上 下
74 / 500
第三章 学園編

第74話 世の中は理不尽でできている

しおりを挟む
 フィレン王子の誕生パーティーまでは結構日数があるので、エスカと出会うのは相当に先の話なのだ。とはいえでも、それまでに王子にプレゼントする物は決めておきたいし、少しでも痩せておきたい。その考えもあって、とにかく私は燃えていた。この勢いで脂肪も燃えてちょうだい。
 その一方で、サキとは争うつもりはないので、誕生日プレゼントは彼女と相談しようかしら。そういえばテトリバー男爵領は小麦の生産地でしたっけ。だったら、手料理というのがいいかしら。近いうちに相談しましょう。
 そういうわけで、私はとにかくフィレン王子の誕生日で少々食べ過ぎてもいいように、時間を見つけてはひたすら運動をこなしていった。断罪ルートは絶対嫌だもの。これだけは絶対回避、これが最優先事項よ!
 しっかりと目標を持った私は、そのために毎日をまい進する。
 魔道具に関しては、学生となった以上は以前ほどの時間は取れなくなってしまった。しかし、魔石ペン、魔石コンロ、魔石ストーブ、魔石灯とできただけでも、だいぶ生活は変わったと言える。魔石の需要が上がり、冒険者たちの生活も潤うようになったし、とりあえずいい事づくめね。
 魔道具のアイディアは求められるけれど、それを伝えた上で実現できるかどうかというのはまた別問題。私はその点で現状魔道具の開発はストップさせている。私以外の人間が再現できなければ意味がないんだもの。私は学生だし、このままなら将来は王妃か公爵夫人なのだから、その辺の教育にも時間が多く割かれてしまう。到底魔道具の開発をするような時間が取れないのよ。それに、痩せなきゃいけないしね。
 これらを話せば両親はおろか、モモやスーラまでもが残念そうな顔をする。やめて、そんな顔をされても私にはそんな時間はないのよ。
 しかし、こういう言い訳をしようにも、庭いじりをする上に料理まで作っているのだから言い訳が立たなかった。なんでよ。
 庭いじりは運動の一環だし、料理は痩せるためには必要なのよ。栄養バランスを考えないと、本当にブクブクと太ってしまうのだからね。魔道具を作ってても痩せてくれないのよ。むしろ恩恵を受けまくって逆に太っちゃうんだからね!
 厄介な事なんだけれども、恩恵が魔力変換されて、それが過剰になると以前のように脂肪に変換されるのが今の私の状態なのだ。こういう仕組みだからと言っても魔法をむやみやたらに使うわけにもいかず、魔法を使う魔道具を作れば人々に寄与したとしてさらなる恩恵を集めてしまう。だから、魔道具を作るというのは結局は痩せる事に繋がらないのだ。だからこそ、私は運動や食事に力を入れているというわけである。本当に面倒くさい。
 同じ理由で、魔物退治で派手に魔法を使うわけにもいかない。瞬間移動テレポートでテッテイやクッケン湖に飛べるとはいっても、魔物を倒せばそれでまた恩恵を受けてしまう。下手をすると使った魔力以上に恩恵で回復してしまい、これまた太る可能性を秘めているのだ。私には八方ふさがりの苛立ちが募っている。
 こうやってイライラした時は、おいしいものを食べるに限るわよね。というわけで、私は今日も屋敷の厨房に姿を見せていた。料理を作るのにも鍋以外の料理器具が要らないもの。下手をすると鍋すらも要らない。ただ、空中でシチューが煮込まれる光景はシュールだもの。保存の事を考えるとやっぱり鍋は必要なのよ。自分一人で食べるわけじゃないものね。
「いやあ、アンマリアお嬢様の発想には敬服致します」
 そう話すのは料理長のアラブミである。私の作ったレシピはすべて彼に教えており、今ではサーロイン王国内なら屈指の料理人なのではないだろうか。
 砂糖や油を減らした上でおいしく食べるレシピとか、私の持ちうる知識を最大限に活用していろんなレシピを開発してきた。そのかいあってか、両親ともに体型はほぼ標準に近付き、モモはとても血色の良い美少女となっている。
 実はモモにも結構婚約の申し出が届いているらしい。モモの目には触れさせてはいないものの、母親が一生懸命選定しているとの事。モモは婿を迎えるのか、それともどこかに嫁ぐのか。後者なら家を継ぐ者が居なくなっちゃうから、これはどっちかいうと避けたいわね。
 ああ、そういえば、入学からしばらくするとゲーム内ではいろいろとイベントがあったんだけど、全部華麗にスルーさせてもらったわ。それどころじゃないんだもの。それに、人間関係が変化しまくっている今なら、そんなものを気にしているとかえって関係が破綻しちゃうからね。(イベントが)無視されるのも仕方がないって話よ。
 そこまで思ったところで、私はふと思った。
(あれっ、リブロ殿下の誕生日っていつだっけ?)
 まったくもって失念していたリブロ王子である。過去に誕生日を祝った記憶がないし、誕生日パーティーが開かれた記憶もないのだ。
 この疑問を解明するべく、私は学園が休みの日を使って王宮へ出かける事に決めたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?

tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」 「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」 子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています

如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」 何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。 しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。 様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。 この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが…… 男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。

処理中です...