139 / 500
第三章 学園編
第139話 謎に包まれた隣国
しおりを挟む
部屋で椅子やベッドに座り、しばらく流れる沈黙。そして、ぽつぽつとサクラが語り出した。
「ベジタリウス王国は、お父様たちからするとあまり語りたくない国のようなんですよね」
あの筋肉至上主義のバッサーシ辺境伯が語りたがらない。その言葉に私やエスカはとても興味を持った。モモも空気を読んで黙って聞いている。
「南のミール王国もそうですが、今でこそ平和ですが、過去には何度となく侵略めいた事がありました。その時に真っ先にその矢面に立って応戦したのが、バッサーシの祖先なのです」
サクラの語り出した言葉に、私たちは小さく息を飲んだ。
私は思い出していた。北西、北東、そして南部の三か所にどうして辺境伯という存在が居るのかという事を。
辺境伯というのは国境警備の要なのだ。つまり、その国からしたら死守したい場所であるという事なのである。サーロイン王国の北西にはバッサーシ辺境伯が陣取っており、そこを越えた先にあるベジタリウス王国というものがそりゃまともな国なわけがないのである。
サーロイン王国のある土地一帯というのは、比較的温暖で肥沃な土地が広がっている。海からも微妙に遠いその土地は、いろいろと恵まれていたのだ。だからこそ、山向こうにある古い国であるベジタリウス王国は、サーロインの土地を狙って侵攻を繰り返してきたのだ。その中で大規模な侵攻があった時に、勢いに乗るベジタリウス帝国を山向こうまで押し返したのがバッサーシ辺境伯のご先祖なのだという。そして、その功績と実力を称えられ、今のバッサーシ領があるのだそうだ。
「正直、来年から同じ学園に通うと聞いて、父ヒーゴと母シーナは気が気がないのです。再びサーロインへ攻め入るためのスパイ工作ではないかとか、いろいろ疑っているのですよ」
サクラはそのように語って話を締めた。いや、同じように辺境伯に睨みを利かされているミール王国の王女が居る前で、そう言い切っちゃいますか?!
「国境沿いというのは大変なのですね」
よく分かっていないのか、エスカは特に気にしていないようだった。これには私はちょっと意外だと思いながらも安心した。
「ええ、大変なのですよ。もう年末に向けて今から支度している真っ最中なのです。レッタス王子とミズーナ王女の我が国への留学の際には、途中バッサーシ領で一泊なされますから」
年が近い事もあってか、どうやらサクラも巻き込まれているらしい。なにせその際にはミズーナ王女を自室に招き入れなければならないからだ。一国の王子や王女を受け入れるのは、名誉ではあるが気を遣う事なのである。ましてや、過去に因縁のある相手ならばなおさらである。サクラがこれだけ滅入ってしまっているのは本当に珍しい話である。
「我がミール王国との関係とは大違いですわね。それほどまでにベジタリウス王国というのは厄介な国なのですわね」
エスカが顎に手を当てて唸るような仕草を見せている。ちなみにモモはずっと後ろに控えて心配そうに見守っているだけだった。
「ミール王国に関しては、3年前に訪れてある程度関係と状況が改善したからでございます。アンマリア様たちの努力あってこそですよ」
エスカの反応に対して、サクラはそう話していた。やっぱり10歳の時に海見たさにミール王国に突撃した事は影響しているようである。これでこそ強行したかいがあるというものね。私は太い腕を組んで少し誇らしげに笑った。
「私の方としても、そう言って頂けて嬉しい限りですわ。お兄様の様子を見る限り、とても信用されるような状態ではないと思いますのでね」
サクラの感想に対して、エスカの方は額に指先を当てて首を左右に振っていた。ちょうど自分がやってきた時のアーサリーの振る舞いの事を思い出していたからである。本当に、自分が留学している国の王子の婚約者に対してのあの態度、エスカとしては頭が痛いのだ。それにしても言葉と態度が違い過ぎる。
サクラがさらに言うには、ベジタリウス王国との間ではあまり交流がなかったらしい。私たちが知らなかったのはこういうところにも理由がありそうだ。これでもバッサーシ辺境伯領は、サーロイン王国内ではベジタリウス王国とは交流がある方なのだ。なにせ、同国との間で行き来する商人がたくさん通るからだ。サクラたちの持つ情報も、大体そういった商人たちからもたらされる情報であり、サーロイン王国内では実質謎の国といった状態のようである。
「さすがにそんな国からいきなり王子王女を留学させるなんて、それはうさん臭くもなりますね」
「ええ、まったくですよ。お父様あたりはもっとよくご存じかとは思いますけれど、先ほども言いました通り、あまり語りたがりませんのでね……。私が持つ情報も商人や兵士たちからのもので、あまり詳しくは分からないのです」
私に対してあんなに風に叱ったサクラも、その実はあまり詳しくなったという現実。それでも、国の存在を知っているだけ幾分マシという感じである。
「これは、私の方でも調べておく必要がありますわね。サーロインから直接探りを入れるより、もしかしたら情報は得られるかも知れませんから」
エスカはやる気のようである。自分も来年から学園に通うのだから、少しは不安材料を減らしておきたいのである。
「そうですね。では、分かりましたら、お互いに情報を共有致しましょう」
サクラがそう言って話を締めると、私たちははお互いに頷き合う。すると、
「そ、それでしたら、私も!」
モモは慌てて声を出してそこに加わった。
謎に包まれた隣国ベジタリウス王国。一体どんな国で、どんな人物がやって来るのだろうか。私たちはあまりの不気味さに不安を募らせた。
「ベジタリウス王国は、お父様たちからするとあまり語りたくない国のようなんですよね」
あの筋肉至上主義のバッサーシ辺境伯が語りたがらない。その言葉に私やエスカはとても興味を持った。モモも空気を読んで黙って聞いている。
「南のミール王国もそうですが、今でこそ平和ですが、過去には何度となく侵略めいた事がありました。その時に真っ先にその矢面に立って応戦したのが、バッサーシの祖先なのです」
サクラの語り出した言葉に、私たちは小さく息を飲んだ。
私は思い出していた。北西、北東、そして南部の三か所にどうして辺境伯という存在が居るのかという事を。
辺境伯というのは国境警備の要なのだ。つまり、その国からしたら死守したい場所であるという事なのである。サーロイン王国の北西にはバッサーシ辺境伯が陣取っており、そこを越えた先にあるベジタリウス王国というものがそりゃまともな国なわけがないのである。
サーロイン王国のある土地一帯というのは、比較的温暖で肥沃な土地が広がっている。海からも微妙に遠いその土地は、いろいろと恵まれていたのだ。だからこそ、山向こうにある古い国であるベジタリウス王国は、サーロインの土地を狙って侵攻を繰り返してきたのだ。その中で大規模な侵攻があった時に、勢いに乗るベジタリウス帝国を山向こうまで押し返したのがバッサーシ辺境伯のご先祖なのだという。そして、その功績と実力を称えられ、今のバッサーシ領があるのだそうだ。
「正直、来年から同じ学園に通うと聞いて、父ヒーゴと母シーナは気が気がないのです。再びサーロインへ攻め入るためのスパイ工作ではないかとか、いろいろ疑っているのですよ」
サクラはそのように語って話を締めた。いや、同じように辺境伯に睨みを利かされているミール王国の王女が居る前で、そう言い切っちゃいますか?!
「国境沿いというのは大変なのですね」
よく分かっていないのか、エスカは特に気にしていないようだった。これには私はちょっと意外だと思いながらも安心した。
「ええ、大変なのですよ。もう年末に向けて今から支度している真っ最中なのです。レッタス王子とミズーナ王女の我が国への留学の際には、途中バッサーシ領で一泊なされますから」
年が近い事もあってか、どうやらサクラも巻き込まれているらしい。なにせその際にはミズーナ王女を自室に招き入れなければならないからだ。一国の王子や王女を受け入れるのは、名誉ではあるが気を遣う事なのである。ましてや、過去に因縁のある相手ならばなおさらである。サクラがこれだけ滅入ってしまっているのは本当に珍しい話である。
「我がミール王国との関係とは大違いですわね。それほどまでにベジタリウス王国というのは厄介な国なのですわね」
エスカが顎に手を当てて唸るような仕草を見せている。ちなみにモモはずっと後ろに控えて心配そうに見守っているだけだった。
「ミール王国に関しては、3年前に訪れてある程度関係と状況が改善したからでございます。アンマリア様たちの努力あってこそですよ」
エスカの反応に対して、サクラはそう話していた。やっぱり10歳の時に海見たさにミール王国に突撃した事は影響しているようである。これでこそ強行したかいがあるというものね。私は太い腕を組んで少し誇らしげに笑った。
「私の方としても、そう言って頂けて嬉しい限りですわ。お兄様の様子を見る限り、とても信用されるような状態ではないと思いますのでね」
サクラの感想に対して、エスカの方は額に指先を当てて首を左右に振っていた。ちょうど自分がやってきた時のアーサリーの振る舞いの事を思い出していたからである。本当に、自分が留学している国の王子の婚約者に対してのあの態度、エスカとしては頭が痛いのだ。それにしても言葉と態度が違い過ぎる。
サクラがさらに言うには、ベジタリウス王国との間ではあまり交流がなかったらしい。私たちが知らなかったのはこういうところにも理由がありそうだ。これでもバッサーシ辺境伯領は、サーロイン王国内ではベジタリウス王国とは交流がある方なのだ。なにせ、同国との間で行き来する商人がたくさん通るからだ。サクラたちの持つ情報も、大体そういった商人たちからもたらされる情報であり、サーロイン王国内では実質謎の国といった状態のようである。
「さすがにそんな国からいきなり王子王女を留学させるなんて、それはうさん臭くもなりますね」
「ええ、まったくですよ。お父様あたりはもっとよくご存じかとは思いますけれど、先ほども言いました通り、あまり語りたがりませんのでね……。私が持つ情報も商人や兵士たちからのもので、あまり詳しくは分からないのです」
私に対してあんなに風に叱ったサクラも、その実はあまり詳しくなったという現実。それでも、国の存在を知っているだけ幾分マシという感じである。
「これは、私の方でも調べておく必要がありますわね。サーロインから直接探りを入れるより、もしかしたら情報は得られるかも知れませんから」
エスカはやる気のようである。自分も来年から学園に通うのだから、少しは不安材料を減らしておきたいのである。
「そうですね。では、分かりましたら、お互いに情報を共有致しましょう」
サクラがそう言って話を締めると、私たちははお互いに頷き合う。すると、
「そ、それでしたら、私も!」
モモは慌てて声を出してそこに加わった。
謎に包まれた隣国ベジタリウス王国。一体どんな国で、どんな人物がやって来るのだろうか。私たちはあまりの不気味さに不安を募らせた。
7
お気に入りに追加
261
あなたにおすすめの小説
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
願いの代償
らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。
公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。
唐突に思う。
どうして頑張っているのか。
どうして生きていたいのか。
もう、いいのではないだろうか。
メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。
*ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。
離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?
ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
悪役令嬢に転生したので、剣を執って戦い抜く
秋鷺 照
ファンタジー
断罪イベント(?)のあった夜、シャルロッテは前世の記憶を取り戻し、自分が乙女ゲームの悪役令嬢だと知った。
ゲームシナリオは絶賛進行中。自分の死まで残り約1か月。
シャルロッテは1つの結論を出す。それすなわち、「私が強くなれば良い」。
目指すのは、誰も死なないハッピーエンド。そのために、剣を執って戦い抜く。
※なろうにも投稿しています
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる