上 下
103 / 500
第三章 学園編

第103話 できる事とできない事

しおりを挟む
「モモ、入っていいかしら」
 私はモモの部屋の扉をノックして声を掛ける。
「お姉様、ええ構いませんよ」
 中から返事があった。うん、モモは真っすぐ部屋に戻っていたようだ。とりあえず返事が聞けたので、私はモモの部屋へと入っていく。
 よく思えば、モモの部屋に入った記憶がなかった。基本的には不干渉だし、食事の時の会話だけで十分な上に、モモはよく私の部屋へやって来ていた。だから、私がモモの部屋に出向く必要がなかったのだった。
 そうやって初めて入ったモモの部屋。普段の様子からすると想像できないくらいに、飾り立てる事もなくまとまって落ち着いた部屋になっていた。うん、よくある義理の腹黒妹とは明らかに違った感じの部屋である。にしても、他人の事を言えた義理ではないが、令嬢としてこの飾り気のなさは正直どうかと思う。ま、他人の事は言えないけれど。
「モモ、さっきはちょっときつく言い過ぎたわね。でも、これは大事な事よ。個人としての贈り物をする際には、相手とタイミングを見極める事が重要よ。ただでさえ娯楽が少ない貴族なんですから、人の噂話にはすぐに飛びつきますわよ」
「はい、お姉様。申し訳ありませんでした。気を付けます」
 私の言葉を受けて、素直に謝罪をするモモ。やっぱり思い過ごしかしらね。
 しかし、どうにもさっきの様子が引っ掛かる私は、モモの様子を見ながら隠しカメラを仕掛けるタイミングと場所を探す。ちなみにこの隠しカメラ、魔石に光魔法と風魔法をちょちょいっと作用させて完成させた。闇魔法も組み合わせれば録画保存だってできるのだ。ホント、魔法って便利よね。まあ、こんな事ができるのも、私の前世知識があってこそなんだけど。イメージができるから、魔法を思うように操れるのだ。
「とはいえども、私に相談をしてくれたのは嬉しいわ。あとでお父様たちとも相談しましょう。日数はもうないけれど、(反則的な私の魔法で)まだ間に合うと思うから」
「はい、お姉様」
 私がモモを慰めていると、モモは軽く拳を握って、私の方を見ながら笑顔を見せてくれた。やっぱり可愛いわ。姉バカと言われようとも、この笑顔は守りたいわね。
 っと、忘れちゃいけない隠しカメラの設置。可愛い妹とはいえども、一度浮かんだ疑惑の払拭は難しいのよ。こんな姉を許してちょうだいね。
「それにしても、モモの部屋って思ったよりも簡素な飾りつけなのね。てっきり可愛く飾り付けてるかと思ったわ」
 私は部屋を見回る振りをして、ベッド横の台に隠しカメラを魔法で取り付ける。同化させてので、相当の魔法感知能力が無ければ見つけるのはほぼ不可能だ。私の反則的な魔力だからこそできる、規格外の魔法なのである。
「はい。私の元の両親のせいでテトリバー男爵家には迷惑をお掛けしましたし、ファッティ伯爵家に引き取られた手前、わがままなどすべきではないと思っています。なので、飾りつけも極力しないようにしたんです。自分が傲慢にならないためにも」
 私の疑問に、思いつめた表情で答えるモモ。その考えは実に律儀で謙虚だった。やっぱり、私の勘違いだったのだろうか。
 それでも、『傲慢にならないために』という単語が引っ掛かった。普通ならそんなに気にはならないかも知れないだろうけれど、こういうところは無駄に前世知識が邪魔をしてくるのである。前世知識っていうのは良いようにも悪いようにも作用するのだ。
(とりあえずは、隠しカメラでしばらく監視ね。モモが転生者じゃなくて、ただの素直な子である事を祈るばかりだわ)
 私はそう思いながら、すっとモモの腕で包み込んだ。自分が太っているせいで、背中にうまく手が回らないけれど、モモは驚きながらも安心したような表情を見せてくれたのでとりあえずヨシ!
「では、そろそろ夕食の時間ですから、食堂に向かいましょうか」
「はい、お姉様」
 私たちは手を取り合って、にこやかに食堂へ向かう事にしたのだった。
 夕食の席では、私はフィレン王子への誕生日の贈り物について、両親と相談をした。モモが贈りたがっているので、家族連名での贈り物をしてはどうかという話だ。すると、両親は私と同じような事を言っていた。やっぱり、令嬢が単独で殿方に贈り物をするのは、婚約者以外へは避けた方がいいという意見だった。
「やはり、お父様とお母様もそう思われますわよね?」
「うむ。さすがに殿下が相手とあれば構わないかも知れないが、やはりここは無難に家族連名で贈っておく方がいいだろう。ただ、贈り物の内容に関しては個人的なものを反映させられる。家族連名とはいっても、何も贈るのはひとつとは限らないからね」
 さすがは大臣たる父親。それは盲点だったわ。そうよ、複数個をまとめて一家族からの贈り物として贈る事も可能なのだわ。これでごまかしが効くというものである。父親の言葉にモモも安心したような表情を見せていた。
「でも、さすがにもう1週間を切っているから、手の込んだ物の用意はできないと思うよ。明日にでも商店に出向くとしようか」
 そんなわけで、モモもプレゼントを用意できる事になって、その日の夕食は賑やかな雰囲気となったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?

tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」 「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」 子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています

如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」 何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。 しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。 様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。 この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが…… 男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

処理中です...