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第三章 学園編

第134話 どんな時でもマイペース

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 合宿が始まって2日目を迎える。この日はまずは体力づくりとして、国境警備隊たちの手によって安全が確認されているクッケン湖の近辺の走り込みから始まった。北方向の山に近付いた辺りには、普段から魔物がうろついているので、いくら警備隊が安全を確保しているとはいっても油断は禁物である。その中を、私たちはひたすら駆けていく。
 さすがに武術型の面々は普段から鍛えているので、たかだか1時間程度の走り込みではなんともない。ただ、魔法型の方は基本的に体力がないので、ついていくので必死だ。さすがに可哀そうには思えるのだが、私の友人でライバル令嬢たちであるモモ、サキ、ラムの三人は魔法型であるにもかかわらず余裕のようだった。サクラは武術型だし、この何倍も走り込んでいるので当然ながら余裕である。まあ、さすがにライバル令嬢たちのスペックは高いわね。
 私は当然余裕よ。どれだけ鍛えていると思っているのよ。痩せるための運動は欠かしていませんわ。
 夏の眩い日差しの下、私たちは汗を流しながら走り込みを終えたのだった。
 その後、昼を宿舎で過ごすと、午後はそれぞれの型に分かれての稽古だった。この分なら、合宿の後半には実際に魔物と戦う事になりそうな感じだった。一応国境警備隊もついてくるので万が一って事はないとは思うけれど、稽古の様子を見ていたらどことなく不安になるわね。さすがはぬくぬくと育ってきた貴族たちだわ。午前中の走り込みのせいか、うまく集中できていないのよ。走り込みに耐えたといっても、学園での授業の何倍も走っていたものだから、多くの貴族たちは疲れた様子を見せていたわ。
 そんな中でもさすがはフィレン王子やタンだわね。元々武術型だし、片や王子、片や王国騎士の息子、さすがにあの走り込みの後でもまったくぶれていないわ。でも、残り攻略対象であるカービルとタカーは疲れた様子を見せていた。こっちは魔法型だし、文官系だから無理もない話かな。
「あははははっ、軟弱ですね、殿方たち!」
 サクラは元気いっぱいである。さすがは脳筋乙女。サクラと打ち合っているのは男子学生なのだが、サクラの動きにまったくついていけていない。完全に防戦一方な上に、その対処が徐々に遅れ始めていた。
「勝負あり! ですかしら」
「くっ……」
 顔の前で木剣を寸止めされた男子学生は、それはもう悔しさを滲ませていた。しかし、相手にしていたのはただの女子学生ではない。屈強たる王国の盾であるバッサーシ辺境伯の娘なのだ。中途半端な鍛え方で太刀打ちできる相手ではないのである。運動用の服装から見える部分だけではなく、もう見るからに全身が筋肉まみれのおよそ令嬢らしからぬ状態なのだ。ゴリラといってもいいくらいのサクラに敵うと思っている時点で、愚かなのである。
(ああ、サクラ様ったらまた見るからにマッチョになってしまっているわね。ドレス姿もパツパツなものだから、服が破けないかひやひやしたものよ……)
 私はそんな目でサクラを見ていたのだが、どうやら魔法で破けないようにしてあるらしく、そういう心配はないらしい。さすが淑女だわ。
 それにしても、サクラは男子学生たちを遠慮なくフルボッコにしていた。本当に辺境伯の娘としての実力は、申し分がないくらいに高いようだった。
「はははっ、そんなに強いと、つい俺も戦いたくなってしまうな。どうだ、バッサーシ辺境伯令嬢、お手合わせを願えるかな?」
 それを見ていたタンがサクラに声を掛けている。すると、サクラはにやりと笑っていた。
「ふふふっ、婚約者であるタン様にお声掛け頂けるなんて、思ってもみませんでしたわ」
 そして、サクラは木剣を構える。
「ですが、いくら婚約者とて手加減は致しませんよ。辺境では手を抜く事は死を意味します。ですので、タン様も全力で掛かってきて下さいませ」
 サクラが啖呵を切ると、タンもタンで嬉しそうな笑みを浮かべていた。もうやだ、この戦闘狂たち……。
 私がサクラを呆れながら見ていると、さっきサクラにフルボッコにされた男子学生が私に視線を向けてきた。
「お前、俺の事をバカにしたか?」
 ちょっとお待ちなさいな。よりにもよって、フィレン王子が居る前で私に因縁をつけるのか? バカなの、死ぬの?
 ところがどっこい、フィレン王子はサクラとタンの戦いに夢中で気が付いていないようだった。仕方ないので私は、その命知らずに仕方なく対応する事にする。売られたけんかだ、買ってやるわよ。
「はあ、何を見てそう思ったのか分かりませんが、私に因縁をつけるというのでしたら、お相手しますわよ?」
 まったく、魔法型の授業の事を知らないのだろうか。私は魔法使用の制限を掛けられるくらいに魔法のレベルが違うのだ。その私に対してけんかを売るという事は、よほどの命知らずらしい。
 私の後ろではモモたちが慌てているけれど、どうしてそんなに動揺をしているのかしらね。
「太っているくせにコケにしやがって。俺の剣で立ち直れないようにしてやる」
 まあ完全に頭に血が上っているわね。私はため息を吐きながら、木剣を持ってきてもらう。そして、私に因縁をつけてきた男子学生と対峙したのだった。
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