伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

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第三章 学園編

第72話 幸せと脂肪と断罪と

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 スマホの一件は無事に終わったのだけれども、本当にエスカには文句の一つも言いたいものである。フィレン王子の誕生パーティーには出向くみたいな事が手紙には書いてあったので、愚痴はその時までお預けである。
 ともかく私は痩せる事を目標に日々を頑張っている。なにせ、すでに一週間経っているというのに、ステータス表示は相変わらずの120kg。体重が増えていないのでまだマシという感じ。以前なら一週間もあれば1~2kgくらい平気に増えていたんだもの。
 私はステータスを確認する。

『アンマリア・ファッティ 女性 13歳 120kg
 13歳になったために、恩恵は魔力へと変換されます。過剰に溜まらないように注意が必要です』

 恩恵、というかいわゆる徳のようなものだろう。学園に入学した事で魔力への変換に切り替わったものの、過剰に溜めるとよくないというような表記が気になる。多分、太るって事よね?
 つまり、魔力は増えるけれど限度はあるよという事だ。ならばその魔力を定期的に放出してやればいいという事だろうと、私は考えた。多分、ゲームでも思うように体重が落ちなかったのは、恩恵を溜めやすいというこの体質が原因なのだろう。だからこそ、水ですら太るという現象が起きたと考えられる。……地味に納得できるわね。
 というわけで、私は魔力の溜まりを放出するために、今日も魔法の開発をしていたりする。
 転移魔法に収納魔法、これだけでもかなりの魔力を消費する。それでも太り続けていたのだから、私にはどんだけの魔力があるというのだろうか。転生者チートを考慮しても明らかにおかしい。本当にこの先痩せる事ができるのか、自分自身の事ながらに疑心暗鬼になってしまう。
(はあ、憂鬱になってくるわねぇ……)
 私は朝からため息を吐いて、スーラに心配されながら学園へと出向いた。

 私のクラスは魔法系で、地味に攻略対象が一人も居ない。その代わり、ライバル令嬢たちはサクラ以外が全員揃っている。かといって、攻略対象が全員武術系かというとそうでもなかった。文官コースという特殊なクラスもあり、カービルとタカーの二人はそのクラスに属していた。ゲームではそういう細かい描写がなく、すべてがご都合主義だった。これでは頭お花畑のアンマリアになっていたとしても、まともにゲームの再現はできないでしょうね。やはりリアルはクソゲーである。
 だけれども、私はそろそろ決断をするべきだろうか。婚約者という枠に収まってはいるものの、私はフィレン王子とリブロ王子のどちらかを選べてはいないのだ。話を聞く限り、サキも同じようにどちらかは選べておらず、お互いにどっちになっても対応できるようにあらゆる事を学んでいる状態である。まあ、学園卒業までに決断できれば問題はないだろうけれど、正直これでいいのか悩ましくなってくる。
 昼休みにフィレン王子と食事をする事ができたので、直接聞いてみる私。そしたらば、
「それでいいと思いますよ。別に急ぐ話でもありませんし。今は学生なのですから、勉学を頑張りましょう」
 笑顔でこう返されてしまった。こう言われてしまってはもう何も言えねえ。私はすっぱりそれで納得する事にした。
 でも、フィレン王子にこう言われた事で、私の気持ちはずいぶんと軽くなった気がする。
 それにしても、フィレン王子はまん丸に太った私を見ても、笑顔で誠実に対応してくれている。ゲームでは太ったアンマリアにそこまで丁寧に対応してくれていた記憶はない。やはり、現実となった今は婚約者になっている事が影響しているのだろうか。今のままなら太ったままでもフィレン王子と添い遂げられそうだけれども、私自身が今の体型を嫌っている。目指せ健康優良児!
 とにかく目指すのはフィレン王子ルートである55kg以下。最低ラインがちょいぽちゃだけれども、2年間で半分以下だから、正直気が遠くなる数値である。運動以外にも積極的に魔法を使う必要がありそうだ。
 そして、何よりも気を付けなければならないのがドーピングルート。これの出現だけは絶対避けなきゃいけない。
 その出現条件は、2年目開始時点で100kg以上。最低でも20kg落とす事ができれば、このドーピングルートは回避できる。このルートを出現させてドーピングアイテムを手に入れてしまえば、それ以降は断罪ポイントが発生するほぼ破滅のルートとなってしまう。これだけは絶対避けなければならない。
 とにかく、私の立場は非常に薄氷の上に立っている状態といって差支えがなかった。断罪ルートの完全回避までは20kg減だけど、その20kg減を阻むのが私に与えられた恩恵である。その恩恵がなければファッティ家は没落すらあり得るくらい、恩恵が重要なものである。この恩恵は溜めすぎると魔力変換の許容を超え、幼少期のように脂肪へと変換されていくのだ。私の幸せは、この絶妙かつ複雑なバランスの上に成り立っている。もはや無理ゲーですらあり得るのだわ。
(はあ、ゲームならプレイしないという選択肢が取れるけれど、現実だからそうもいかないのよね。貴族としての立ち位置もあるから、本当に面倒だわ……)
 物語の強制力で、ダイエット令嬢としてのルートを確定付けられた私の戦いが、遅ればせながら始まったのだった。
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