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第三章 学園編
第116話 エスカの歩み
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エスカはその日の昼、ミール王国へと戻っていった。
エスカはその馬車の中でひたすらにやにやと笑い続けており、同乗する侍女たちにドン引きをされていた。
まぁ、こうなるのも無理はないだろう。
前世で遊んだ『アンマリアの恋愛ダイエット大作戦』の攻略対象とライバル令嬢全員の姿を見られたのだから。ゲーム本編の1年目に入っているので、全員がゲームの中と同じ姿……と思いきや、ラム・マートン公爵令嬢の姿には驚かされたものである。なにせ、子豚令嬢というには痩せすぎていたのだ。それどころか筋肉があったようにも思えるくらいのナイスボディである。何があったのか不思議に思ったのだが、アンマリアとの会話の中で、辺境伯令嬢サクラ・バッサーシ直伝の筋トレを実践していた事が判明した。それは痩せて筋肉が付くはずである。
(いやまぁ、いろいろ驚かされたけれど、無理やりにでも来てよかったわ。アンマリアが転生者になっていたせいでいろいろシナリオが狂ってしまってるけれどね)
エスカは馬車の中でもたれ掛かりながら、サーロイン王国で過ごした日々を振り返っていた。
思えば、3年前に会った時からすでに何かがおかしかった。
あの時はただ兄のアーサリーを追いかけてクルスまで追いかけていった時の事だった。
そこでエスカはアンマリアたちに出会った。ハリセンをきっかけにアンマリアが前世持ちの人間である事を知ったエスカは、そのアンマリアの住むサーロイン王国に更なる興味を持ったのだった。だからこそ、自分自身もサーロイン王国の学園に通いたいと思い、父親に直談判までして留学を勝ち取ったのである。ちなみにアーサリーはそれに便乗して、しかも1年先に留学をしやがった。エスカは激怒したものである。
それはともかくとして、3年前のエスカ9歳の時にやって来たアンマリアたちは、すでにその時点で仲がよさそうだった。聞けばすでにフィレン王子とリブロ王子の婚約者が決まっており、それがアンマリアとサキの二人だと聞いて衝撃を受けたものである。
ゲーム内では王子の婚約者は最終盤まで決定する事がなかったのだ。詳しく言うと、フィレン王子ルートだと3年生の間に決まる。ヒロインで攻略を進めていけば痩せた状態のアンマリアに、そうでなければサキにフィレン王子の誕生パーティーの席で決定するのだ。ただ、アンマリアに婚約者が決定した場合は、大どんでん返し(ドーピング断罪ルート)が発生すればサキになる。
そういう知識があったからこそ、あのアンマリアたちを見た際にここの中で大絶叫をしたエスカなのだ。
そして、もう一つ驚いたのがモモの存在だった。モモはハーツ子爵家の令嬢だ。それが、あの時点でアンマリアの義理の妹という事になっていた。確かに情報を集められるだけ集めて知ってはいたものの、実際に見るとやっぱり驚いてしまうのである。確認をしてみれば、サキの家であるテトリバー男爵家に対して手を出した事で、ハーツ子爵家は取り潰しにあってしまったらしいのだ。それで、不憫に思ったアンマリアがモモ(とその侍女)を引き取ったという経緯があったとの事だった。まあ、仮にも王子の婚約者の家に手を出し、その悪事を働いていたら反逆の意思有りと取られても仕方のない事なので、はっきり言ってハーツ子爵家の自業自得である。とはいっても、それでその家の子を引き取るとは、アンマリアもお人好しが過ぎるというものである。モモもゲームの中では主要キャラに入るから、居なくなるのは耐えられなかったのかも知れない。
あれから3年が経ち、エスカはゲームの本編に関われないうっ憤から、アンマリアを真似て魔道具製作に手を出していた。初めこそ失敗しまくっていたものの、エスカもいろいろと聞きかじった作品の転生者の例に漏れず、魔力量はかなり多かった。属性こそ闇と水という2つに絞られてしまっていたけれども、それをうまく駆使していろんな魔道具を開発した。その1つがあのスマホである。闇の魔力を使って、魔力を伝播させるのだ。それによって、遠くへ声や思いなどを伝える事ができるのである。
さすがに洗礼式で闇の適性があると気が付かれた時は、国王が慌てて箝口令を敷いたくらいだ。そのくらいに闇属性の印象は悪い。だが、エスカはその闇と水の魔力を使って、いろんな魔道具を作ったのだ。
それが今では王国内あちこちに出回っている冷蔵庫や冷凍庫である。ちなみにサーロイン王国へ魚を輸送際に使っている保冷庫もその応用なのだ。普通ならば冷気属性で行う冷蔵や冷凍を、水属性に闇属性を作用させて疑似的に行えるようにしてしまったのである。前世知識もあるが、これができるのはなかなかに天才の発想なのではなかろうか。
しかし、そんなエスカをもってしても、アンマリアの魔法には度肝を抜かされた。炎の魔法を5発同時とか、体内の魔力循環を見つける方法とか、なかなか常人には至らない思考である。とはいえども、留学したらなかなか退屈しそうにないので、驚きつつも実にわくわくが止まらないエスカだった。リブロ王子の魔力循環障害の治療とか、車椅子とか、実に新しい発見がたくさんあったサーロイン王国の訪問だった。
「ふふふっ、これは来年以降は退屈しなくて済むわね」
エスカは馬車の中で楽しそうな笑みを浮かべている。
そして、エスカを乗せた馬車は、無事にミール王国の王都シャオンに戻る事ができたのだった。
エスカはその馬車の中でひたすらにやにやと笑い続けており、同乗する侍女たちにドン引きをされていた。
まぁ、こうなるのも無理はないだろう。
前世で遊んだ『アンマリアの恋愛ダイエット大作戦』の攻略対象とライバル令嬢全員の姿を見られたのだから。ゲーム本編の1年目に入っているので、全員がゲームの中と同じ姿……と思いきや、ラム・マートン公爵令嬢の姿には驚かされたものである。なにせ、子豚令嬢というには痩せすぎていたのだ。それどころか筋肉があったようにも思えるくらいのナイスボディである。何があったのか不思議に思ったのだが、アンマリアとの会話の中で、辺境伯令嬢サクラ・バッサーシ直伝の筋トレを実践していた事が判明した。それは痩せて筋肉が付くはずである。
(いやまぁ、いろいろ驚かされたけれど、無理やりにでも来てよかったわ。アンマリアが転生者になっていたせいでいろいろシナリオが狂ってしまってるけれどね)
エスカは馬車の中でもたれ掛かりながら、サーロイン王国で過ごした日々を振り返っていた。
思えば、3年前に会った時からすでに何かがおかしかった。
あの時はただ兄のアーサリーを追いかけてクルスまで追いかけていった時の事だった。
そこでエスカはアンマリアたちに出会った。ハリセンをきっかけにアンマリアが前世持ちの人間である事を知ったエスカは、そのアンマリアの住むサーロイン王国に更なる興味を持ったのだった。だからこそ、自分自身もサーロイン王国の学園に通いたいと思い、父親に直談判までして留学を勝ち取ったのである。ちなみにアーサリーはそれに便乗して、しかも1年先に留学をしやがった。エスカは激怒したものである。
それはともかくとして、3年前のエスカ9歳の時にやって来たアンマリアたちは、すでにその時点で仲がよさそうだった。聞けばすでにフィレン王子とリブロ王子の婚約者が決まっており、それがアンマリアとサキの二人だと聞いて衝撃を受けたものである。
ゲーム内では王子の婚約者は最終盤まで決定する事がなかったのだ。詳しく言うと、フィレン王子ルートだと3年生の間に決まる。ヒロインで攻略を進めていけば痩せた状態のアンマリアに、そうでなければサキにフィレン王子の誕生パーティーの席で決定するのだ。ただ、アンマリアに婚約者が決定した場合は、大どんでん返し(ドーピング断罪ルート)が発生すればサキになる。
そういう知識があったからこそ、あのアンマリアたちを見た際にここの中で大絶叫をしたエスカなのだ。
そして、もう一つ驚いたのがモモの存在だった。モモはハーツ子爵家の令嬢だ。それが、あの時点でアンマリアの義理の妹という事になっていた。確かに情報を集められるだけ集めて知ってはいたものの、実際に見るとやっぱり驚いてしまうのである。確認をしてみれば、サキの家であるテトリバー男爵家に対して手を出した事で、ハーツ子爵家は取り潰しにあってしまったらしいのだ。それで、不憫に思ったアンマリアがモモ(とその侍女)を引き取ったという経緯があったとの事だった。まあ、仮にも王子の婚約者の家に手を出し、その悪事を働いていたら反逆の意思有りと取られても仕方のない事なので、はっきり言ってハーツ子爵家の自業自得である。とはいっても、それでその家の子を引き取るとは、アンマリアもお人好しが過ぎるというものである。モモもゲームの中では主要キャラに入るから、居なくなるのは耐えられなかったのかも知れない。
あれから3年が経ち、エスカはゲームの本編に関われないうっ憤から、アンマリアを真似て魔道具製作に手を出していた。初めこそ失敗しまくっていたものの、エスカもいろいろと聞きかじった作品の転生者の例に漏れず、魔力量はかなり多かった。属性こそ闇と水という2つに絞られてしまっていたけれども、それをうまく駆使していろんな魔道具を開発した。その1つがあのスマホである。闇の魔力を使って、魔力を伝播させるのだ。それによって、遠くへ声や思いなどを伝える事ができるのである。
さすがに洗礼式で闇の適性があると気が付かれた時は、国王が慌てて箝口令を敷いたくらいだ。そのくらいに闇属性の印象は悪い。だが、エスカはその闇と水の魔力を使って、いろんな魔道具を作ったのだ。
それが今では王国内あちこちに出回っている冷蔵庫や冷凍庫である。ちなみにサーロイン王国へ魚を輸送際に使っている保冷庫もその応用なのだ。普通ならば冷気属性で行う冷蔵や冷凍を、水属性に闇属性を作用させて疑似的に行えるようにしてしまったのである。前世知識もあるが、これができるのはなかなかに天才の発想なのではなかろうか。
しかし、そんなエスカをもってしても、アンマリアの魔法には度肝を抜かされた。炎の魔法を5発同時とか、体内の魔力循環を見つける方法とか、なかなか常人には至らない思考である。とはいえども、留学したらなかなか退屈しそうにないので、驚きつつも実にわくわくが止まらないエスカだった。リブロ王子の魔力循環障害の治療とか、車椅子とか、実に新しい発見がたくさんあったサーロイン王国の訪問だった。
「ふふふっ、これは来年以降は退屈しなくて済むわね」
エスカは馬車の中で楽しそうな笑みを浮かべている。
そして、エスカを乗せた馬車は、無事にミール王国の王都シャオンに戻る事ができたのだった。
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