109 / 500
第三章 学園編
第109話 どちらかが欠けてもね
しおりを挟む
その後、授業が終わって学園から家に戻ってくると、私はエスカににっこりと微笑みかける。すると、その笑顔を見ただけでエスカが震え上がった。
「ぴっ!」
なんとも可愛らしい鳥の鳴き声のような声を上げるエスカだけれども、私はその反応にキレそうになった。
「モモ、先に家に入っててちょうだい。私はエスカ王女殿下と少し特訓をしてきますので」
「承知致しましたわ、お姉様」
「スーラも先に行ってて。お父様たちに軽く説明をお願い」
「畏まりました、アンマリアお嬢様」
というわけで、モモとネス、それと自分の侍女であるスーラを先に家の中へと入らせた私は、エスカを連れて庭園へとやって来た。
「さて、それじゃ魔法のお勉強を始めましょうか」
「ひっ!」
ちょっと、私が少し斜に構えて開始の宣言をしただけなのに、そんなに怖がる事ないじゃないの!
正直びびりっぱなしのエスカの状態に、私はイライラを募らせている。まあ、どっかのモンスターが使ったような火炎魔法を使えば、怖がられるのは仕方ないのかも知れない。
でも、それとこれとは別の話よ。スマホもどきを作れるくらいなんだから、エスカの魔力量は相当に多いはず。そうなると、今はまだいいけれど、いずれ暴走を起こさないとは限らない。だからこそ、早いうちに魔力の制御を身に付けておかないと大変な事になってしまうわ。だって、私だって制御に自信がないんだもの。私の場合は他の人より元々魔力が多い上に、洗礼式で判明した通り、恩恵によって魔力を無限に供給される状態になっているんだからね。
そんなわけで、他人に魔力制御を教えるというのは、自分のためにもなってくれるのだ。自分の中の魔力に向き合う事ができるのだから。
庭園の中でもひときわ広い場所で早速始める。
「まずは体内の魔力の流れを確認するところからね。これができない状態で魔法を使おうとすると、最悪魔力循環不全に陥る危険性があるからね」
「魔力循環不全?」
聞き慣れない単語なのか、エスカが首を傾げていた。
「そのままの意味よ。体内の魔力の循環が何らかの形で妨げられたり狂ったりして、体の調子を崩す病気よ。最悪魔力が固まる事によって死ぬ事だってあり得る怖い病気なのよ」
「ひぃぃっ!」
またその声を出すの?
怖い話だから非常に気持ちは分かるんだけど、さっきからびびりすぎなのよね。転生者あるあるの『調子に乗りました』なのかしらねぇ……。
「まったく、そんな事も知らないで魔法を使っていたの? ……呆れるわね」
「ううう、ごめんなさい」
エスカは縮こまりながら謝っている。本当に私の事を怖がっているようにしか見えなかった。
「うーん、そんなに怖がられるのは心外だわね。という事で、遠慮なく鍛えてあげますから、覚悟なさい」
私が背景に炎が見えそうな勢いで宣言すると、エスカは涙目になっていた。どうして……。
「はあ、そんな顔されては困ります。とにかく始めますので、両手を出して下さい」
「は、はい」
私がため息を吐きながら言うと、縮こまった状態のまま、エスカは両手を恐る恐る私の前に突き出してきた。だから、どうしてそこまで怖がり続けるのよ。
「魔法をうまく使いこなすコツは、体内の魔力の流れを感じてスムーズにする事。それと魔法を具現化するための想像力なのです。エスカは転生者だから想像力は十分でしょうけれど、それを引き出そうにも魔力がうまく扱えなければ意味はありません。分かりますか?」
私が聞くと、エスカはなんとなくという表情をしながら頷いていた。だけども、なんとなくでもいいから分かっていればヨシという事で、私は早速魔力の流れを感じ取る手伝いをする。漠然としている状態で魔力の流れを感じ取れる人間はそう多くない。大体はこうやって他人の手によって感じ取れるようになるのだ。学園のような場所ではなかなかそういう事をする余裕がない。なので、できれば入学までに済ませておくのが理想的だろう。ただ、この方法を知っている人物は少ないので、かなり多くの人物が本来の才能を発揮できずに苦しんでいるのかも知れない。エスカの相手をしながら、私はふとそんな事を思ったのだった。
「あ、アンマリア? くすぐったすぎるんですけれど?!」
「あ、これはごめんなさい」
いけないいけない。余計な事を考えて止めるのを忘れてたわ。
「……これが魔力なのね。確かに体の中で血液のように脈打っているような感覚があるわ」
「それが分かれば十分ですよ。一度試しに魔法を使ってみますか?」
私は、使うという前提で防御魔法を展開する。センマイと私とでしっかり手入れした庭なんだもの。吹き飛ばされちゃったら泣きたくても泣けないわ。
「水よ渦巻け! スプレッド!」
エスカは頷くよりも前に魔法をぶっ放していた。私は呆れて物が言えないわ……。
バッシャーンと撒き散らかる水に、私は鬼のお説教モードに入ったのだった。
その後のエスカはずっと涙目だったのだけれども、正直言って調子に乗ったエスカが悪い。私は結局、その日はエスカとまったく口を利かなかったのだった。
「ぴっ!」
なんとも可愛らしい鳥の鳴き声のような声を上げるエスカだけれども、私はその反応にキレそうになった。
「モモ、先に家に入っててちょうだい。私はエスカ王女殿下と少し特訓をしてきますので」
「承知致しましたわ、お姉様」
「スーラも先に行ってて。お父様たちに軽く説明をお願い」
「畏まりました、アンマリアお嬢様」
というわけで、モモとネス、それと自分の侍女であるスーラを先に家の中へと入らせた私は、エスカを連れて庭園へとやって来た。
「さて、それじゃ魔法のお勉強を始めましょうか」
「ひっ!」
ちょっと、私が少し斜に構えて開始の宣言をしただけなのに、そんなに怖がる事ないじゃないの!
正直びびりっぱなしのエスカの状態に、私はイライラを募らせている。まあ、どっかのモンスターが使ったような火炎魔法を使えば、怖がられるのは仕方ないのかも知れない。
でも、それとこれとは別の話よ。スマホもどきを作れるくらいなんだから、エスカの魔力量は相当に多いはず。そうなると、今はまだいいけれど、いずれ暴走を起こさないとは限らない。だからこそ、早いうちに魔力の制御を身に付けておかないと大変な事になってしまうわ。だって、私だって制御に自信がないんだもの。私の場合は他の人より元々魔力が多い上に、洗礼式で判明した通り、恩恵によって魔力を無限に供給される状態になっているんだからね。
そんなわけで、他人に魔力制御を教えるというのは、自分のためにもなってくれるのだ。自分の中の魔力に向き合う事ができるのだから。
庭園の中でもひときわ広い場所で早速始める。
「まずは体内の魔力の流れを確認するところからね。これができない状態で魔法を使おうとすると、最悪魔力循環不全に陥る危険性があるからね」
「魔力循環不全?」
聞き慣れない単語なのか、エスカが首を傾げていた。
「そのままの意味よ。体内の魔力の循環が何らかの形で妨げられたり狂ったりして、体の調子を崩す病気よ。最悪魔力が固まる事によって死ぬ事だってあり得る怖い病気なのよ」
「ひぃぃっ!」
またその声を出すの?
怖い話だから非常に気持ちは分かるんだけど、さっきからびびりすぎなのよね。転生者あるあるの『調子に乗りました』なのかしらねぇ……。
「まったく、そんな事も知らないで魔法を使っていたの? ……呆れるわね」
「ううう、ごめんなさい」
エスカは縮こまりながら謝っている。本当に私の事を怖がっているようにしか見えなかった。
「うーん、そんなに怖がられるのは心外だわね。という事で、遠慮なく鍛えてあげますから、覚悟なさい」
私が背景に炎が見えそうな勢いで宣言すると、エスカは涙目になっていた。どうして……。
「はあ、そんな顔されては困ります。とにかく始めますので、両手を出して下さい」
「は、はい」
私がため息を吐きながら言うと、縮こまった状態のまま、エスカは両手を恐る恐る私の前に突き出してきた。だから、どうしてそこまで怖がり続けるのよ。
「魔法をうまく使いこなすコツは、体内の魔力の流れを感じてスムーズにする事。それと魔法を具現化するための想像力なのです。エスカは転生者だから想像力は十分でしょうけれど、それを引き出そうにも魔力がうまく扱えなければ意味はありません。分かりますか?」
私が聞くと、エスカはなんとなくという表情をしながら頷いていた。だけども、なんとなくでもいいから分かっていればヨシという事で、私は早速魔力の流れを感じ取る手伝いをする。漠然としている状態で魔力の流れを感じ取れる人間はそう多くない。大体はこうやって他人の手によって感じ取れるようになるのだ。学園のような場所ではなかなかそういう事をする余裕がない。なので、できれば入学までに済ませておくのが理想的だろう。ただ、この方法を知っている人物は少ないので、かなり多くの人物が本来の才能を発揮できずに苦しんでいるのかも知れない。エスカの相手をしながら、私はふとそんな事を思ったのだった。
「あ、アンマリア? くすぐったすぎるんですけれど?!」
「あ、これはごめんなさい」
いけないいけない。余計な事を考えて止めるのを忘れてたわ。
「……これが魔力なのね。確かに体の中で血液のように脈打っているような感覚があるわ」
「それが分かれば十分ですよ。一度試しに魔法を使ってみますか?」
私は、使うという前提で防御魔法を展開する。センマイと私とでしっかり手入れした庭なんだもの。吹き飛ばされちゃったら泣きたくても泣けないわ。
「水よ渦巻け! スプレッド!」
エスカは頷くよりも前に魔法をぶっ放していた。私は呆れて物が言えないわ……。
バッシャーンと撒き散らかる水に、私は鬼のお説教モードに入ったのだった。
その後のエスカはずっと涙目だったのだけれども、正直言って調子に乗ったエスカが悪い。私は結局、その日はエスカとまったく口を利かなかったのだった。
7
お気に入りに追加
264
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?
tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」
「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」
子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。
転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています
平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。
生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。
絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。
しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………
naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話………
でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ?
まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら?
少女はパタンッと本を閉じる。
そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて──
アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな!
くははははっ!!!
静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~
白金ひよこ
恋愛
熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!
しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!
物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる