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第三章 学園編

第141話 2度目はありませんよ

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 恐ろしいまでの魔力の渦が、クッケン湖の湖面上に起きている。あまりの禍々しさに私は険しい顔をして身構えた。ただでさえ、ついさっき魔物たちが出現したばかりである。こんな短い間隔でスタンピードなど起きるものなのだろうか。
 遅れて出てきた魔力の渦の禍々しさに、先に出てきた魔物たちも怯んでいる。どうやらイレギュラーなスタンピードの予兆のようだった。
「みなさん、あれは私が対処します。ですので、今出てきている魔物に集中して下さい」
 私はみんなに声を掛ける。
「分かりました。アンマリア様、ご無事に戻ってきて下さい」
 サクラがまた縁起でもない事を言っているけれど、正直私も同じような感想を持ってしまった。あれのやばさを、サクラはしっかり認識していたのである。さすがは辺境伯の血筋ですわね。
「さあ、みなさん。魔物たちを撃退しますよ!」
 気持ちを切り替えて先に現れた魔物たちへと集中するサクラたち。
 一方で、私は一人で後から現れた渦へと集中している。正直冷や汗が出る。体格の事もあってか、まるでガマの油のようだわ。だったら渦からは蛇でも出るのかしらね。私は眼光鋭く渦を注意深く見続けた。
(向こうはエスカも居るから心配はないはず。となれば、私はとにかくこっちに集中ね。あの渦はとにかく異常だわ。先に潰そうとしたら絶対危険な気がするもの。でも、このまま発動するのを待つのも時間が掛かりそうね……)
 どんどんと渦が大きくなっていく様子を見ながら、私は究極の選択を迫られていた。
 と、その時だった。
「アンマリア、渦を潰しちゃって! その方が安全よ!」
 誰かの叫ぶ声が聞こえた。その声のした方向へ顔を向けると、その声の主はエスカだった。同じ転生者が言う事だ。私はその声に従う事にした。
 ただ、あまりの禍々しさに普通に潰しちゃうとしても通じるかどうか分からない。となれば、できる限り全力で潰した方がいいだろう。そんなわけで、私は両手をパンッと合わせて一気に魔力を練り始めた。
(闇の力が集まっている。そして、ここはクッケン湖。だったら、使う属性はこの二つね)
 私の手にバチバチとした光が集まり始める。光属性と雷属性、その二つを融合させたものだった。そして、魔力を集中させ終わると、私は湖の上の闇の渦に向けてその魔法を放った。
「ディヴァインサークル!」
 闇の渦の真下の湖面に魔法が着弾すると、一気に上空に向かって魔法が発動する。ただの光属性だけなら、おそらく通じないと見た私。だからこそ、そこに雷属性を付与したのである。光と雷によって闇の渦が焼かれている。ついでに先立って発動したスタンピードの出遅れた連中をも焼いていく。さすがはチートな主人公の魔法。13歳という年齢を考えると規格外すぎるというものだった。
 私が放った魔法と闇の魔力の渦が激しくぶつかり合って、バリバリという大きな音を立てている。私の魔法にも耐えるというのかしら。この一撃で粉砕できなかったのは予想外だった。
 その時、魔力の渦がゆらりと揺れたように見えた。まるで生き物のように私をあざ笑ったようにも見えた。
「こんの、魔力の塊のくせに!」
 挑発された私は、ちょっとだけぷっつりときてしまった。魔力の塊の分際で、ヒロインにけんかを売るとはいい度胸じゃないの。その高いプライド、へし折ってあげようじゃないのよ。
「ディヴァインスフィア!」
 さくっとさっきより強い魔力を練り上げて発動する。こんな短時間で、なおかつさっきよりも強い魔力をぶつけられた魔力の渦は、ざざっとその形を崩し始めた。魔力のくせにヒロインを舐め腐ってくれたお返しよ!
 さすがに2つの光魔法に焼かれてしまえば、いくらなんでも魔力の渦は耐えきれないだろう。それが証拠に渦巻く魔力が垂直方向に分散を始めていた。2発目のスフィアが魔力を掻き乱して、1発目のサークルが魔力を分散しているのよ。
 ところが、この魔力の渦はまるで生き物のように、私の放った魔法に抵抗している。必死に渦の形を保とうとしているのだ。
「これ以上の抵抗は、無駄ですわ! 消えてなくなりなさい。ホーリーオクタヘドロン聖なる八面体!」
 とどめを刺すように私はもう一発、極大の光魔法をお見舞いしてあげた。その魔法を放つと、私は大きく肩で息をする。さすがに光魔法3発は疲れてしまうわね。しかも、どんどんとそのランクを上げていったのだから、なおの事ね。
 チート級の存在である私と、チート級の現象であるスタンピードは、私の方に軍配が上がった。闇の渦は耐え切れずに形を崩して消え去ってしまったのだ。ふふん、ゲームの強制力になんか負けませんわよ!
 こうなれば残りは最初のスタンピードで発生した魔物だけなのだけれども、私の掛けたバフとデバフがあるし、私が鍛えたライバル令嬢たちが居るから安心だろう。
 これでサキが魔物たちを片付けてくれれば、私の知るゲームの展開である『ヒロインの覚醒』と『サキの覚醒』の両方が満たされるもの。
 私は魔力を使い過ぎたのもあって、魔力を回復させるために休憩しながら、その戦いの様子をじっと眺めていたのだった。
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