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第三章 学園編
第136話 乱入エスカ?
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「はい、お兄様ストップですわよ」
聞いた事のある声が訓練をしている学生たちの中で響き渡る。全員の視線がそちらへと一斉に向く。その視線の先には、予想だにしない人物が立っていて、私はものすごく驚いた。見た事のあるサーモンピンクの髪にアクアブルーの髪の毛。そう、少し前に我が家に泊まっていたエスカ・ミール王女殿下その人である。
「エスカ王女殿下、どうしてこちらに?!」
私は当然のようにエスカに質問する。
「ええ、お兄様の様子が心配になって来てみたのです。そしたら、学園の合宿でこちらにいらっしゃるとお伺い致しまして、急ぎやって来た次第ですわ」
にこりと笑顔で答えるエスカ。嘘は言っていないようである。
まあ、他国の学園で落第などしようものなら、王家にとってこの上ない恥とも言えるのだ。心配になっても仕方ないだろう。おそらくは、フィレン王子の誕生祭の時からエスカは気にしていたのだと思われる。
「そしたらば!」
エスカの表情がいきなり険しくなる。
「どういう事ですの、お兄様! 伯爵令嬢とはいえ、隣国の王子の婚約者に手をあげるなんて! 王族として恥ずかしくございませんの? ええ、私は恥ずかしくて穴に入りたいくらいでしてよ!」
アーサリーに対して、エスカによる口撃が始まった。こうなってくるともはや誰にも止められない。アーサリーもたじたじである。
あーあ、せっかく公式にこてんぱんにできると思ったのに、ちょっと興が削がれちゃったわね。アーサリーはエスカに感謝しなさいよ。あのまま続けていたら、太った伯爵令嬢に倒された王子という不名誉な称号を得るところだったんだからね。
私は木剣を収めると、エスカにそっと近づいた。
「私はなんともありませんから、王女殿下、落ち着きましょう」
私がにこやかに笑顔を向けると、ようやくエスカは落ち着いたのだった。はあ、ちょっとヒステリックなところもあるから大変だわね……。
とりあえず、エスカの乱入によって、ここで学生たちに一度休憩が言い渡されたのだった。
私たちは木陰に移動して休息を取る。エスカの足元には、従者が敷いたラグがある。さすがは王女という待遇である。
一方の私たちはそのまま地べたに座っている。
「しかし、驚きました。まさかエスカ王女殿下がこんな所にいらっしゃるなんて思ってもみませんでした」
モモがどストレートに言っている。うん、もう少し考えて言いましょう?
「ふふっ、私は先ほど言いました通り、お兄様の様子を見に来ただけですよ。監視が緩くなるこの場なら、きっと何かしでかす気がしましたのでね。合宿に参加したと聞いて、急いで参りましたのよ?」
エスカはそれに対して普通に答えている。私と同じ転生者ではあるけれど、自分の置かれている立場をしっかりと理解して振る舞っているようだ。
「それとなんですけれどね。私がここまで来た理由にはもう一つあるのですよ」
「そうなのですか?」
エスカが言った言葉に、モモが食いつくように反応をしている。モモ、いくらなんでも過剰に反応しすぎよ。
「ええ、アンマリア。あなたに会いに来たのよ」
「私ですか?」
エスカの言葉に白々しく驚く私。するとエスカは、ふふんと勝ち誇ったような顔をしていた。何よ、そのドッキリ大成功みたいな顔は……。
いろいろ言いたいところだけれども、ここはおとなしく黙っておくのが吉よね。エスカの顔を見た限りそう感じた私は、とりあえずは流れに任せて黙っておく事にした。
「とりあえず、お兄様がいろいろとご迷惑をお掛けしているようで、皆様には心よりお詫び申し上げます」
「いえ、王女殿下が頭を下げられるような事ではございませんわ」
エスカが頭を下げると、ラムたちがこぞって慌てていた。王族が頭を下げるなんて考えられないから仕方ないかしらね。
「しばらくはこちらに滞在して、愚兄の監視を行いますので、お任せ下さいませ」
エスカがにっこり言うと、まぁ当然ながらみんな困惑している。
「私も来年からはこちらにお世話になりますから、予行演習だと思って楽しませてもらいますわ」
にっこにこのエスカに、みんなして言葉を失っていた。私も頭を押さえて俯くのが精一杯だった。
「というわけでして、ここからアンマリアと二人きりで話がしたいのです。よろしいでしょうか」
話が一段落したところで、エスカがそのように切り出すと、みんなそれを了承して立ち上がって移動を始めた。モモだけは私を心配してか何度となく振り返っていたものの、ラムやサキに促されるようにして他の学生たちと合流していった。
二人残されたところで、正直気まずい状態だった。私の方からはエスカに対して話がないのだ。
「ふう、ちょっとよろしいですか?」
「な、なんでしょうか」
エスカが何かを切り出してきたので、私はちょっと体を飛び跳ねさせてエスカの方へと振り向く。だけれども、エスカはそれに動じる事なく、真剣な表情で私の方を見つめてゆっくりと口を開いた。
「荒唐無稽かとは思いますけれど、面白い夢を見ましたので、それを同じ転生者であるあなたにお話しさせて頂きますわ」
私はその言葉に、ごくりと息を飲んで構えた。
一体エスカは何を話すというのだろうか。
聞いた事のある声が訓練をしている学生たちの中で響き渡る。全員の視線がそちらへと一斉に向く。その視線の先には、予想だにしない人物が立っていて、私はものすごく驚いた。見た事のあるサーモンピンクの髪にアクアブルーの髪の毛。そう、少し前に我が家に泊まっていたエスカ・ミール王女殿下その人である。
「エスカ王女殿下、どうしてこちらに?!」
私は当然のようにエスカに質問する。
「ええ、お兄様の様子が心配になって来てみたのです。そしたら、学園の合宿でこちらにいらっしゃるとお伺い致しまして、急ぎやって来た次第ですわ」
にこりと笑顔で答えるエスカ。嘘は言っていないようである。
まあ、他国の学園で落第などしようものなら、王家にとってこの上ない恥とも言えるのだ。心配になっても仕方ないだろう。おそらくは、フィレン王子の誕生祭の時からエスカは気にしていたのだと思われる。
「そしたらば!」
エスカの表情がいきなり険しくなる。
「どういう事ですの、お兄様! 伯爵令嬢とはいえ、隣国の王子の婚約者に手をあげるなんて! 王族として恥ずかしくございませんの? ええ、私は恥ずかしくて穴に入りたいくらいでしてよ!」
アーサリーに対して、エスカによる口撃が始まった。こうなってくるともはや誰にも止められない。アーサリーもたじたじである。
あーあ、せっかく公式にこてんぱんにできると思ったのに、ちょっと興が削がれちゃったわね。アーサリーはエスカに感謝しなさいよ。あのまま続けていたら、太った伯爵令嬢に倒された王子という不名誉な称号を得るところだったんだからね。
私は木剣を収めると、エスカにそっと近づいた。
「私はなんともありませんから、王女殿下、落ち着きましょう」
私がにこやかに笑顔を向けると、ようやくエスカは落ち着いたのだった。はあ、ちょっとヒステリックなところもあるから大変だわね……。
とりあえず、エスカの乱入によって、ここで学生たちに一度休憩が言い渡されたのだった。
私たちは木陰に移動して休息を取る。エスカの足元には、従者が敷いたラグがある。さすがは王女という待遇である。
一方の私たちはそのまま地べたに座っている。
「しかし、驚きました。まさかエスカ王女殿下がこんな所にいらっしゃるなんて思ってもみませんでした」
モモがどストレートに言っている。うん、もう少し考えて言いましょう?
「ふふっ、私は先ほど言いました通り、お兄様の様子を見に来ただけですよ。監視が緩くなるこの場なら、きっと何かしでかす気がしましたのでね。合宿に参加したと聞いて、急いで参りましたのよ?」
エスカはそれに対して普通に答えている。私と同じ転生者ではあるけれど、自分の置かれている立場をしっかりと理解して振る舞っているようだ。
「それとなんですけれどね。私がここまで来た理由にはもう一つあるのですよ」
「そうなのですか?」
エスカが言った言葉に、モモが食いつくように反応をしている。モモ、いくらなんでも過剰に反応しすぎよ。
「ええ、アンマリア。あなたに会いに来たのよ」
「私ですか?」
エスカの言葉に白々しく驚く私。するとエスカは、ふふんと勝ち誇ったような顔をしていた。何よ、そのドッキリ大成功みたいな顔は……。
いろいろ言いたいところだけれども、ここはおとなしく黙っておくのが吉よね。エスカの顔を見た限りそう感じた私は、とりあえずは流れに任せて黙っておく事にした。
「とりあえず、お兄様がいろいろとご迷惑をお掛けしているようで、皆様には心よりお詫び申し上げます」
「いえ、王女殿下が頭を下げられるような事ではございませんわ」
エスカが頭を下げると、ラムたちがこぞって慌てていた。王族が頭を下げるなんて考えられないから仕方ないかしらね。
「しばらくはこちらに滞在して、愚兄の監視を行いますので、お任せ下さいませ」
エスカがにっこり言うと、まぁ当然ながらみんな困惑している。
「私も来年からはこちらにお世話になりますから、予行演習だと思って楽しませてもらいますわ」
にっこにこのエスカに、みんなして言葉を失っていた。私も頭を押さえて俯くのが精一杯だった。
「というわけでして、ここからアンマリアと二人きりで話がしたいのです。よろしいでしょうか」
話が一段落したところで、エスカがそのように切り出すと、みんなそれを了承して立ち上がって移動を始めた。モモだけは私を心配してか何度となく振り返っていたものの、ラムやサキに促されるようにして他の学生たちと合流していった。
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「ふう、ちょっとよろしいですか?」
「な、なんでしょうか」
エスカが何かを切り出してきたので、私はちょっと体を飛び跳ねさせてエスカの方へと振り向く。だけれども、エスカはそれに動じる事なく、真剣な表情で私の方を見つめてゆっくりと口を開いた。
「荒唐無稽かとは思いますけれど、面白い夢を見ましたので、それを同じ転生者であるあなたにお話しさせて頂きますわ」
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