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第三章 学園編

第84話 聖女育成計画

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 翌日、学園に登校した私たちの前に、フィレン王子が現れた。なんで登校時間がかぶってるんですかね。
「やあ、おはよう。アンマリア、モモ」
「あら、おはようございます、フィレン殿下」
「お、お、おはようございます、殿下」
 笑顔で挨拶をしてくるフィレン王子に、私は普通に、モモは慌てふためいて挨拶を返す。
「フィレン殿下、リブロ殿下の様子はいかがでしょうか」
「ああ、だいぶ良くなったよ。君が贈ってくれた車椅子のおかげで、希望が持てたようだからね。まだやせ細ってはいるけれど、魔力循環の回復に一生懸命取り組んでくれているよ」
 私の問い掛けに、フィレン王子はあっさりと答えてくれた。まあ、話している内容が内容なので、人気のない場所での会話にはなるけれど。
「それを聞いて安心しました。いずれ自力で出回れるようになるとよろしいですね」
 私は盛大に喜びたいところだけれども、自分の体重を思えば振動でとんでもない事になりかねないので自重した。
 ちなみにだけれど、ようやく体重が1kg減っていたのよ。119kgよ、119kg!
 この世界に転生してから初めて体重が減少に転じたんだから、嬉しくて仕方ないわ。
 とりあえず、大喜びをしたい気持ちを抑えて、私は淡々とフィレン王子の相手をしておいた。
「気持ちが上向いた事は実に喜ばしいですわね。ですが、私もやる事は多いですので、また気になる事がありましたらお声掛け下さいませ」
「ああ、そうさせてもらうよ。とにかく、弟の事で世話になった、ありがとう」
 簡単に言葉を交わすと、私たちは教室へと向かったのだった。
 さて、リブロ王子の経過はしばらく様子見として、サキの事もちょっと鍛えますかね。そう思った私は、サキの姿を見つけたので声を掛けてみる。
「あら、アンマリア様。いかがなさいましたか?」
 サキが反応して振り返る。男爵家の令嬢とはいっても、すっかり他の令嬢とも見劣りしないくらいには立派な令嬢になったものである。王子の婚約者としての自覚が出てきているのだろう。
「ええ、あなたの魔力をちょっと鍛えようかと思いましてね。私と比べるとサキ様はちょっと見劣りしてしまいますので、周りから変な声が出ないようにしたいと思いますのよ」
「まあ確かに、アンマリア様は魔法が素晴らしいですし、事業展開までされていますものね。私も時々悩んでしまいます」
 反発してくるかと思ったけれど、意外と謙虚だった。小さい時から仲良くしておいたのは功を奏しているようである。
「でも、サキ様の光の魔力は私よりも優れておりますわ。ですが、今のままでは宝の持ち腐れになる可能性もございますので、もう少し知識を付けておくといいかと思います」
 私はあまり刺激しないように言葉を選びながらサキに話し掛ける。私にこう言われたサキは、何か悩むように考え始めてしまった。
「確かにそうですね。私は貧乏な男爵家だったがために、あまり教養がないとは言われた事があります。アンマリア様、どうぞよろしくお願い致します」
 予想外にすんなりとサキは、私に教えを請ってきた。こうなれば当然、私は突き放すつもりなんかないわよ。ええ、誰もが羨む聖女にしてあげようじゃないの。私のやる気に火が付いた。
 でもまぁ、今はまだ授業があるし、全部終わった放課後にでも見てあげようかしらね。
 というわけで、放課後にサキの魔法の面倒を見ると約束して、私たちは授業へと向かった。

 そして、放課後を迎える。私は教師に演習場の使用許可をもらって、サキを連れて向かった。
「さあ、ここなら多少魔法を暴発させても大丈夫ですわ。始めますわよ」
「はい、お願いします」
 元気のいいサキの返事で、私による特訓が始まった。
「まずは、魔力循環をしっかり覚えてもらいましょうかね。相手の体内の魔力の流れを感知できるようになるのは、上位の治癒魔法を使う上で大切ですわよ」
 軽い怪我を治すだけの魔法であれば、魔力循環はあまり関係ない。しかし、魔力循環不全のような病気はもちろん、それこそ体が大きく傷付いた時などには、この魔力循環の把握は重要になってくる。下手に欠損部位の復元をしようものなら、ただの肉塊の復元にしかならず、すぐに動かす事ができないからだ。
 ちなみに筋力の衰えは魔力循環の衰えにもつながるし、また逆もしかりなのだ。暇を見つけて読んだ本にはそんな事が書いてあった。まあ眉唾な話だとは思ったのだけれど、先日のリブロ王子の一件のせいで真実味を帯びてしまったのだ。魔力循環を回復させた部分は、間違いなく機能が回復していたし、ほぼ間違いないといっても過言ではないと思う。
「自分の中の魔力の流れは分かるかしら」
「はいっ、体内をぐるぐると巡っているのを感じます」
「そう、それが魔力循環よ。それを知っているのと知らないのとでは、治癒効果に大きな違いが出ますから、しっかり感じ取れるようになりなさい」
「はいっ!」
 私が説明すると、サキからは元気のいい返事があった。
 とりあえず、初日はこれでおしまい。魔力の循環を事細かに感じ取れるようにしただけで、もう日が暮れ始めてしまった。これ以上遅くなると父親たちに怒られてしまうものね。
「サキ様は筋がよろしいですわ。これならば、きっとあらゆる回復魔法を使いこなせてしまうでしょうね」
「そ、そんな事、ありませんよ……」
 満足げに話す私に対して、サキはどこまでも謙遜だった。
 私はサキの才能に楽しみを覚えてしまったのだった。きっと、後世に名を遺す聖女になれると。
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