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第三章 学園編

第113話 予想はしていたけれど大騒ぎ

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 まあ、私の時より拍手が大きかった件はいいとして、私はダンスの終わった二人に近付く。そして、
「フィレン殿下。私とサキ様の二人から、プレゼントがございます」
 フィレン王子に声を掛ける。横では踊り終わったばかりのサキが顔を真っ赤にしている。あらあら初々しいわね。
「それは楽しみだね。何か期待してもいいのかな?」
「そこはご想像にお任せいたしますわ。ね、サキ」
「は、はい……」
 ものすごく楽しみな顔をしているフィレン王子だけれども、私は意地悪そうな顔をしているし、サキは恥ずかしそうに顔をさらに真っ赤にしている。本当にここまでうぶな子っていうのも珍しいわよね。
 それはともかくとして、私とサキはドレスのポケットから包みを取り出した。ドレスにポケットとか言ってはいるけれど、飾りの隙間にはそういうようなスペースがあるのよ。細かい事は気にしてはいけないわ。
「プレゼントとはこちらですわ、フィレン殿下」
 私はサキに視線を送る。そして、一歩ずつフィレン王子へと歩み寄る。
「お誕生日おめでとうございます、フィレン殿下」
 私たちは声を揃えてフィレン王子にその包みを渡す。二人して用意したものはそんなに嵩張るものではなかったので、こうしてこの場で直接手渡しする事ができたのだ。
「ありがとう、私は嬉しいよ」
 フィレン王子はそう言って、私たちの差し出したプレゼントを受け取ってくれた。そして、私とサキは一歩下がって、カーテシーをする。
「うむ、見事なダンスだったぞ。皆の者、アンマリアとサキにもう一度盛大な拍手を!」
 国王がそう言うと、会場からは割れんばかりの拍手が起こっていた。その拍手の大きさに、私たちはフィレン王子の顔を見た後、お互いの顔を見て心から笑っていた。
「さて、婚約者の二人がまだ中央に居るうちにもう一つ、話をさせてもらおう」
 国王がこう言うと、宰相が合図を送って会場の中を静かにさせる。しかし、一体何の話だろうかとひそひそ話がされており、完全に静かになる事はなかった。
「もう気が付いてはおろうが、第二王子リブロの事についてだ」
 国王がこう告げると、リブロ王子は車椅子を操作して前に出てくる。
「いろいろ憶測が流れておったようだが、ここで恥を忍んで打ち明けさせてもらおう」
 この国王の言葉に、どよめきが大きくなる。
「実はリブロは数年前より原因不明の病気で床に伏せっておったのだ。だが、今では見ての通り元気な顔を見せておる」
 この時、リブロ王子は軽く頭を下げていた。
「なんでもその病気は『魔力循環不全』なる病気で、体内の魔力の循環が滞る事で全身が動かなくなる病気らしい」
 その瞬間、驚きの声が会場のあちこちから聞こえてくる。そりゃ、全身を動かせなくなるとか重病すぎるから当然だろう。
「しかし、そこに居るアンマリアが、リブロの病気を快復に向かわせ、その間も動けるようにとこの車椅子なるものを作ってくれたのだ。これを感謝せずにいられるだろうか」
 国王が大きな声で言っているんだけど、正直やめて欲しい。ぶっちゃけ恥ずかしいわ。とにかく、今の私は顔を思いっきり引きつらせている。そのせいで、目の前に居るフィレン王子がすごく笑いを堪えている。うん、ここは笑うところじゃないものね。ああもう、確かにリブロ王子も居るし、ちょうどいい告白の場だと思うけれどね、私としてはやな予感しかしないのよ。せっかくサキがダンスのうまさで目立っていたのに、完全に注目が私に集まってしまったじゃないのよ。いや、サキもそんなに瞳をキラキラさせないで!
「いやはや、同時代に聖女を二人も抱えられた我が国は、非常に恵まれておる。諸君、もう一度二人に大きな拍手を送るのだ!」
 国王が叫ぶ。そして、会場からは割れんばかりの拍手が巻き起こっている。この会場の中でこの空気に飲まれていないのはミール王国の二人だけだった。アーサリーは不機嫌な顔をしているし、エスカは私同様に笑顔を引きつらせていた。うん、何これって表情ね。私も同じ気持ちよ。
「では諸君、今日は宴を楽しんでくれたまえ」
 国王はそう言って玉座に座った。
「アンマリア、囲まれる前に退出した方がよさそうだね」
「ええ、まったくですわ。国王陛下ったら何を言ってくれますのよ!」
 フィレン王子が冷静で助かった。サキも連れて私を母親の元まで移動させてくれた。ちょうどそこにはサキの両親も来ていたのでちょうどいいのである。
 リブロ王子が参加している時点でこの展開も予想はしていたけれど、国王のはやし立ては予想していなかった。私は正直混乱していたのだ。
「私がみんなを引き付けておきますので、アンマリアたちは早く会場を出ていって下さい」
「フィレン殿下、恩に着ますわ」
 私とサキはフィレン王子に頭を下げると、モモも連れて家族全員で慌てて会場を出ていった。まったく、ゆったりとパーティーを楽しみたかったのに、国王のせいでそれどころではなくなってしまった。まったく散々な一日である。
(魔法を使って負担を掛けないようにしていたけれど、フィレン殿下ったらダンスがお上手でしたわね。来年、再来年はしっかりと痩せた状態で踊りたいわね)
 私はダンスの感触を記憶に留めながら、新たな決意を胸にお城を離れて帰宅したのだった。
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