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第三章 学園編

第125話 モモ13歳

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 私とモモが食堂に入ると、両親はすでに席座って待ちわびていた。両親を待たせてしまうとは、私としては失敗だったわ。だけども、両親はものすごく穏やかな顔で私たちを見ている。
「お父様、お母様、お待たせして申し訳ございませんでした」
 私は謝罪をするとてくてくとテーブルへと歩いていく。ここではたと私は気が付いた。
「モモ? こっちいらっしゃい」
 モモが立ち尽くしたままだったのだ。なので、私はモモを慌てて呼ぶ。
「ほら、今日の主役はモモなんだから、ね?」
 私は一度入口まで戻って、モモの手を引いて再びテーブルへ歩いていく。そして、モモを座らせる。ちなみに私はこの時、椅子を操作していた。普通は使用人の仕事なんだけどね、今回は特別よ。だって、今日はモモの誕生日なんですもの。
 そして、モモを座らせた私は、その隣に両親と向かい合うようにして座った。椅子が軋んだとか言わないでよ?
「モモが我が家に来てから、もう5年も経つのか。時が経つのは早いものだな」
「ええ、そうですわね」
 しみじみと話す両親の前でがちがちに固まるモモ。今さらそんなに緊張するの? 私はモモに驚きの視線を向けていた。
「本当に誕生日おめでとう、モモ」
「ええ、おめでとう」
「ありがとうございます」
 両親からのお祝いの言葉に、モモは頭を下げていた。
 そういえば、テーブルには料理がまだ並べられていない。どういう事だろうかと私が思っていると、父親が唐突に手を打って合図を送った。そうすると、食堂の扉が開き、次々と料理が運ばれてきた。その豪華さには私はちょっとくらっと来てしまうくらいだった。誕生日の日付的な事もあって私はまともに祝われた記憶がないので、さすがに嫉妬を覚えるレベルである。それに、これだけ食べると間違いなくリバウンドしてしまいそうなので、そちらの意味でもめまいがしてしまったのだ。
「アンマリア、大丈夫?」
「ええ、お母様。ちょっと料理が豪華だったのでめまいがしてしまいましたわ。痩せようと努力しているところですので、量を見て驚いてしまっただけです。ご心配なく」
 母親が心配してきたものの、私は気丈に振る舞った。妹の誕生日なんですもの、水を差したくないものね。
 とりあえず、問題なく食事を進めていると、
「ところで、明日からは領地に向かって、そのまま学園の合宿に参加する予定らしいけれど、移動手段はどうするのかしら」
「そうだな。ファッティ領は思ったよりも遠い。そこを経由してバッサーシ領に行くとなると、ゆっくりする暇もないはずだぞ。二人とも馬には乗れないだろう?」
 両親が突然夏休みの予定の事を聞いてきた。うん、気になるわよね。私たちだけで出かけるという事もそうだけれども、そういう物理的な問題、気にならない方がおかしいわよね。
「えっと、それは……」
 モモが口ごもっている。モモに説明は無理だから仕方がない。なので、ここは私が前に出て説明するしかない。
「大丈夫ですわ。私の魔法がありますから。私は恩恵によって魔力は膨大です。よって、すべてではないですけれど、不可能を可能にしてしまえるのです」
 私は大見得を切ってみる。
「マリー、お前な……」
 父親が呆れたように私を見てくる。まあ、そうよね、信じられるわけないわよね。なので、私はその魔法を実演してみせる事にした。
「お父様、お母様、その根拠を今からお見せしますわ」
 私は席を立ち、モモも立たせてきゅっと肩を持つ。一瞬モモの顔が赤くなった気がしたけれど、気のせいよね?
 その次の瞬間、私たちは食堂から一瞬のうちに姿を消す。
「き、消えた?!」
 当然騒ぎ出す両親たち。だけど、次の瞬間、私たちは元の位置に出現した。あまりの出来事に、両親は理解が追い付かないようである。
「私の魔法の一つで瞬間移動テレポーテーションです。これを使って領地やバッサーシ領まで移動しますのよ」
 私が披露した魔法に、両親は瞬きすらできず、口をパクパクとさせていた。いい驚きっぷりだわ。
「そんなわけですので、移動には問題がありません。それに、一瞬で移動できますので、せっかくですからお父様の代わりに領地でも見てこようと考えています。経営の勉強もこっそりしてましたので、実地訓練というわけですわ」
 私はにっこりと微笑む。
「まあ確かに、領地の事は気になるな。ここ数年は城での仕事に加えてボンジール商会の仕事も手伝っていて、戻る事すらできなかったからな」
 父親は顎を触りながら、そんな事を呟いていた。実際、父親は家に戻ってくるのも遅くなっているし、かなり仕事に追われているようだ。せっかく太り気味だった体が引き締まったというのに、このままじゃ過労で倒れてしまう可能性すらあるわね。でも、そちらは私では肩代わりできないから、どうしたものかしら。とりあえず、体調を整える魔法でも使っておくしかないかしらね。一時凌ぎだろうけど、無いよりはましだわ。
 そんなわけで、私の魔法で両親を説得した後は、気を取り直して両親からモモへと誕生日プレゼントが贈られていた。嬉しそうにするモモを見て、私もつい嬉しくなってしまう。
 さて、私からのプレゼントは、明日からの準備をしている時にでも渡しましょうかね。
 誕生日のささやかなパーティーを終えて、私とモモは部屋へと戻っていったのだった。
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