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第三章 学園編
第81話 試運転ですわよ
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さて、問題はこの車椅子を王城へ持って行くかである。なにぶん普通の椅子であるので大きいし、城に持ち込むのも大変そうだ。
それに、この車椅子がちゃんと動くかというのも問題である。魔法を込めたとはいえども、ちゃんと使えるものであるかというのはまた別の問題なのである。
「ギーモさん、これと同じ椅子は他におありで?」
「それは、ございますとも」
私が尋ねれば、ギーモはもう一脚出してくれた。そちらは大した飾りもない質素なもので、見るからに試作品と言えるような状態だった。
「こちらは、本品を作るために試作的に組み上げたものになります。なにぶん初めて見るものでしたので、一度試しに作ってみないとという事で作った物でございます」
ギーモはそう説明していた。なるほど、製品を作るためのプロトタイプというわけである。だけども、私としてはこれは実に助かるというものだった。
「モモ、ちょっと試してもらえないかしら」
「えっ、お姉様?」
私が声を掛けると、モモは体をびくっとはねさせて戸惑っていた。
「アンマリアお嬢様、それでしたら私が……。モモお嬢様には無理はさせられませんから」
見かねたスーラが申し出てきた。まあ、私としては実験ができればいいから別に構わないか。
というわけで、私は収納魔法から袋を取り出した。
「スーラ、そっちの簡素な試作品の方を使って、車椅子の試運転を行いたいの。まずは左右の椅子の手すりにあるくぼみに、この石をはめ込んでくれないかしら」
「承知致しました。……これは面白い魔石ですね」
スーラは私から魔石を受け取ると、不敵に微笑んでいた。なかなか見ない侍女の顔に、私は一瞬息を飲んだ。
スーラが椅子の手すりに魔石をはめ込み、そして椅子に座る。
「まず、何も考えないで魔石に魔力を流してちょうだい」
私がそう言うと、スーラはそれに従って魔力を流す。そうすると、椅子は地面から10cmほど浮き上がった。この10cmというのは標準の高さであり、魔力を追加すれば高さを調節できるようになっている。
「すごい、椅子が浮いているわ」
ものすごくスーラが感動している。
「私が試せればよかったんだけど、見ての通りの体型だから椅子に座れなくて、本当にごめんなさいね」
「いえ、アンマリアお嬢様。私は今、猛烈に感動しています」
この世界には空を飛ぶという概念がなかったのだろうか。椅子に座っているとはいえど、宙に浮いている事に感動をしているようである。スーラの目が輝いているのがよく分かる。
「おほん、ではスーラ、魔石に手を置いたまま、動きたい方向を念じてもらえるかしら。魔石に込めた魔法が正常なら、ちゃんと動けるはずですから」
「畏まりました、アンマリアお嬢様」
こくりと頷いたスーラは、私やモモ、それにモモの侍女とギーモが見守る中、試作品の車椅子を操縦する。
魔石に込めた魔法の通りなら、指定しないならひとの歩行速度より少し遅いくらいに車椅子は前後に動くはずである。これも込める魔力量によって速度は変わるようにしてあるけれども、私はあえてそこは説明していない。
「すごい、まるで自分の足で歩いているように移動できますね。左右への旋回もスムーズです」
予想以上にちゃんと動いている。スーラもそこそこ魔法の扱いに慣れているので、問題はなさそうだった。
「では、モモの侍女さんもいかがでしょうか」
私は話をモモの侍女に振る。そういえば、彼女の名前って何て言ったかしら。
「む、無茶はしないで下さいね、ネス」
「はい、モモお嬢様」
あ、ネスって言うのね。モモが太もも由来の名前だから、その下の脛ってわけね。なんて名前なのよ。
……と思ったけれど、自分の侍女の名前はスライス、薄切り肉由来だったわね。なんて飯テロなネーミングなのかしら……。
それはともかくとして、モモの侍女であるネスはスーラと交代して椅子に座る。本人に少しでも魔力があれば扱えるようにしてあるから、彼女の魔力が大した事なくても問題ないはず。私は息を飲んでその様子を見守った。
結論から言えば、まったく問題なかった。直前にスーラが操っていたというのもあるけれど、ネスもそれは巧みに車椅子を操作していた。うちの侍女たちは素晴らしいわね。
「お姉様、これを一体どうなさるおつもりなのですか?」
モモが私に車椅子を作った意図を尋ねてきた。いや、侍女たちに動かさせたのを見ても分からないものかしらね。
「それはね、足の動かない人でも自由に出歩いてもらうためよ。魔力はほとんどみんなに備わっているものだから、魔力さえあれば自由に動き回る事ができるの。素晴らしいと思わない?」
「ええ、実に素晴らしい事だと思います」
私の説明に間髪入れずに反応するスーラ。ちょっと、今はモモに話し掛けてるんですけど?
「なるほど、そういうわけなのですね。素晴らしいですわ、お姉様」
モモが私の両手を持ってぶんぶんと上下させている。可愛いわねぇ。私は優しい微笑みで、黙ってモモの頭を撫でておく。それに対してモモは顔をふにゃっとさせて喜んでいた。
さあ、これで車椅子が完成したわよ。これでもってリブロ王子の元に殴り込もうじゃないのよ。私は静かに燃えるのだった。
それに、この車椅子がちゃんと動くかというのも問題である。魔法を込めたとはいえども、ちゃんと使えるものであるかというのはまた別の問題なのである。
「ギーモさん、これと同じ椅子は他におありで?」
「それは、ございますとも」
私が尋ねれば、ギーモはもう一脚出してくれた。そちらは大した飾りもない質素なもので、見るからに試作品と言えるような状態だった。
「こちらは、本品を作るために試作的に組み上げたものになります。なにぶん初めて見るものでしたので、一度試しに作ってみないとという事で作った物でございます」
ギーモはそう説明していた。なるほど、製品を作るためのプロトタイプというわけである。だけども、私としてはこれは実に助かるというものだった。
「モモ、ちょっと試してもらえないかしら」
「えっ、お姉様?」
私が声を掛けると、モモは体をびくっとはねさせて戸惑っていた。
「アンマリアお嬢様、それでしたら私が……。モモお嬢様には無理はさせられませんから」
見かねたスーラが申し出てきた。まあ、私としては実験ができればいいから別に構わないか。
というわけで、私は収納魔法から袋を取り出した。
「スーラ、そっちの簡素な試作品の方を使って、車椅子の試運転を行いたいの。まずは左右の椅子の手すりにあるくぼみに、この石をはめ込んでくれないかしら」
「承知致しました。……これは面白い魔石ですね」
スーラは私から魔石を受け取ると、不敵に微笑んでいた。なかなか見ない侍女の顔に、私は一瞬息を飲んだ。
スーラが椅子の手すりに魔石をはめ込み、そして椅子に座る。
「まず、何も考えないで魔石に魔力を流してちょうだい」
私がそう言うと、スーラはそれに従って魔力を流す。そうすると、椅子は地面から10cmほど浮き上がった。この10cmというのは標準の高さであり、魔力を追加すれば高さを調節できるようになっている。
「すごい、椅子が浮いているわ」
ものすごくスーラが感動している。
「私が試せればよかったんだけど、見ての通りの体型だから椅子に座れなくて、本当にごめんなさいね」
「いえ、アンマリアお嬢様。私は今、猛烈に感動しています」
この世界には空を飛ぶという概念がなかったのだろうか。椅子に座っているとはいえど、宙に浮いている事に感動をしているようである。スーラの目が輝いているのがよく分かる。
「おほん、ではスーラ、魔石に手を置いたまま、動きたい方向を念じてもらえるかしら。魔石に込めた魔法が正常なら、ちゃんと動けるはずですから」
「畏まりました、アンマリアお嬢様」
こくりと頷いたスーラは、私やモモ、それにモモの侍女とギーモが見守る中、試作品の車椅子を操縦する。
魔石に込めた魔法の通りなら、指定しないならひとの歩行速度より少し遅いくらいに車椅子は前後に動くはずである。これも込める魔力量によって速度は変わるようにしてあるけれども、私はあえてそこは説明していない。
「すごい、まるで自分の足で歩いているように移動できますね。左右への旋回もスムーズです」
予想以上にちゃんと動いている。スーラもそこそこ魔法の扱いに慣れているので、問題はなさそうだった。
「では、モモの侍女さんもいかがでしょうか」
私は話をモモの侍女に振る。そういえば、彼女の名前って何て言ったかしら。
「む、無茶はしないで下さいね、ネス」
「はい、モモお嬢様」
あ、ネスって言うのね。モモが太もも由来の名前だから、その下の脛ってわけね。なんて名前なのよ。
……と思ったけれど、自分の侍女の名前はスライス、薄切り肉由来だったわね。なんて飯テロなネーミングなのかしら……。
それはともかくとして、モモの侍女であるネスはスーラと交代して椅子に座る。本人に少しでも魔力があれば扱えるようにしてあるから、彼女の魔力が大した事なくても問題ないはず。私は息を飲んでその様子を見守った。
結論から言えば、まったく問題なかった。直前にスーラが操っていたというのもあるけれど、ネスもそれは巧みに車椅子を操作していた。うちの侍女たちは素晴らしいわね。
「お姉様、これを一体どうなさるおつもりなのですか?」
モモが私に車椅子を作った意図を尋ねてきた。いや、侍女たちに動かさせたのを見ても分からないものかしらね。
「それはね、足の動かない人でも自由に出歩いてもらうためよ。魔力はほとんどみんなに備わっているものだから、魔力さえあれば自由に動き回る事ができるの。素晴らしいと思わない?」
「ええ、実に素晴らしい事だと思います」
私の説明に間髪入れずに反応するスーラ。ちょっと、今はモモに話し掛けてるんですけど?
「なるほど、そういうわけなのですね。素晴らしいですわ、お姉様」
モモが私の両手を持ってぶんぶんと上下させている。可愛いわねぇ。私は優しい微笑みで、黙ってモモの頭を撫でておく。それに対してモモは顔をふにゃっとさせて喜んでいた。
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