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第三章 学園編

第87話 治療するなら徹底的に

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 その日の授業を終えると、教室の外からバタバタと走ってくる音が聞こえてきた。まったく慌ただしい足音だこと、一体誰なのかしら。
「アンマリア!」
 バンと扉が開いて飛び込んできたのは、フィレン王子だった。これは予想外だわ。
「よかった、モモとサキも居るな。すぐ城に来てくれ」
 ……はあ?
 急なフィレン王子の話に、私は思考が一瞬固まった。とはいえども、王子の申し出を断れないし、断る理由も特にないので、よく分からないけれども私たちはフィレン王子と同行する事となった。
 そうやってフィレン王子に連れられてやってきたのは、リブロ王子の部屋だった。
「おい、リブロ。入っていいか?」
「あ、兄上。……構いませんよ」
 中からリブロ王子の返事があったので、フィレン王子はドアを開けて中に入る。
 声を聞いた感じは元気そうだが、1週間程度でここまで回復するだろうか。ともかく、私たちもフィレン王子に続いて部屋へと踏み入れた。
「あ、アンマリア。こんにちは」
 ベッドには上体を起こして本を読むリブロ王子の姿があった。本を読んでいるという事は、腕は動くようになったという事なのだろう。
 ……いくらなんでも回復早すぎない?
「アンマリアに教えてもらった魔力循環の回復する術が、うまく効いているようなんだ。それに私たちは兄弟であるからか相性が良かったようだ。力はまだ入らないようだけれど、読書ができる程度には手の力が回復してきている」
 確かに、リブロ王子の手はゆっくりではあるもののちゃんと動かせている。ただ、指はまだ動かないのか、本のページをめくる動作はかなり慎重になっていた。
 しかし、ベッドからはまだ立ち上がれないという事は、脚の方の回復はまだまだできていないという事なのだろう。まあ、食事などを考えると、先に腕の方を回復させるのは当然といえばそうなのかも知れない。
 私はちらりとサキの方を見る。モモは知っているとはいっても、やはりサキ同様に驚きを隠せないようだった。
「なるほど、アンマリア様が私に魔法の手解きをされたのは、こういう背景があったのですね」
 サキは結構すんなりと事情を理解したようである。婚約者だというのに蚊帳の外に放り出されていたけれど、怒っている様子はなかった。言えない理由が察されたからだ。
「ごめんなさいね。お二人から口止めされてましたので、同じ婚約者の立場ながらにお教えできなかったのです」
 私はサキに謝罪しておく。しかし、サキの方は事情が理解できているので、特に責め立てはしてこなかった。それどころか、リブロ王子に近付いていった。
「失礼致します、リブロ殿下」
 軽くスカートの裾をつまんでお辞儀をすると、サキはリブロ王子の方を見る。
「私に今少し、殿下に触れる許可を頂きたく存じます。アンマリア様に教えて頂いた事の、実践をしてみたいと思います」
「魔力循環の治癒、ですね」
 サキの言葉に、私はちょっと付け足した。ここしばらく重点的に教えていた事だ。それゆえにサキの行動はすぐに理解できたのだ。
 サキの行動は許可されたので、早速サキはリブロ王子の両手を手に取った。慎重に魔力を感じ取りながら、リブロ王子の中へ自分の魔力を流していく。
「……ずいぶんと、流れが固まっていますね。どうしてこんな事になってしまったのでしょうか」
 サキはリブロ王子の魔力の流れの悪さに驚いていた。
 本当に、第二王子とはいえ一国の王子がこんな状態に陥ってしまったというのは、一体何があったのか疑問に思うところである。
「……誰のせいでもありませんよ。兄上に比べて劣っている自分が悪かったんです。その劣等感のせいでこんなになってしまって、これでは王子としては失格ですね……」
 リブロ王子はずいぶんと寂しそうに呟いていた。
 リブロの言い分に、私はなんとなくこの魔力循環不全が起きた理由が分かった。ぶっちゃけてしまえば、一種の自殺行為だ。劣等感に苛まれて精神を壊し、それによって魔力循環を狂わせる。あり得ない話ではなかった。
 しかしだ。私にしてみればその後の対応の方が問題だっただろう。なんでここまでおかしくなるまで放置していたのか。精神的に参るなんていう事はそれなりに起こりうる話だし、早めにカウンセリングとかしておけば、ここまで酷い状態にはならなかったはずだもの。
 ……まあ、私も同罪っちゃ同罪よね。だって、婚約者だっていうのにリブロ王子にまったく会わなかったんだもの。だからこそ、私は贖罪も込めて、魔力循環不全の治療に車椅子の開発をしたんだからね。あとはリハビリ設備かしらね。これならまともに歩けるようになるまではずいぶんかかるし、魔力で足を動かすにしても、繊細な魔力操作が必要だものね。
 そう考えた私は、早速行動に出る。善は急げよ。
「サキ様、しばらく殿下たちの事は頼みましたわよ」
「えっえっ、アンマリア様?!」
 サキから困惑した声が聞こえてくる。
 そうやって場が戸惑う中、私は収納空間から何やらいろいろなものを取り出し始めたのだった。
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