伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

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第三章 学園編

第140話 強制力って怖いわね

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 ベジタリウス王国の話は一旦置いておいて、私はスタンピードの事を思い出した。
 そういえば、合宿のちょうど真ん中になる日は、ゲームにおいてスタンピードが発生して、アンマリアかサキの覚醒が起きるという一大イベントの日なのである。ベジタリウス王国のせいで一瞬飛び掛かってしまったけれど、思い出せてよかったわ。
 エスカに確認してみても、彼女もそのように記憶しているので、これはもう疑いようのない未来なのである。
 ただし、これに関してはちょっとだけ不安な点がある。なにせ、8歳でクッケン湖にやって来た時にスタンピードが発生していたからである。あの時は私の魔法で一瞬で終わってしまったがために、実に拍子抜けすぎて驚いたくらいだ。
 まぁそれはそれとして、ゲームで発生するイベントだからこそ、起こる算段が高い。となれば、3日目はサキに構う事にしましょう。
 そんなわけで、3日目の私はライバル令嬢とエスカを集めて、ひたすら魔法の鍛錬を行った。ちなみに教官には申し出て許可を受けたわよ。
 さあ、来るなら来なさい、スタンピード!
 そんなわけで、合宿は運命の4日目を迎えた。
 この日も朝から天気は良かった。お昼までは何事もなく過ぎていった。ところがだ。
「あら、雲行きが怪しくなってきましたわね」
 最初に異変に気が付いたのはラムだった。
 そもそもクッケン湖の辺りはそこそこの標高がある。山の天気は変わりやすいのだから、急に雲が広がるというのはそれなりにあり得る話なのである。
 ただ、これが杞憂で終わればよかった。
(これは、魔力が渦巻いている?!)
 私はひしひしと異質な魔力を感じていた。
「アンマリア。やばいわよ、この気配」
 どうやらエスカも同じような事を感じていたようだ。その時だった。

 カンカンカンカンッ!

 けたたましいばかりの鐘の音が鳴り響く。これはバッサーシ領でスタンピードが発生した時にならされる鐘の音だった。なんて事、ゲームのイベント通りにスタンピードが発生してしまったわ。
 その鐘が鳴り響く中、クッケン湖の中央ほどに、どす黒い魔力の渦が発生している。
「先生! 学生たちを早く避難させて下さい。スタンピードです!」
「な、なんだとっ?!」
 びりびりと空気が振動して、湖面が波立っている。とてもじゃないけれど、8歳の時に起きたスタンピードとは比べ物にならないくらいの、強い魔力の圧力を感じている。どうやら、ケルピーどころの話ではなさそうだった。
 明らかに不穏な魔力の気配に、学生たちは怯えながら教官たちの指示に従って避難を始める。そして、ちょうどそこへバッサーシ辺境伯の私兵と国境警備隊たちが駆けつけた。だが、その間も湖面上の黒い渦は広がり続けている。一体どんな魔物が出てくるというのかしらね。
 クッケン湖を望む湖畔には、私とリブロ王子を除く攻略対象とアーサリーという男性陣、ライバル令嬢とエスカの女性陣が身構えている。なんでみんな残っているのかしらね。これもゲームの強制力なのかしら……。
 私が首を傾げていると、クッケン湖の上に発生した魔力の渦が、いよいよ中から押し出される魔力の圧力に耐えきれなくなっているようだった。小刻みに震えたかと思うと、ついにはひびが入り、そして砕け散った。
「ギャアアアアッ!!」
 けたたましい雄たけびと共に、大量の魔物があふれ出てくる。
(この戦い、ヒロインであれば戦闘シーンに切り替わって、連戦をこなすのよね。サキだったらスチル1枚で片付けられちゃうんだけど……)
 考え事をしてしまうほどの余裕のある私だけれども、さすがにみんなの表情は険しかった。これがヒロインとそれ以外のキャラの差というものなのだろうか。
「みなさん、迎え撃ちますよ!」
「ああ、分かった!」
 サクラの号令で、みんなが一斉に構える。さすが辺境伯令嬢、かっこいいわ。
 とりあえず、ゲームと現実は違うのだから、私はみんながけがをしないようにバフとデバフをそれぞれ展開しておく。緊張感で誰も気が付いてないけれど、さすがにエスカは転生者らしく勘付いていた模様。
 とはいえども、黙っておくと勘違いしそうなので、
「みなさん、この戦いがこちらの有利になるようにバフとデバフを展開しておきました。それでも、相手は数多くの魔物たちです。決して油断なさいませんように」
「アンマリア、助かる!」
 フィレン王子がお礼を言ってくれた。うん、さすが王子、絵になるわね。
 みんなが戦っている後ろで、私は討ち漏らしなどを決して逃さなかった。ちょいとした魔法で倒せているあたり、8歳の時に使った魔法を使えば、これはあの時同様に一瞬で一掃できてしまいそうだった。それではさすがにみんなの訓練にはならないから、今回は封印だけれどもね。今回はあくまでも、サキの覚醒のルートを選んでいるの。私が倒してしまっては意味がないのよ。
「アンマリア、わざと手を抜いてますわね?」
「ええ、今回はあくまでライバル令嬢たちに頑張ってもらうわ。私はやばいのが出てきた時ために温存よ」
「はあ、そうご都合な事があるかしら?」
 王子たちの連携がうまくいき、いよいよ魔物の数も少なくなってきた時だった。

 ズゥゥン……。

 重い衝撃が辺り一帯に走ったのだった。
「う、嘘でしょ?」
「何なんだよ、あれは!」
 思わず目を向けたクッケン湖の湖面上に、新たなどす黒い魔力の渦が発生したのだった。
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