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第二章 ゲーム開始前

第66話 未知なるルートへ

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 国王へのお披露目が流れてしまった魔道具は次の通り。

・円盤型魔石の発熱魔道具、いわゆるストーブのようなもの
・その発熱魔道具からの応用で、光を放つ球形魔石を使った照明器具

 この二つを提出予定でしたのに、国王が慌てて出ていったので渡せなかった。仕方ないので、帰りの馬車に乗せられた時に、説明書を添付して父親に託しておいたわ。
 それにしても、あの国王の慌てようを見る限り、本当にサーロイン王国とミール王国は仲はさほど良くないと見た方がよさそうである。厄介者がやって来るから対策を立てるって感じかしらね。
 まあ、実際のところ、アーサリー王子は厄介者と見てもいいでしょうね。ものすごく偉そうでしたし、転生もので見る俺様系の愚かな王子そのものって感じでしたもの。
 その一方で、エスカ王女はさすが転生者という事もあって、かなりできた方でしたわね。兄に対してもしっかり注意できてましたし、私たちへの対応もしっかりできていたもの。ああ、学園で一緒になる日が楽しみだわ。とはいえ、私は10歳、エスカは9歳なので、早くても3年後の話なのである。まだ先が長いというものである。その3年後の私は、一体どんな体形で彼女の前に立っていられるというのかしらね。そちらもまた楽しみなのである。
 それからというもの、私はモモと一緒に淑女教育を頑張った。それと並行しながらいつもの通りに庭いじりをしたり、魔石を使った魔道具の製造に勤しんだり、他の令嬢たちとの交流も試みた。特にライバル令嬢たちとの交流は積極的に行った。
 王子たちとの婚約が結ばれている現状では、フィレン王子ルートかリブロ王子ルートがほぼ確実視されいたわけだけど、隣国のミール王国からアーサリー王子やエスカ王女が学園に留学してくるとなると、ゲーム本編にはまったくなかった事なのでどうなるのかまったくもって想像がつかない。正直妙な不安が襲い掛かって来るまである。
 エスカは転生者だからそこまで面倒起こさない程度に弁えてくれるだろうけれども、アーサリー王子についてははっきり言って不安しかない。なにせ典型的なわがまま王子なのだから、そりゃもう怖いとしか言いようがないのだ。
(はあ、ゲームからすればイレギュラーすぎるから、私の持つゲーム知識がまったく役に立ちそうにないわね。まったく困ったものだわ)
 私は時折ため息を吐くようになっていた。自覚はなかったけれども、スーラやセンマイたちからの指摘で発覚した。そこまで酷かったかしらね。
 そういった指摘があったせいか、私は早い段階で魔石の加工魔法を他人に教える事にした。ボンジール商会のお抱えの魔法使いでも居ればよかったのだけれども、残念ながらそういう人は居なかった。私ほどの魔法の技術を持ちえる人物など、そうそう存在していないのだった。思いの外時間が掛かってしまったので、結局これに関して諦めるしかなかった。
 こうなってくると時間が足りなさすぎる。学園に入学以降の対策に時間が割けなくなってしまう。
「お姉様、大丈夫ですか?」
 私があまりにも思いつめた表情をしていたようで、モモが心配になって声を掛けてくれる。
「大丈夫ですわよ。ちょっとやる事が多くて悩んでいるだけですから」
 私はそれに心配要らないと答えたが、いかんせん答え方が悪かった。安心させるつもりが、かえってモモを心配させてしまっていた。悩みを抱えているなんて、どうしてそんな事を口走ってしまったのかしら。
「お姉様、私に手伝える事はございますか? そんなに悩みがあるのでしたら、少しでも軽くして差し上げたいのです」
 モモが私に近付いて座り込んでしまった。そして、瞳をうるわせながら上目遣いで話し掛けてくる。うう、私ってこういうのに弱いのよね。
「それでしたら、モモ。魔道具作りの一部を手伝ってもらえるかしら。魔石に魔力を込めて変形させていく作業よ」
「分かりましたわ、お姉様。私、できるように頑張ります」
 私が試しにと、モモの得意な火属性の魔法で作れる発熱魔道具の要である魔石作りをお願いした。それに対してモモは、拳を握って了承していた。その姿は頼もしい限りである。
 モモにその魔石の製作を頼むと、努力のかいあってか、たったの一週間で魔石を円盤状に変形させて発熱魔法を仕込む事をマスターしてしまった。気合いってすごい。試しに魔力を流してみたら、ちゃんと発熱していた。まあ、少し前に発熱魔法自体はちゃんとできていたので、実質新規に覚えた事は魔石の加工だけだけど。
 それにしても、変形といった魔石の加工は、魔力の属性に関係なく行えるという事が判明したのは大きかった。ただ、どの程度の魔力が必要なのかは要検証といった感じだった。とはいえ、モモの魔力はそう強くはないので、これは夢の広がる発見だった。
 こうして私は、モモたち身内の協力を得ながら、静かにその時を待ち続けた。

 そして、私たちはいよいよ学園に通う13歳を迎えたのである。
 すでにゲームとの相違点がたくさん存在するものの、私たちの将来を決める3年間がいよいよ始まるのだった。
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