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第三章 学園編

第126話 さあ、出発よ

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 部屋に戻った私はモモを呼び止める。
「モモ、私からプレゼントがあるから、ちょっと待ってて」
「えっ、はい」
 私は部屋に戻ると、とあるものを持ってモモの元に戻る。
「はい、これが私からの誕生日プレゼントよ」
 私は小さな包み紙をモモに渡す。
「あの、開けても大丈夫ですか?」
「そうね。開けても大丈夫よ。むしろ今すぐ見て欲しいかしらね」
 私の返答を聞いたモモは、早速包みを開けて中身を取り出す。すると中から現れたのは、不思議な色をしたリボンだった。今は暗がりのせいでよく分からないものの、なんだかキラキラと光り輝いているように見える。
「お姉様、これは?」
 モモは戸惑いながら私に問い掛けてくる。
「魔物から取れた魔石を、私の魔法で加工したものよ。防護の魔法が掛けてあるから、きっと悪い事からモモの事を守ってくれるわ」
「お姉様……」
「まったく、物が物ゆえに、親の前で渡せなかったのはつらかったわ。私の魔石加工技術がここまでだと知られると、いろいろと面倒なの。モモも黙っておいてちょうだいね」
「は、はい!」
 私からのお願いに、モモは元気よく返事をしていた。できれば静かに返事をしてもらいたかったわね。
「お姉様、早速着けてみてもよろしいですか?」
 リボンを手にしたモモは早速そんな事を言ってきた。断る理由なんてないわ。私は微笑みながらそれを了承する。そしたら、モモはすぐさまそのリボンで髪を結い始めた。
「ど、どうかな、お姉様」
「うん、ばっちり可愛いわよ」
 照れながら確認してくるモモに、私は即答でズバッと答えた。ええ、姉バカとでも何とでも言ってちょうだい。そして、一回転してみてと頼むと、モモはそれに応えてその場でくるりと一回転してみせた。ああ、可愛いわね。
「モモ、ちょっといいかしら」
「何でしょうか、お姉様」
「明日から夏休みの間、そのリボンは寝る時も含めて外さないでちょうだい」
 私からの要望に、モモは驚いた表情で固まっている。
「ね、寝ている時もですか?」
「ええ、そうよ。モモは可愛いから、外で何かあってはいけないわ。いい? あなたは国の宰相であるバラクーダ・ブロック侯爵の息子タカー・ブロック様の婚約者なのよ? その事を自覚なさい」
 私が強くモモに言い放つと、モモは勢いに押される形で黙って頷いていた。王子の婚約者である私もだけれども、宰相といえば国王と共に国の政治を支える大事な立場なのだから、その子どもの婚約者というのもまた、重要な存在なのである。私はそこをモモに強く言ったのだ。
「とはいえども、髪の毛を結っているのは髪を痛めるので、ヘアバンドのようにするのが無難かしらね」
「分かりましたわ、お姉様」
 聞き分けの言いモモは、私の言い分を受け入れてくれた。これまでもモモの事を考えて動いていたのが功を奏したのだろう。
 とにかく明日からは夏休み。2週間後にはリブロ王子の誕生日を迎えるから、それまでに戻ってこなければね。モモと別れて自分の部屋に戻った私は、そんな事を考えながら荷物の最終準備を始めたのだった。

 一方のモモは、
「はあ、お姉様が贈って下さったリボン、本当にきれいね」
 こちらも荷物のチェックを行っているのだが、モモは何度となくリボンに手を伸ばしていた。
「ここまで私の事を思って下さるお姉様。そんなお姉様を、どうして私が裏切るなどと思いましょう……」
 モモはネスを見る。
「ネス、私たちがこちらを留守にしている間、スーラと一緒に家の事を頼みましたよ」
「畏まりました」
 ネスの返事を聞くと、モモは再び黙々と旅行と合宿のための最終準備を進めていた。
(お姉様が私の事を思ってくれるように、私もまた、お姉様の事を考えております)
 ふと手を止めたモモは、アンマリアの部屋の方をじっと見ていたのだった。

 そして、翌日を迎える。
 玄関先に私とモモが立ち、専属の使用人であるスーラとネスは、私の両親たちと一緒に見送りの位置に立っていた。
「本当に二人だけで大丈夫かい?」
「ご心配なく、お父様」
「そうです、お父様。私たちはもう子どもじゃありません。お父様たちの代わりに、しっかり領地を見てきますので、ご報告を楽しみにしていて下さい」
 心配する父親に、私とモモはしっかりとした表情で力強く言葉を返していた
「すまないな。私もフトラシアも王都を離れられないばかりに、娘に負担を掛けるような真似になってしまって」
「そういう時こそ支え合うのが家族ではございませんこと?」
 父親の発言にすぐさま言葉を返す私。それに対して父親は感極まったのか涙を浮かべていた。
「うおお、このような娘たちを持てて、私は幸せ者だぞ!」
 人目をはばからず父親が号泣している。まったく、館の玄関先で助かったわね。
 そして、玄関からは両親と専属の使用人であるスーラとネスの四人を残して仕事に戻ってもらう。
「それでは、そろそろ出ると致しますわ、お父様、お母様」
「ああ、無事に戻ってきておくれよ」
「そうよ、無茶はしないでね」
「はい、リブロ殿下の誕生日までにはきちんと戻ってきますわ。ね、モモ」
「はい、お姉様」
 挨拶を終えた私たちは、すすっと玄関の先まで歩いて出る。そして、着替えなどの入った鞄を抱えると、私とモモは手をつないだ。
「それでは、行ってきますわ」
 私がそう言うと、その場から私たちの姿がふっと掻き消えたのだった。
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