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第三章 学園編

第77話 魔力循環不全

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 正直なところ、少なくとも3年間は患っていたので、そこそこ症状は深刻になり始めていた。
 私の鑑定魔法によってリブロ王子の病状が判明する。

『魔力循環不全』

 体内を巡る魔力の循環が、何らかの原因で狂ってしまう事で起こる少々深刻な病気である。
 その症状は様々で、魔法がほとんど使えないだけで済むものから、体内に魔力が溜まり過ぎて生活に支障が出てしまうもの、最悪の場合は数か月から数年で死に至る可能性だってある。
 目の前のリブロ王子の症状を見るに、重篤な方に近かった。まるで廃人のような表情をしているのだ。これでは表舞台に立つ事ができるわけもなかった。
(困ったわね。私はゲームをやり込んだとはいっても、この病気自体はこっちに来てから知った事だもの)
 正直、前世知識だけではどうにもなるような事ではなかった。でも、このままではリブロ王子が死んでしまう可能性がある。私はどうにかしてこの状況を打破しようと考え始めた。
(魔力循環に問題があるのなら……)
 そこで、前世でたびたび出てきたとある方法を思い出した。WEB小説なんかで出てくる、魔力循環を感知させる方法、それを試してみる事にしたのだ。
「リブロ殿下、失礼致します」
 私がリブロ王子に近付くが、まったく反応を示さない。かなり精神的にも体力的にも大きなダメージが蓄積しているようだった。
「何をするつもりだ、アンマリア」
「私の魔力を使って、リブロ殿下の魔力の正常化を図ります。リブロ殿下の中では魔力が変な形で滞留してしまっています。よくここまで持ちこたえていたと思います」
 おそらく、狂い始めてから軟禁されて、無気力になったのだろう。その事がかえって症状の悪化を停滞させて、今まで無事だったと推測できる。
 私はリブロ王子に近付いて、その両の手を取った。リブロ王子はまったく反応を示さなかった。もはや植物人間のようで、本当に痛々しい姿だった。
 私がゆっくり魔力を流し始めると、その状態にとても驚いた。魔力がまったく動いていないのである。これでは魔法がまったく使えない状態だし、精神的に崩壊してしまうのも分かる。この世界の魔力というのは、精神的に影響が大きいようなのだ。
 だけども、私は諦めなかった。こんなところでリブロ王子を社会から、いえ、人生からも退場させてなるものですか。学園においてもフィレン王子の様子が少しおかしく感じたのは、このリブロ王子の状況があったからなのだと、私はようやく知る事ができた。あまり他人に感じさせなかったあたり、フィレン王子は王族として頑張ってきたんだというのがよく分かる。とはいえ、まだ13歳と幼い王子に、これ以上の無理をさせてたまるものですか。さあ、戻って来なさい、リブロ王子。
 私は無理をしないように、リブロ王子の魔力に少しずつ働きかけていく。それと同時に、体に対して回復魔法も施していく。どう考えたって食事もまともに取っていないはずだ。だからこその回復魔法である。
 私の後ろでは、フィレン王子が祈るような感じで私たちを見守っていた。
(うぐぐぐ……、魔力の経路が固すぎる。さすがにこれは骨が折れるわ……)
 さすがに数年間は使われていなかっただろう魔力である。完全に固まってしまっていて、本当に生きていた事が疑問に思えるレベルだった。言ってしまえば、全身の血液の凝固と近しいレベルの話なのだから。
 こうなれば、無理に全身の魔力を動かすよりも、最低限の魔力循環を復活させる方がいいだろう。血液と同じで胴体と頭部の魔力循環が重要なので、それに絞って再度挑戦する。この部分だけでも解消できれば、命の危険は遠ざかるものね。
 本当は全身の魔力循環を回復させたかったけれど、さすがに発見が遅れすぎた。特効薬や治療薬があればいいんだろうけれど、状況は一刻を争う。私はとにかく、リブロ王子の魔力循環を回復させるべく、リブロ王子の両耳に手を当てた。
 固まってしまっているからこそ、慎重にゆっくり丁寧に魔力を注いでいく。すると、手に触れていた時よりも魔力にいい反応が見られた。
(少しずつだけれど、魔力が解れていくのが感じられるわ)
 さすが生命維持に必要な場所の魔力らしく、他に比べれば凝固具合が緩かったようだ。
「おお、頬に赤みが出てきたぞ」
 フィレン王子がその様子を見て声を上げる。
 私は後ろに立っているせいで見えないけれど、どうやらリブロ王子は回復し始めているようだった。
 それにしても、この凝り固まり具合は酷いものだ。どうにか頭部回りの凝りは解決したけれど、これだけで1時間とか掛かりすぎでしょうに。
「あ、に……うえ?」
「おお、リブロ。そうだ、私はお前の兄だ」
 リブロ王子が言葉を発する。だが、まだまだ治療中である。私はこのまま治療に集中する。状況はまだ予断を許さないのだ。
「フィレン殿下。まだ治療は続きますので、御用などあるようでしたら、私に気を遣わないで下さいませ」
「何を言う。弟の一大事だというのに、側で見守らぬ兄など居てたまるものか!」
 今まで放置してきておいてそれを言うのか。私はそう言いかけたが、症状は分からなかったし手の施しようもなかったから、途中でそうなってしまうのは理解できる。だから、ぐっと言葉を飲み込んで、さらに治療に集中する。
 さあ、ここからが正念場ですわ。
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