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第三章 学園編
第131話 夏合宿の始まり
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翌日、私とモモは伯父夫婦とタミールに見送られながらファッティ領を後にした。瞬間移動魔法で一瞬にして合宿場所であるバッサーシ領へと入る。
ただ困った事に、合宿に参加する学生たちが到着するのは翌日だ。それまでどうしようか悩む事になってしまった。そんなわけで私たちは、領都であるテッテイへと顔を出す事にした。
バッサーシ邸に顔を出すと、
「おお、これはアンマリア嬢、よく来てくれたね」
サクラの父親であるヒーゴ・バッサーシが出迎えてくれた。よくもまあ、これだけ肥え太った姿を見て私だと分かったものである。大体ここにやって来たのは5年前よ。よくよく思えばモモはここは初めてだっけか。ファッティ領の時同様に初対面の相手に怯えている。まあ、バッサーシは筋肉至上主義だものねぇ。鍛え上げられた肉体美が怖くなるのも無理はないわ。
「はっはっはっ、私どもを初めて見た者は大体そうなるのだよ。なに、怖くはない。この筋肉があるからこそ、サーロイン王国の平和は保たれておるのですぞ! ぬぅんっ!!」
怯えるモモに対して、さらにポージングを決めるヒーゴ。いやだから、それが怖いんだってば。ああ、モモが泣きそうになってるわ。
「ところで、アンマリア嬢はどうしてこちらに? サクラは一緒ではないのですかな?」
ヒーゴが私に質問してくる。この人は学園の合宿の事は知らないのかしらね。
「サクラ様でしたら、明日の昼にはクッケン湖に到着されると思いますわ。今日は多分、テッテイよりも手前の場所で野営をされておられると思います。何と言っても学園の夏合宿ですからね」
「ああ、そんなものがあったな。懐かしいな、もう20年は昔の話になるか」
私の答えを聞いたヒーゴは、懐かしさに腕組みをしている。
「それで、私なんですが、義妹のモモと一緒に一度自領を訪れてからこちらに伺いました。そのために別行動になっているのです。バッサーシ邸を訪れた理由ですが、野宿はモモには厳しいかと思ったからですわ」
続けて答えた私を見て、すっと横に居るモモへと視線をずらすヒーゴ。その瞬間、モモはひっと小さく声を上げる。いや、さすがにここまで来ると失礼でしょうよ、モモ。だけれども、そのモモの態度が私の言葉に説得力を持たせたのだ。
「がーはっはっはっはっ! 分かった分かった。そういう事なら今夜はうちに泊まっていきなさい。できれば学園でのサクラの話を聞かせてもらいたいものだな」
「ありがとう存じますわ、ヒーゴ様。クラスが違うゆえにあまり語る事ができませんでしょうが、知りうる限り、ご報告させて頂きます」
腰に両手を当てて豪快に笑うヒーゴに、私は淑女の挨拶をする。そして、その夜は、学園の事を話してバッサーシ辺境伯の家族と大いに盛り上がったのだった。
翌日、私は朝食までごちそうになって、いよいよクッケン湖へ向けて出発する事になった。
「はっはっはっ、実にいい天気ですな。私の筋肉もこの通り光り輝いておりますぞ!」
玄関を出たところで見送り来ていたヒーゴが、両腕を上げてポージングを取りながら何かを言っている。その姿に私はドン引き、モモは怖がって私の後ろに隠れた。もうやだ、この脳筋辺境伯。
「ところで、クッケン湖まではどうやって行かれるのですかな? 見たところ馬で来たようにも見えぬのだが……」
ヒーゴは私たちをじろじろと見ている。そりゃ気になるわよね。私たちみたいな令嬢が徒歩で現れてたんだもの。
「おほほほ、乙女には秘密の一つや二つはあるものですわよ、ヒーゴ様」
私は笑ってごまかしておく。乙女の秘密なれば、いくら脳筋とはいえど追究してこまい。
「はーっはっはっはっ、乙女の秘密か。こいつは敵わんな、がっはっはっ!」
うん、そこまで笑わなくてもいいじゃないのよ、この脳筋。
「そうだ。馬に乗れるのであれば、こちらで用意するぞ。どうだ、乗ってみないか?」
「いえ、さすがに私の体重で馬に乗るのは馬が可哀想でございます。モモは馬を乗りこなせませんし、丁重にお断りさせて頂きます」
変な事を言ってくるものだから、私は当然のごとく断った。私の記憶通りなら、65kgでも乗ればかなり厳しいものなはずだから。
「がーっはっはっはっ。我が領の生産馬はご令嬢二人が乗ったところでびくともしませんぞ。その気になれば鎧兜に身を包んだ大男が二人乗っても速く駆けますからな。がーっはっはっはっ!」
おやおや、200kgくらいが乗っても大丈夫なのか。さすがは軍馬といったところかしらね。というか、ヒーゴは二言目には大笑いするわね。癖なのかしら。
「まぁ、ともかく遠慮しておきますわ。もう行かなくてはなりませんので、ひと晩お世話になりました。おかげで助かりました」
「ありがとうございます」
私とモモはお礼を言う。
「そうか。まぁいつでもまた来てくれ。娘の友人ならばいつでも歓迎だ」
ヒーゴがそう言うので、私たちはもう一度頭を下げてからバッサーシ邸を後にしたのだった。
いよいよクッケン湖へと向けて出発する私たち。テッテイで食料品を買い込んでは、こっそりと収納魔法にしまい込んでいく私。希少どころではない魔法だけに、適当な鞄を肩から下げて魔法鞄に見せかけて使っている。
物が揃ったところで、私たちは一気に瞬間移動魔法でクッケン湖へ到着した。
この辺りはバッサーシの私兵や国境警備隊が訓練が行う場所なので、大きな宿舎が建っているのだ。今回の合宿ではそこを借りて学生たちは一週間生活をする。
早めにやって来た私たちはそこで動きやすい格好に着替えた後、学園からやって来る教官や学生たちを待ち構えていた。
さあ、夏の合宿が始まる。
ただ困った事に、合宿に参加する学生たちが到着するのは翌日だ。それまでどうしようか悩む事になってしまった。そんなわけで私たちは、領都であるテッテイへと顔を出す事にした。
バッサーシ邸に顔を出すと、
「おお、これはアンマリア嬢、よく来てくれたね」
サクラの父親であるヒーゴ・バッサーシが出迎えてくれた。よくもまあ、これだけ肥え太った姿を見て私だと分かったものである。大体ここにやって来たのは5年前よ。よくよく思えばモモはここは初めてだっけか。ファッティ領の時同様に初対面の相手に怯えている。まあ、バッサーシは筋肉至上主義だものねぇ。鍛え上げられた肉体美が怖くなるのも無理はないわ。
「はっはっはっ、私どもを初めて見た者は大体そうなるのだよ。なに、怖くはない。この筋肉があるからこそ、サーロイン王国の平和は保たれておるのですぞ! ぬぅんっ!!」
怯えるモモに対して、さらにポージングを決めるヒーゴ。いやだから、それが怖いんだってば。ああ、モモが泣きそうになってるわ。
「ところで、アンマリア嬢はどうしてこちらに? サクラは一緒ではないのですかな?」
ヒーゴが私に質問してくる。この人は学園の合宿の事は知らないのかしらね。
「サクラ様でしたら、明日の昼にはクッケン湖に到着されると思いますわ。今日は多分、テッテイよりも手前の場所で野営をされておられると思います。何と言っても学園の夏合宿ですからね」
「ああ、そんなものがあったな。懐かしいな、もう20年は昔の話になるか」
私の答えを聞いたヒーゴは、懐かしさに腕組みをしている。
「それで、私なんですが、義妹のモモと一緒に一度自領を訪れてからこちらに伺いました。そのために別行動になっているのです。バッサーシ邸を訪れた理由ですが、野宿はモモには厳しいかと思ったからですわ」
続けて答えた私を見て、すっと横に居るモモへと視線をずらすヒーゴ。その瞬間、モモはひっと小さく声を上げる。いや、さすがにここまで来ると失礼でしょうよ、モモ。だけれども、そのモモの態度が私の言葉に説得力を持たせたのだ。
「がーはっはっはっはっ! 分かった分かった。そういう事なら今夜はうちに泊まっていきなさい。できれば学園でのサクラの話を聞かせてもらいたいものだな」
「ありがとう存じますわ、ヒーゴ様。クラスが違うゆえにあまり語る事ができませんでしょうが、知りうる限り、ご報告させて頂きます」
腰に両手を当てて豪快に笑うヒーゴに、私は淑女の挨拶をする。そして、その夜は、学園の事を話してバッサーシ辺境伯の家族と大いに盛り上がったのだった。
翌日、私は朝食までごちそうになって、いよいよクッケン湖へ向けて出発する事になった。
「はっはっはっ、実にいい天気ですな。私の筋肉もこの通り光り輝いておりますぞ!」
玄関を出たところで見送り来ていたヒーゴが、両腕を上げてポージングを取りながら何かを言っている。その姿に私はドン引き、モモは怖がって私の後ろに隠れた。もうやだ、この脳筋辺境伯。
「ところで、クッケン湖まではどうやって行かれるのですかな? 見たところ馬で来たようにも見えぬのだが……」
ヒーゴは私たちをじろじろと見ている。そりゃ気になるわよね。私たちみたいな令嬢が徒歩で現れてたんだもの。
「おほほほ、乙女には秘密の一つや二つはあるものですわよ、ヒーゴ様」
私は笑ってごまかしておく。乙女の秘密なれば、いくら脳筋とはいえど追究してこまい。
「はーっはっはっはっ、乙女の秘密か。こいつは敵わんな、がっはっはっ!」
うん、そこまで笑わなくてもいいじゃないのよ、この脳筋。
「そうだ。馬に乗れるのであれば、こちらで用意するぞ。どうだ、乗ってみないか?」
「いえ、さすがに私の体重で馬に乗るのは馬が可哀想でございます。モモは馬を乗りこなせませんし、丁重にお断りさせて頂きます」
変な事を言ってくるものだから、私は当然のごとく断った。私の記憶通りなら、65kgでも乗ればかなり厳しいものなはずだから。
「がーっはっはっはっ。我が領の生産馬はご令嬢二人が乗ったところでびくともしませんぞ。その気になれば鎧兜に身を包んだ大男が二人乗っても速く駆けますからな。がーっはっはっはっ!」
おやおや、200kgくらいが乗っても大丈夫なのか。さすがは軍馬といったところかしらね。というか、ヒーゴは二言目には大笑いするわね。癖なのかしら。
「まぁ、ともかく遠慮しておきますわ。もう行かなくてはなりませんので、ひと晩お世話になりました。おかげで助かりました」
「ありがとうございます」
私とモモはお礼を言う。
「そうか。まぁいつでもまた来てくれ。娘の友人ならばいつでも歓迎だ」
ヒーゴがそう言うので、私たちはもう一度頭を下げてからバッサーシ邸を後にしたのだった。
いよいよクッケン湖へと向けて出発する私たち。テッテイで食料品を買い込んでは、こっそりと収納魔法にしまい込んでいく私。希少どころではない魔法だけに、適当な鞄を肩から下げて魔法鞄に見せかけて使っている。
物が揃ったところで、私たちは一気に瞬間移動魔法でクッケン湖へ到着した。
この辺りはバッサーシの私兵や国境警備隊が訓練が行う場所なので、大きな宿舎が建っているのだ。今回の合宿ではそこを借りて学生たちは一週間生活をする。
早めにやって来た私たちはそこで動きやすい格好に着替えた後、学園からやって来る教官や学生たちを待ち構えていた。
さあ、夏の合宿が始まる。
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