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第三章 学園編

第110話 フィレン、13歳の誕生日

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 そうこうしているうちに、フィレン王子の誕生日パーティーの日を迎える。
 一応エスカにはあの日の翌朝には謝罪をしておいたし、そのお詫びも兼ねて贈り物作りを手伝ってあげた。その際には私がトレント木材を自由自在に形を弄っていたのを見て、悲鳴のような声を上げていたわ。
 トレント木材も魔力との親和性が高いから、魔石と同じように魔力を込めてあげれば結構自由自在に形が変わるのよね。いやまぁ、椅子を倒して尻餅をついて、そのまま後退りするくらい驚かれるとは思ってなかったけれど……。
 そんな私の規格外らしい行動を見て、エスカは私の言う事にはおとなしく従ってくれるようになったわ。ただ、私を見る目が悪魔か何かを見ているような目だったのは頂けないけれどね。失礼ね、私は人間よ。
 モモもモモで、一人で一生懸命フィレン王子への贈り物を用意していた。その際には母親に対してアドバイスを求めていたようだった。義姉の婚約者への贈り物だから慎重になってくれたようで何よりね。しかし、そうやって一生懸命作った贈り物は、他のファッティ家からのお祝い品ともども、先んじて王宮へと届けられてしまった。自らの手でプレゼントできない事に、モモはちょっとだけ不満そうにしていた。とはいっても、王族への贈り物なんていうのはそういうものなのだから、モモもそれで我慢するしかないのだった。
 ついでにいうとエスカの方も単独で贈り物ができなかった。こちらはアーサリーと共同という形で贈る事になっていた。貴族社会ってそういうものなのだ。気兼ねなく相手に1対1で贈り物ができるなんていうのは、家族と婚約者と同性くらいである。
 そんなわけで、ひとまずアーサリーにエスカを押し付け……じゃなくて、合流するために私たちはアーサリーの部屋へと移動する。
「お兄様、エスカです。入ってよろしいでしょうか」
 扉をノックして中に声を掛けるエスカ。すると、
「エスカか。どうしたんだ、入ってこい」
 アーサリーから許可が下りたので、扉を開けてエスカと私たちが乱入する。
「おい、なんでアンマリアとモモまで居る」
「あら、私たちの名前を憶えて下さっていて光栄ですわ」
「その目立つ容姿とそこについて回る二人組が、記憶に残らない方がおかしい!」
 名前を呼ばれて私とモモがカーテシーをするのだけれど、まあアーサリーときたらぼろっくそに言ってくれるわね。ちょっと頭に来ましたわよ。本当にこの兄妹ときたら困ったものね。
「エスカ王女殿下はフィレン殿下に贈り物をされるようですので、ご兄妹で一緒にお渡しになって下さいな」
 私がアーサリーの暴言をスルーして事情を説明する。
「エスカ、あいつに贈り物をするだと?! 何を考えているんだ!」
 まあまあ、アーサリー王子ったら、何をそんなに怒っているのかしらね。……ははーん、これは妹から贈り物をされた事のないパターンかしらね。自分がされた事がないのに他国の王子に贈り物をするから、やきもちを焼いているのね。あらやだ、可愛いところがあるじゃないの。つい私はニヤニヤしてしまう。
「おい、アンマリア。何を笑っているんだ」
 あらやだ、ばれちゃった。
「いえ、兄妹の仲が微笑ましいなと思って、笑みがこぼれてしまったんです。気を悪くされたのなら申し訳ございません」
「ふん、妹が世話になってなければ引っ叩いたところだぞ」
「あらやだですわ。仮にも殿下の留学先国の王子の婚約者ですのよ、私。そんな事をしては国際問題になりませんこと?」
「ぐっ、言ってくれるな……」
 私、舌戦勝利。本当に短気な王子様だこと。
「それでは、エスカ王女殿下。私たちは家族と合流してきますゆえ、これにて失礼させて頂きます」
「ええ、アンマリア。世話になりました」
 私たちは互いに頭を下げ合うと、モモを連れて両親の元へと急いだ。

 一方、本日が13歳の誕生日であり、今日の主役であるフィレン王子。彼もまた支度をしながら緊張していた。
「兄上、緊張なさってらっしゃるのですか?」
 リブロ王子が声を掛ける。
「ああ、リブロか」
 フィレン王子は声に反応する。
「それにしてもリブロ。本当にお前も表に出るのか?」
 フィレン王子は車椅子姿のリブロを見ながら尋ねる。
「ええ、さすがにまるっと2年も表に出ていませんからね。確かにこの姿を見せるのは怖いですが、さすがにこれ以上姿を見せずに変な噂を立てられるよりはマシだと思いますからね」
「……確かにそうだな。根も葉もない噂で王族の権威が傷付くのはよろしくないな」
 フィレンは顎に手を添えて、少し考え込んだ。
「それに、せっかくこのような魔道具を作って下さったアンマリアにも失礼ですしね。今日は近くで兄上の誕生日を祝わせて下さい」
「ふっ、私はいい弟を持ったものだな」
 リブロ王子の言葉に、フィレン王子はつい笑みをこぼしてしまう。
 その時、扉を叩く音が響き渡る。
「誰だ」
「失礼致します、殿下。シサーでございます。国王陛下と王妃殿下がお呼びでございますので、お声掛けに参りました」
「分かった、すぐに行く」
「はっ、それではお待ちしております」
 その声の後、部屋の外には兵士が走っていく音が響き渡っていた。
「リブロ、行くとしようか」
「はい、兄上」
 フィレン王子とリブロ王子はそろって部屋を出て、国王と王妃の待つ部屋へと向かったのだった。
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