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第三章 学園編

第86話 今しかない日々

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 途中で夕食を挟んで魔石に魔力を込めた私は、翌朝、ボンジール商会に魔石を送り返しておいた。これで助かる人たちが居るのなら、それはそれで喜ばしい事なのだから。
 魔石100個に魔力を込める作業は大変だったけれど、学園に向かった私は普通に元気だった。モモにちょっと心配はされたけれどね。
 それにしても、ゲームにおける攻略対象とは本当に不思議なくらい絡まない。攻略対象のうち、タカーだけは同じ魔法系のクラスなのだけれども、まったく顔を合わせなかった。むしろ避けられている感じすら覚える。おかしいわねぇ、こっちにはモモだって居るのに。私に会いに来る攻略対象は、実にフィレン王子だけだったのだ。
 この日のお昼は魔法系のライバル令嬢たちと集まってわいわいと話をしている。
「アンマリア様。ずいぶんと商会の事業はうまくいってらっしゃるようですわね」
 そう話してきたのはラムだった。ゲームとは違いすっかり痩せているラムなので、きっとエスカなんかは見たら「誰?」って思うでしょうね。それにしても、痩せたラムの体型は、実に羨むレベルの見事な体形だった。ボンキュッボンってやつよね。さすがは公爵令嬢、涙ぐましい努力があったのでしょうね。
「ええ、皆様のご協力のおかげです。最近は魔石ペンもようやく私以外でも作れるようになってきましたから、これで学業に専念できるというものです」
 ラムの言葉に私はそう答える。
「コンロとか暖房とか照明器具は本当に助かっています。毎回ろうそくに火を灯さなくて済みますし、火災の危険性が減りましたものね」
「喜んで頂けて幸いですわ」
「私も、お役に立てたようで嬉しいです」
 サキも両手を合わせて嬉しそうに話している。テトリバー男爵家はそもそもかなり経済が火の車だったのだけれども、本当に私の施しもあってかなり持ち直してきた。
 コンロや暖房の試作品の多くは、モモに魔力を込めてもらっていた。だからこそのモモの反応なのである。
 こうやって会話をしていると、ゲームの中ではライバル関係にあったというのが嘘のような間柄になっている。まあ、ゲームの中でも他の一般的なものとは違ってそこまで血みどろな争いになる事はなかったのだけれどね。そういう意味ではラノベ界隈で見る乙女ゲームとは結構一線を画していたゲームなのである。
 とはいえ、主人公であるアンマリアの行動次第ではどうとでもライバル令嬢との間柄は変化してしまう。堂々と宣戦布告をされて学業で競うというのもあったかしらね。どっちが多く魔物を倒すかとか、テストの点数はどっちが上かとか。うん、不思議なくらいに嫌がらせらしきものはなかったわね。そうはいっても、婚約者を横取りするっていう展開自体は高確率で設定されていたので、その点ではなかなかに主人公アンマリアは嫌な人間ではあったかも知れないわね。
 ま、今の私には関係ないけれどね!
 ゲームとは違って、すでに王子のどちらかと結婚する事が内定している状態なのだ。なので、婚約者を巡って他人と血みどろな展開になる危険性はほとんどない。あるとしたらそれは外部要因だけだろう。そういう意味では、ミール王国の王女であるエスカも十分警戒対象になっちゃうけれどね。同じ転生者だから聞き分けはあるとは思うけれど、ちょっと不安になる。何と言ってもよその国で生まれたわけだから、まさか乙女ゲームの世界だなんて思ってなかったでしょうし、知ったからにはなんて事も十分考えられるのよ。ああ、考えていると胃が痛くなってくるわ……。
 そんな感じでいろいろな事を考えながらも、私はライバル令嬢たちと楽しく会話をしてお昼を過ごしたのだった。
 いやまぁ、本当に私以外はすらっとした見事なプロポーションの持ち主ばかりで、私の太り具合が本当に目立つ。それでもみんなは私の事を慕ってくれているので、こんなに嬉しい事はないというものである。
 こんな日々が続いて欲しいなとは思うものの、学園を卒業すれば王子たちの婚約者として王妃教育が本格的にスタートする。今でこそ週に2回と緩めではあるものの、卒業すれば確実に毎日になる。とても今まで通りとはいかなくなってしまうのだ。だからこそ、私は今の日々を精一杯楽しむ事と決意しているのである。
 食事と会話を楽しんでいたかったのだけれども、無情にも昼休みの終わりを告げる鐘が鳴り響く。
「それでは、次の授業の準備のために移動しましょうか」
「そうですわね。授業に遅刻だなんてできませんものね」
 すくっと立ち上がった私たちは、教室に向けて歩き出す。
 本当にのんびりとした平和な日々である。できる事ならば、本当に面倒な事件なんて起こらずに、このまま平穏に学生時代を送りたいものである。私は切にそう願ったのだった。
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