上 下
97 / 500
第三章 学園編

第97話 転生者は不用意です

しおりを挟む
 魔石剣は見事に国王からも禁止令が出てしまい、私は護身用の武器すら作れなくなってしまった。そのショックに呆然としながら、私は家へと戻ってきた。
 国王に言われてからの私はショックで放心していたのだけれど、サクラが一生懸命励ましてくれていた。立派な剣を贈ってくれたお礼なのだろう。
 ちなみにこの席では、リブロに会っていくかどうかという事を聞かれたような気がしたのだけれど、魔石剣を禁止されたショックが大きすぎて、まったくその辺りの事を覚えていない。それくらいに私は大いに傷付いたのだ。どうやって家まで戻ってきたのすら覚えていない。多分、王家の馬車に乗せられてきたんだと思うけど、私は何も覚えていなかった。
 その数日後の事、学園に登校した私のところに、フィレン王子がやって来た。そして、お昼休みになるとモモとサキも呼び寄せて、フィレン王子が話を始めた。
「ミール王国から手紙が届いた。この分だと、こちらから手紙を出す頃には向こうからも手紙を出していたのだろう」
 フィレン王子が何を言っているのか分からないかも知れないが、これは2週間後に迫ったフィレン王子の誕生日の話である。どうやら、ほぼ1週間くらい前、つまりサクラ(とその父親)の誕生日パーティーがあった日あたりに、エスカ王女宛てに招待状を出したらしい。国王の誕生日ではないので、ミール王国の国王夫妻への招待状は見送られたのだけれども、エスカ王女はこちらの学園に通う意欲があるという事が、兄であるアーサリー王子から散々伝えられていたのだ。だからこそ、一度王国の雰囲気を味わってもらうために、ご足労頂くという事で招待状を出したらしい。
 ところが、その招待状が届くだろう頃に、向こうから参加の意思を示した手紙が届いたらしいのだ。
(あー、エスカもこのゲームやり込んでたみたいな事言ってたものね。だったらフィレン殿下の誕生日を把握していても不思議じゃないか。去年までは何もなかったのは、多分ゲーム開始前だったからでしょうね)
 私は半ば呆れたような顔でそんな風に考えていた。
「国同士の関わりがある以上、王族の誕生日を把握していてもおかしくはないだろうけれど、去年までは私やリブロの誕生日に対して何も行動を起こしてなかった。さすがにこれは、父上たちも怪しんでいる。なにせ、私たちの誕生日の事は、一切外部に漏らした事はないのだからな。国内向けには貴族や商人に対して招待状を送らせてもらってはいるが、商人が漏らすとも考えにくい」
 ずいぶんと話すフィレン王子。これは結構フィレン王子から嫌われたぞ、エスカ。
「ですよね。いくらスマホ……、通信の魔道具があるからといっても、そんな簡単に漏らすわけがないですし。どこから情報がいったのやら……」
 私もエスカにはフィレン王子の誕生日は話した事がない。普通に考えれば知っているわけがない。
「ですが、フィレン殿下。アーサリー殿下には確認はされましたか? 手紙くらいのやり取りはしているはずですし、その線はなくはないですか?」
 私は考えうる原因をあえてぶつけてみる。しかし、フィレン王子は首を横に振った。
「いくら彼でも、その話はしていない。私の誕生日パーティーはあくまで国内だけの話だ。よって、アーサリーの線もあり得ない」
 私の推理は真っ向から否定された。うん、これはやっちまったなぁ。エスカ、好感度最悪よ。
「まあどうであれ、誕生日パーティーに出てきた時に話を聞いてみるつもりだ。どこから仕入れた情報か、しっかり吐かせてやる」
 あー、これは拷問ルートね。まったく、不用意な事をやらかすのはこういう転生ものでよく見た光景ね……。同郷のよしみとしてフォローしてあげたいけれど、これはどこまで助けられるかしら。下手をすると私まで間者の疑いが掛けられてしまうわ。
 私は正直、頭を抱えた。
 しばらく考えて出した結論。それは……。
「フィレン殿下」
「なんだ、アンマリア」
「私からお話があります。放課後、お城に伺ってもよろしいでしょうか」
 私は、必死にフィレン王子に頼み込む。下手をすると国家間の問題になりそうなので、私はやむを得ず動く事にしたのだ。これまでもとんでも発明をいろいろしているだろうし、多少の突拍子な話でも説得力を持つはずだ。
 あまりにも私が食い下がるので、フィレン王子は根負けをして私が登城する事を許可してくれた。
「できれば、国王陛下にも同席して頂く存じます。それも構いませんか?」
「ああ、それなら父上の執務室に突撃するから大丈夫だろう」
 突撃って……。フィレン王子もずいぶんと過激な言葉を使ってくれる。
「ありがとうございます、フィレン殿下」
 私はくすっとしながらも、頭を下げる。体格のせいでよくは曲がらないけれど、十分頭下がってるわよね?
 モモとサキはこの光景に、なんで自分たちが同席しているのか分からずにぽかんとしていた。婚約者とその家族というだけで呼ばれたんだろうけど、今の二人の気持ちは分かるわよ。
 よく分からないうちに話がまとまったようなので、食事を終えた私たちは普通に午後の授業を受けたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?

tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」 「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」 子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています

如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」 何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。 しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。 様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。 この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが…… 男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。

処理中です...