうだろう。私が死んだものだと思ってるんだから。さてさて、せっかく戦いも終わった事だし、私は姿を現しましょうかね。
 私は泣き崩れているエスカたちの姿を見ながら、タイミングを見ながらこっそりと穴から脱出する。そして、そろりそろりと足音を立てないようにしながら、みんなに近付いていったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?

tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」 「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」 子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………

naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます! ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話……… でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ? まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら? 少女はパタンッと本を閉じる。 そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて── アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな! くははははっ!!! 静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

婚約破棄イベントが壊れた!

秋月一花
恋愛
 学園の卒業パーティー。たった一人で姿を現した私、カリスタ。会場内はざわつき、私へと一斉に視線が集まる。  ――卒業パーティーで、私は婚約破棄を宣言される。長かった。とっても長かった。ヒロイン、頑張って王子様と一緒に国を持ち上げてね!  ……って思ったら、これ私の知っている婚約破棄イベントじゃない! 「カリスタ、どうして先に行ってしまったんだい?」  おかしい、おかしい。絶対におかしい!  国外追放されて平民として生きるつもりだったのに! このままだと私が王妃になってしまう! どうしてそうなった、ヒロイン王太子狙いだったじゃん! 2021/07/04 カクヨム様にも投稿しました。

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

処理中です...