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第三章 学園編

第69話 体は大人、頭脳は子ども

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「口を慎んで下さいませ、アーサリー殿下」
 私は巨体を活かし、アーサリーを睨んで言う。さすがに120kgの巨体から放たれる睨みはなかなかにきついのか、アーサリーが怯んでいた。
「な、なんだその目は。不敬だぞ」
 怯みながらも精一杯意地を張ってみせるアーサリー。顔色が悪いですわよ?
 だけど、そんな言葉で怯むような私ではありませんよーだ。
「お言葉ですが、先に不敬を働いたのはアーサリー殿下です。自国内ならまだしも、ここはサーロイン王国です。お言葉にはお気を付け下さいませ」
 私は冷静な顔で、アーサリーにお小言を言う。そのアーサリーは悔しそうに睨んでいるものの、私はそこへ容赦なく追い打ちを掛ける。
「エスカ王女殿下に、今回の事はご報告させて頂きます。エスカ様からはアーサリー殿下の挙動を全部ご報告するように承っておりますから、ええ、すべて正直にご報告させて頂きますわ」
 私はエスカに報告するという事を殊更に強調してアーサリーに言い放った。すると、アーサリーの表情がどんどんと青ざめていくのが分かる。
 実は私はエスカとのやり取りで、アーサリーについていろいろ話を聞かされていた。もちろん文通でだけれども。
 その中でエスカは、アーサリーになんとか王子として自覚を持たせようとしていろいろ動いていたようなのだけど、結果は御覧の通り、まったくもって効果を発揮できていないようだった。どこをどうしたらここまで思い上がれるのか分からないわね。私はエスカの苦労を思うと、目の前のアーサリーに対して軽蔑の気持ちしか出てこなかった。
「こちらの学園に通われる最初の一年はよろしく頼みますとエスカ王女殿下から手紙を通じて直々に頼まれていますゆえ、私は遠慮致しません。覚悟して学園に通われますよう、ご忠告申し上げましてよ」
 私はにっこりと微笑んだ。その私を見て、アーサリーは震え上がっていた。失礼しちゃうわね。
「き、今日はこれくらいにしといてやる。俺の実力を見せつけて、必ずぎゃふんと言わせてやるからな!」
 アーサリーは捨て台詞を吐いて、その場から立ち去っていった。なんて典型的な小悪党なセリフなのかしらね。
「いやはや、彼は城で生活しているんだけど、ずっとあの調子なんですよ。使用人の中にはうんざりしている者も居るようで、これが3年間続くと思うと、少し憂鬱になってしまいますね」
 いや、少しどころの話ではない気がする。わがままし放題で、しかも隣国の王子となると使用人の気苦労は計り知れない。私はその使用人たちに同情せざるを得なかった。
「本当、3年前と変わっていないどころか、酷くなってますものね。妹であるエスカ王女殿下の苦労が目に浮かんで見えますわよ……」
 同郷のよしみとして、本当に苦労を労いたくなる気分である。ようやく兄を目の前で見なくなったと思ったのに、異国の地で無事にやっているか今も気を揉んでいるでしょうね。どうしてここまでまったく成長していないのか。成長したのは図体だけとは恐れ入る。
「お姉様、よく意見を申せましたね」
「これでもフィレン殿下やリブロ殿下の婚約者ですもの。王子に意見を言えなくてどうするというのですか。間違っているのならそれを正すのも立派な役目なのですわ」
 怯えるモモの言葉に、私はきっちりしっかりはっきり答えた。あんなくず王子に怯んでなんていられない。私には激やせするという大目標があるのだから。自滅の道よりはるかにまだ安全なのである。向こうにはエスカも居るのだ。アーサリー一人の暴走など、どうにでもできるはずよ。
「あれが隣国ミール王国の王子ですか。あの程度なら、私の筋肉の前には無力です。お任せ下さい」
「え、ええ。期待してますよ」
 サクラの申し出に、フィレン王子が引いていた。ボディビルダーでもないのに無駄にポーズを取りながら話をするから、引いちゃってるわね。あなたもどうしてこうなったの世界よ……。
 筋肉に全力投入したばかりに、乙女としての何かをどこかに落としてしまったようである。いくら辺境伯令嬢だからといっても、限界がございませんこと?!

 という感じで、学園生活の初日から濃い一日でしたわ……。
 ゲームには登場しなかったミール王国。そこからやって来たわがまま王子が加わった事で、幼少時の出来事で安定ルートと思われていた私たちの学園生活は、雲行きが怪しくなってきた。
 このわがままな俺様王子の登場で、初日からどっと疲れた気がするわ。
 自国王子の婚約者としてつい意見せざるを得なかったけれど、あの分ならいろいろやってきそうな気がする。私自身だけならどうとでもなるけれど、さすがに周りにとばっちりが行くのは避けたいところだわ。
 とにかく、フィレン王子やエスカと連携を取りながら、どうにかこの俺様王子の暴走を食い止めなければならない。思わぬ当面の問題に、私はひたすらため息が途切れなかった。
 私は自分の体重で軋むベッドの音を子守歌にしながら、その日は眠りに就いたのだった。
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